ダンジョン実習③
「ライトニング・エンチャント!」
青龍の剣に雷のエンチャント魔法を施し、体に激しい雷の魔力を纏う。
そして高速で動き距離を詰めると、目の前の魔物を剣で切りつけた。
魔物の名前は、『カブトキング』。
大きなカブトムシのような魔物で、Bランクの魔物だ。
硬い装甲で覆われた体は鋼の硬度に達し、圧倒的な防御力を誇る。
生半可な攻撃では傷1つつかないらしい。
だがそんな装甲等、わたしの剣の前では意味をなさない。
振り下ろした剣は、相手の装甲をバターのように切り裂き一撃で沈めた。
ダンジョンに入って2時間弱。
ようやく、ここのボスを倒すことができた。
「さすが、メイ様。見事な一撃です。」
傍で見ていたカリンは、目をキラキラさせて近づく。
「まあ相手は所詮Bランク。こんなものでしょう」
わたしは剣をしまうと、カリンに笑顔を向けた。
クリアまで2時間弱、平均的な時間であり決して早くはない。
なぜこんなに時間がかかってしまったのか・・・それは、わたしとカリンはミルロのように探知魔法を使うことができない、その為、ダンジョン内で次のフロアに続く階段を探すのに苦労してしまったからだ。
実は今まで何度かこっそりとお城を抜け出して、ミルロとダンジョンに行ったことがあった。
2人でBランクのダンジョンもクリアしたことがあるので、今回も楽勝だと思っていた。
だが思っていたよりも時間がかかり、わたしの心は沈む。
今度、ミルロに探知魔法を教えて貰おうと心の中で反省していた。
それから、わたしはそっと後ろに立つジークを覗き見た。彼が道中何か仕掛けてくるのか警戒していたものの、特に何もしてこなかった。
ただ本当に何もしておらず、彼はずっと無言で後ろを着いてきただけだ。
わたし達は3人パーティーだったのだが、実質カリンと2人でクリアしたことになる。
しかし、時折後ろから刺すような視線を感じており、
気が気でなかった。
ダンジョンをクリアしたので、やっとこの苦痛から開放されると思い、わたしはほっと一息吐く。
すると後ろに立つジークは、わたしとカリンの間を無言で抜けると、背を向けて出口に向かって歩き出した。
出口はボスモンスターを倒すと出現する、紫色の渦のようなものだ。
その渦に触ると、ダンジョンの入口まで転送してくれる仕組みになっている。
ほんと感じ悪い人ね。
出口に向かって歩くジークの背中を眺めながら、わたしは心の中で毒づいた。
だが仮にも彼は王族なので、顔に出さないように気をつける。
ただ、隣に立つカリンはそんなこと気にせず、彼を強く睨みつけていた。
わたしとカリンがジークを見ていると、彼は出口の前で立ち止まった。
そして回れ右をしてわたし達の方を向く。
ちょうど、わたし達から出口を塞ぐような立ち位置だ。
「くっくっく。メイ=ウィシュタリア。お前は本当にムカつく奴だ。目ているだけで、忌々しい」
すると彼は口を開き、わたし達に向けて話し出した。
「貴方!メイ様に対して無礼ですよ。これ以上続けるなら、わたしは貴方のことを許すことができません」
カリンはジークの言葉に怒りを浮かべると、手に持つ槍を構えて、ジークに対して臨戦態勢をとった。
「カリン!止めなさい」
ここで争うべきではない。
わたしはカリンに対して、静止を促す。
だがカリンはわたしの言葉に対して、大きく横に首を振る。
「メイ様、王国の人間としてわたしは彼の言動と態度を許すことができません。」
だが、カリンの言葉と態度に対して、ジークは無視して話を続ける。
「第2位が居ないのは残念だが、お前たちはここで始末してやる。これを見ろ!」
ジークはそう言うと、懐から拳大の大きさの黒い宝玉を取り出した。
「なによ!これは?」
カリンは取り出した物に対して、質問する。
だが、それを見たわたしは恐怖で身がすくみ絶句した。
その宝玉には、今まで見たことの無い禍々しいオーラに満ちていたからだ。
この宝玉は危険だ、わたしは直感する。
「これは地獄の宝玉だ。そしてこれを見よ!」
「貴方!何をするつもりですか?」
ジークの言葉に対して、わたしの悲鳴のような声が響き渡る。
だが、遅かった。
ジークはなんとその宝玉を強く地面に叩きつけたのだ。
宝玉は粉々に砕け散る。
「カリン逃げるわよ」
わたしはカリンの手を取り出口に向かおうとしたその時、大きな衝撃波が巻き起こった。
その衝撃波に巻き込まれ、わたしとカリンは大きく後ろに弾き飛ばされる。
「大丈夫ですか?カリン?」
「はい。なんとか」
なんとか受け身をとり、わたし達が立ち上がろうとした時、目の前に現れた者に息を飲んだ。
砕けた宝玉から紫色の霧のようなものが噴き出し集まると、大きな人型の魔物の姿を形作ったからだ。
そして暫くして霧が晴れると、そこには5メートルはあろう大きな人型の魔物が立っていた。
全身が闇のように黒く、額には大きな1本の角が生えている。
口は大きく避けて、目は血の様に赤い禍々しい姿だ。
さらに、全身が鎧のようなものに覆われ、右手には5メートルはあろう大きな大剣を持つ。
体中には何か紫色のオーラのようなものを纏い、黒い宝玉を見た時に感じた嫌な感じを受けた。
「私は魔人『バルデス』。私を呼び覚ましたのは誰だ?」
すると現れた人型の魔物は、魔人バルデスと名乗り話し出した。
その声は地獄の底から響くように低く禍々しい。
その声に対して、隣に立つジークは嬉しそうな声で答える。
「お前を呼び覚ましたのは、この俺だ。さて主として命令する、目の前にいる女共を殺せ!」
「な!?」
その言葉に、わたしとカリンは警戒を強める。
だが、魔人バルデスはジークの言葉に応えなかった。
突然、手に持つ大剣を振り上げたからだ。
同時にジークの右手が切断され宙を舞う。
わたしはなんとかその攻撃が見えた。
だが、カリンとジークは見えなかったようだ。
二人とも呆気にとられて、立ちすくむ。
そして遅れて切られたことがわかったジークは大きな悲鳴と共に地面に倒れこんだ。
「ぐわー。なぜだ?俺はお前の主だぞ。この馬鹿ものめ!」
地面に倒れこんだジークはゴロゴロと転がりバルデスとの距離を取ると、右手を抑えながら突然切りかかってきたバルデスを睨み付けた。
だが、バルデスは涼しい顔で答える。
「私はお前如きの支配は受けない。私に命令できるのは、魔王様だけだ。本当は首を跳ねれば一瞬だったが、私を呼び覚ました褒美だ。腕だけで見逃してやろう。さっさと私の前から消えるがいい」
その言葉にジークは立ち上がる。
そして怒りの顔を浮かべると、バルデスに対して魔法を放った。
「魔物の分際で許さんぞ!テラ!ファイアーボール!」
直径10メートルはあろう炎の球を作り出すと、バルデスに向かって投げつけた。
激しい魔力が込められた強力な呪文だ。
薄暗いダンジョンの中が、その魔法が放つ光により昼間のように明るくなる。
しかし、バルデスはその魔法を回避や防御をとる様子もなく、まともに受けた。
魔法が命中すると大きな爆発音と共に、衝撃が起こり砂埃が舞う。
「どうだ、雑魚が!」
ジークは魔法が命中したことで、満足げな声と共に笑みを浮かべる。
わたしとカリンはそんな様子を唖然と見ているだけだった。
暫くして砂埃が止んだ。
だがそこには無傷のバルデスが立っていた。
傷はおろか埃1つついていない。どうやら全く効いていないようだ。
「馬鹿な・・・。俺の最強呪文だぞ」
その様子を見た、ジークから驚きの声が漏れる。
「愚かな!地獄で後悔するがよい。」
バルデスは、そう言うと再び剣を振り上げた。
狙いはジークの首。
ジークは相手の攻撃が見えていない。
この攻撃を受ければ、間違いなく死ぬだろう。
わたしはジークが嫌いだ。
なにかと理由をつけては、わたしにつっかかってくる。
はっきり言って、彼のわたしに対する執着心は恐怖だ。
そして、そもそもその原因を起こしたのは、彼自身である。
だが、わたしは彼を見過ごすことができなかった。
わたしは今まで魔物を倒したことはあるが、人の死を間近でみたことがない。
目の前で人が死ぬのは、たとえ嫌いな人でも嫌だった。
ライトニング・エンチャント!
そう考えた時、体が勝手に動いた。
剣を抜くと、高速で動きジークの前に躍り出る。
そして、バルデスの剣を受け止めた。
「な!?」
突然、現れたわたしに対して、バルデスとジークは驚きの顔を浮かべる。
わたしは剣で攻撃を受け止めながら、大きく声をあげた。
「この方はわたし一人で戦います。二人とも逃げて下さい」
わたしは魔人バルデスと対峙した。




