ジークの恨み
あれからジークは事ある事に、メイに突っかかった。
だが、そんな彼に対して基本マイペースなメイは、ノラリクラリと躱す。
そして、自分勝手に暴言を喚き散らし、いちいち授業を中断させるジークに対して周りから疎ましいと思われるのは、もはや必然であった。
さらに入学式の事件から、ジークの側近達は既に彼を見限っている。
学園の入学から1ヶ月経った頃には、彼の学年内と先生からの評判は地に落ちて孤立を深めていた。
ここは学園領内にあるジークの家。
ジークは帝国第2王子である為、メイと同じく寮として戸建ての家が与えられている。
そこにはジークとその使用人である執事1人が暮らしていた。
「くそっあの女ふざけやがって」
家に帰るや否や、ジークは激しい怒りをぶつけるように鞄を叩きつけた。
今日は魔法の実習があった。
相も変わらず、ジークはメイに突っかかったのだが、軽くあしらわれてしまったのだ。
「ジ・ジーク様・・・・そのお帰りなさいませ」
帰ってきたジークに対して、執事は震えながら挨拶を交わした。
「うるさい!俺に話しかけるな。」
だがそれに対してジークは怒りを浮かべると、執事の顔面を殴りつけた。
執事は鼻から血を流し、地面に倒れこむ。
あまりの痛みに、倒れ込んだ執事は立ち上がることができなかった。
その光景は、ジークが学園に入ってきてから日常茶飯事であった。
殴られた執事の体は全身痣と傷だらけ。
全てジークの八つ当たりによって付けられた傷だ。
執事は帝国貴族の3男で、ジークより年齢が2つ上。
彼は、ジークが小さい時から仕えていた。
そして、ジークが学園に入るまでは二人の仲はまるで兄弟のように仲がよかった。
しかし、度重なる暴行により、今やその主従関係は完全に冷め切っている。
執事の心の中では、完全にジークへの忠誠心が失われ、恐怖に支配されているだけだった。
そんなジークに対して、目の前で赤い光が輝くと、まるで火の玉のような精霊が現れた。
この子はジークの契約精霊の炎の精霊、名前は『オニビ』だ。
オニビは、はあとため息をつくとジークに注意を促した。
「ジーク。あんまり怒るのはよくないよ。メイといったっけ?もう彼女に付き纏うのはやめよう。君の為に、ならないよ」
だが、怒りに捕らわれたジークはオニビの言うことを聞かなかった。
怒りに任せて、精霊を怒鳴りつける。
「うるさい!俺はあの女が許せないんだ。いいいから黙っていろ」
オニビはジークの反応を見て悲しそうな顔をすると、それ以上何も言わず無言で姿を消すのであった。
「くそくそくそ、どいつもこいつも俺のことを馬鹿にしやがって、忌々しい」
ジークは部屋に戻ると、まだ八つ当たりを止めなかった。
彼は部屋で怒りをぶつけるように暴れまわる。
その為、部屋は物が散乱しボロボロのぐちゃぐちゃだ。
すると暴れていた彼の目に、机の上に置いてある物が目に留まった。
それは彼の見覚えのない物であった。
小さな箱に手紙が一つ添えられている。
「なんだ、これは?」
彼は部屋の前で、立ちすくむ執事に尋ねた。
執事の忠誠心は失われているものの、仕事には忠実な男であった。
その為、暴れまわるジークの様子を傍で見守っていたのだ。
話しかけられた執事は、ビクッと体を震わす。
それからオズオズと答えた。
「それは、今朝、家の郵便受けに入っておりました。ジーク様宛のお荷物だったので、一応机に置かせて頂いた次第です。」
「ふん、俺宛の荷物?」
ジークは訝し気に手紙を見つめると、確かに自分の名前が記されていた。
それから彼は手紙の裏を見る。
その宛名には、『黒の魔女』という文字が記されていた。
黒の魔女!?
ジークはその名前に聞き覚えがあった。
黒の魔女は、兄であるアークの友人で、いろいろ彼の力になってくれる人物であると聞いたことがある。
その正体は不明で、いつも黒装束を着て顔を隠している人物だとか。
わかっているのは女性であると言うことと、闇魔法を使う人物であるというくらいだ。
そして、彼女は有能でウィシュタリア王国の機密情報や強力な武器やアイテムの情報を提供してくれるそうだ。
アークが自慢気に、話すのを聞いたことがある。
そんな人物が俺に何の用だ?
ジークは訝しながら、手紙を開けて中身を読んだ。
そこには、こう記されていた。
親愛なるジーク様へ
突然のお手紙お許しください。
風の噂で、王国のメイ王女のせいでジーク様が不当な扱いを受けているとお聞きしました。
それについて、私は酷く心を痛めております。
メイは無能な王女で、引きこもりで知識や教養は全くありません。
彼女が1年生の序列1位であるのも、きっと何か汚い手を使ったのではないかと思っております。
そんなメイを一つ懲らしめてみませんか?
貴方にあるアイテムを送ります。
そのアイテムの名は、『地獄の宝玉』。
その宝玉には、ある強力な魔物が封じられております。
もうすぐダンジョン実習があると思いますので、そこでその宝玉をお使いください。
その魔物がきっとメイに対して、厳しい罰を与えてくれるでしょう。
ただ、1つお気をつけください。
その魔物の力は強大ですが、力のない者の指示は受け付けません。
ジーク様に限ってそのようなことはないかと思いますが、念の為、ご注意頂ければと思います。
無能な王女に鉄槌を!貴方の成功を祈っております。
黒の魔女より
ジークは手紙を読み終えると、小さな箱を開けた。
中には拳大の大きさの黒い宝玉が入っていた。
そして、その宝玉は禍々しい魔力を放ち、怪しい紫色の光をうっすらと放っている。
ただの宝玉ではない、その宝玉が放つ光には禍々しい力が込められていた。
それを見て、ジークは大きな笑いを浮かべた。
「黒の魔女、思ったより優秀な奴ではないか。面白い、この宝玉活用させて貰おう。」
宝玉を眺めながら、ジークは大きな高笑いをあげるのであった。
◇◇◇◇
入学式から10日の月日が流れた。
今日はダンジョン実習の日だ。
ダンジョン実習とは、1年生内で即席パーティーを組んで、一番簡単なC級ダンジョンに挑む実習だ。
ダンジョンにはS,A,B,Cの四段階の難易度が設定されている。
そして難易度が上がるほど、いいアイテムや物資が手に入るものの、階層が深く出てくるモンスターも強力だ。
また、上位のダンジョンには罠が多く設置されている。
学園内には数々のダンジョンがあり、C級ダンジョンもたくさんある。
今回の実習は、先生が生徒の実力や役割をバランスよく勘案した上でパーティー分けを行い、各パーティー毎にC級ダンジョンに挑むという内容だ。
実際のパーティーは、生徒達が自由に組むことができる。
だが、今回は先生がパーティー分けを行う。
それは、見知らぬ相手とパーティーを組ませることで生徒同士の交流をはかること、また、見知らぬ相手とも戦いのコンビネーションが取れるように練習することを目的にしている。
「それでは、今からパーティーを発表します。各自、名前を呼ばれたら前に出てきてください。」
演習場に集まった1年生に向かって、前に立つイングランド先生は生徒の名前を読み上げた。
メイ様の隣に立つわたしは、ドキドキした気持ちを押さえ名前が呼ばれるのをじっと待った。
どうか、メイ様と同じパーティーになりますように。
わたしの願いはそれだけだった。
だが、わたしのその願いは無残にも打ち砕かれるのであった。




