退学処分②
ミアさんはやさしい人だ。
わたしはミアさんの発言に強く心を打たれる。
相手はミアさんを殺そうとした人達だ。
もし、被害者がわたしだったら彼らに厳罰を望むであろう。
そして、ミアさんの話を聞くまでは、わたしは退学処分が当たり前だと思っており、それを望んでいた。
だが、ミアさんはそれを選択しなかった。
そればかりか、彼らの未来のことを考えて今後新たに学ぶ機会を与え更正させようとしたのだ。
ミアさんの考え方に感服すると同時に、わたしの思慮の浅さを痛感し恥ずかしさを覚える。
「ミアさん、貴女の考え方はわかった。わしも教育者の端くれじゃ。彼らの教育の機会を奪うのは忍びないと思っておる。
貴方がそう望むのならわしらはその意見を尊重したいと思う。生徒のことを考えて頂き、ありがとうございます。」
そう言うと、学園長はミアさんに対して深く頭を下げた。
それにイングランド先生とゲルマン先生も習う。
そのやり取りに対して、メイ様が笑顔で発言した。
「ミア、貴女の考えは素晴らしいものです。ですが主として従者の命が脅かされたのです。その処分では軽すぎて納得できるものではありません」
え?わたしはその言葉に驚いてメイ様を見た。
お優しいメイ様なら、わたしと同じ考えでミアさんの意見をそのまま尊重すると思っていたからだ。
「なるほど、それではメイさんはどんな罰を望むのかね?」
学園長は顔を上げると、メイ様の真意を伺うように見つめた。
周りの視線がメイ様に集中する。
メイ様はそんな視線に臆することなく、堂々とした態度で答えた。
「加害者の方への罰はミアの意見で問題ありません。彼らのミアとの接触禁止、それでいいでしょう。後で契約書を交わしてもらいましょう。ですが、ジーク様への罰が全くないのは納得できません」
「はっ俺は何もやっていない。何も証拠がないんだ。俺はこいつらと無関係だからな」
ジークはメイ様の発言に対して、鼻で笑うとその発言を切り捨てた。
だが、メイ様は話を続ける。
「そうですね。この件に関して、貴方が指示した証拠はありません。」
「それ見て見ろ。証拠はないんだから俺は無関係だ。それに俺は誇り高き帝国王子だ。そんな侍女の命等どうでもいい」
ジークの言葉を聞いた、メイ様の目がキラリと光る。
嬉しそうにその言葉に同意して、念を押す。
「そう、そうなんですよ。貴方は誇り高き帝国王子。そうですよね?ジーク様」
「だからそれが何だと言うのだ。」
メイ様の言葉に対して、ジークは苛立ちを浮かべて言葉を吐き捨てる。
そして、そんなジークに対してメイ様は言い放った。
「加害者の方達は帝国貴族のご子息であり、王族である貴方の臣下です。そんな方達が罪を犯したのです。王家としてもちろん罪を償って頂けるのですよね?」
「なんだと!貴様言わせておけば」
その発言はジークにとって反論できないものだったようだ。
話を逸らそうと怒りを浮かべて、メイ様を怒鳴りつける。
だがその言葉を、学園長が制した。
「メイさんの言うことは最もじゃ。続けなさない。だが、あくまでも監督責任じゃ。退学等の重い罰は望めないぞ?」
「はい。わたしも心得ております。ですので、わたしがジーク様に臨む罰は、彼の序列3位からの降格を希望します」
「ふぉっふぉっふぉ序列の降格か、面白いことを言うのう。それにしても何故、序列なのじゃ?」
「はい。この学園では王族の身分以上に序列が重要な意味を持ちます。ですので、彼への罰として序列3位という上位の権利を一時的に剥奪して頂きたいのです。
それに臣下を監督できない今のジーク様の実力では、序列3位は不適格だと考えます。」
そして、メイ様は挑戦するように校長先生を見た。
対してジークは苛立ちを浮かべてメイ様を睨む。
校長先生は少し考える素振りをすると、嬉しそうに笑いだした。
「ふぉっふぉっいいじゃろう。序列1位の希望じゃ。ジーク君、臣下が起こした責任を取ってもらい、君の序列を13位に降格する。」
「馬鹿な!そんなことが許されるか。俺は認めないぞ。」
ジークは校長の決定に不服そうな顔を浮かべて、怒りの声をあげる。
それに対して、ゲルマン先生が言葉をかける。
「いいのか?ジーク。この処分を飲まないのなら、俺は徹底的にこの事件を調べあげる。人1人の命が脅かされたんだ、当然だな。
俺はお前が関与していないと思いたいが、本当に全く関与していないのか?
もし、今後の捜査でお前との関連性が見つかったら、退学は免れんぞ?それでもいいんだな」
ゲルマン先生の言葉にジークは押し黙る。
それを見たわたしは、沈黙を破り発言した。
「わたし、ジーク様が加害者の方達と一緒にいるところを見ましたよ?体育館の前で3人でミアさんを凝視していました。人が沢山居たので、目撃者がきっと居るはずです。」
「な!?」
その言葉にジークは絶句する。
わたしの言葉を受けたゲルマン先生は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「ミルロはメイ達の友人だから、俺はこの発言を鵜呑みにしない。だがもしこれが本当なら、関連性はすぐにわかってしまうだろうな」
「くっ勝手にしろ!」
ゲルマン先生の言葉にジークは青い顔をすると、吐き捨てる言葉を吐いて校長室を逃げるように後にした。
「校長先生、こうしてジーク様の同意も得られたことですし、厳正な処分をお願い致しますね」
「ああ、約束しよう。校長の責任をもってこの処分を履行しよう」
こうして、ジークの処分が決定した。
ジークの序列を13位に降格、そして加害者の者達はミア様との接触禁止。
この処罰は、ミアさんの命の危機に比べれば軽い処罰だったかもしれない。
しかし、これによりジークは大きな痛手を被るのであった。
「あの・・・」
加害者の二人であるジークの元取り巻き2人は立ち上がるとミアさんの元へと歩み寄った。
そして、謝罪と共に頭を下げる。
使用人の男達も同時に頭を下げた。
「僕達は命令とはいえ、貴女を殺そうとしました。それなのに、庇って頂いて・・・。申し訳ございませんでした、そしてありがとうございます。」
「顔をあげてください。今、貴方達の謝罪を受け入れることはできません。」
それに対して、ミアさんは拒絶の回答を示した。
顔を上げた者達の顔が曇る。しかし、ミアさん更に言葉を続けた。
「しかし、これからの学園生活で必死に学んでください。魔法の使い方だけでなく、その魔法を使う心を、そして自分達が犯した罪の重さを・・・。私は貴方達が立派な魔法使いになることを応援しております。」
彼らは罪を犯したかもしれない。
しかし、彼らはこれから罪を認めて、やり直すことができるのではないか。
涙を見せて、ミアさんに謝罪する彼らの姿を見て、わたしはそう確信するのであった。
あっそうだ。わたしの頭に名案が思い浮かぶ。
実はわたしは話を聞きながら、ある一つのことを考えていたのだ。
それは失った髪の毛をどうやったら、回復させることができるのか。
若くして髪の毛を失った学生があまりにも不憫だったので、一生懸命考えていたのだ。
そしてある結論に達した。
回復魔法では、無から有を作り出すことができないのではないかと・・・。
人間の体は、小さな細胞の集合体でできている。
その為、怪我をしたり病気をしたりしても元となる細胞はいっぱいある。
その細胞を元にすることで、回復魔法が機能するのではないかと。
だが、髪の毛はどうだろうか?
多少、髪の毛が残っていればもしかしたら、回復魔法は機能するかもしれない。
だが、髪が全くないのなら?
おそらく元がないから回復魔法は機能しないのだ。
その為、ハゲは魔法では治療できないと思われていた。
だが、その元を補えば・・・?
人間の毛は髪の毛だけでない。体毛がある。
その体毛を元にして、髪の毛をつくればいいのだ。
わたしはその仮説を検証しようと、焦げて髪を失った学生に話しかけた。
「あの?その髪の毛を治したいと思いませんか?わたし少し試してみたいことがあるんですか?」
突然、わたしに話しかけらえた相手は、驚いた顔を浮かべる。
それから黒焦げになった自分の頭を触った後、申し訳なさそうに言葉を返した。
「気を使ってくれてありがとうございます。ですが、魔法では髪の毛の治療はできませんよ?学園の回復術士様もそうおっしゃっておりました。非常に残念ですが・・・」
その言葉に対して、わたしは笑顔で返す。
「失敗したら申し訳ないですが、わたしに考えがあります。序列2位の力、信じて頂けませんか?もし、信じて頂けるなら、どこでもいいので貴方の体毛を何本かわけてください。」
「ほう?」
そのやり取りに対して、校長先生が興味深そうにわたしを見つめる。
イングランド先生達も、わたしを見た。
「わかりました。貴女達には迷惑をかけてしまいましたし、貴女の言うことを信じてみます」
彼は諦めたようにそう言うと、腕の毛を何本か抜いてわたしに手渡した。
わたしはその毛をまじまじと見つめる。
どうやら彼は金髪のようだ。
「すいませんが、頭を下げてくれませんか?」
「わかった」
それから、わたしは受け取った毛に強化魔法を施して強度を上げると、相手の頭に突きさした。
「いてっ何をする!?」
突然のわたしの行動に相手は驚いた顔で、痛みを訴える。
「ごめんなさい、これも治療に必要な行為です。そのまま動かないでくださいね」
相手は訝しげに首をかしげたものの、わたしの言う通りに動きを止めた。
相手の頭には、体毛が5本突き刺さっている。
そして、わたしは魔法を唱えた。
「ヘアープランテーション!」
かざした手からキラキラと青い光が包み込むと、相手の頭皮を水で覆う。
そして、その水を操作してゆっくり魔力を注ぎながら、突き刺した体毛が広がり毛根そして髪の毛に成長することを祈りながら回復魔法をかけていった。
辺りは激しい水色の光に包まれる。
「こっこれは!?」
暫くして、魔法は完了した。
周りから驚愕の声があがる。
「髪の毛だ!髪の毛が戻ってきた。よかった、本当によかった!ありがとう、本当にありがとう」
髪の毛を失っていた学生は、嬉しそうに自分の頭を触りながら歓喜の声をあげた。
その頭には、黒焦げだった髪ではなくピカピカの金色の髪の毛がキラキラと艶やかな光を放つ。
どうやら、髪の毛の回復は成功したようだ。
こうして、わたしは新たにハゲを治す魔法を習得するのであった。




