退学処分①
校長室に入ると、そこには見知った顔が並んでいた。
右のソファーにはメイ様とミアさんが座っていた。
魔力探知でわたしは戦いの動向を全て把握していた。
そして、ミアさんがピンチなら、遠隔で魔法を発動して援護することも考えていたのだ。
しかし、その心配は杞憂に終わった。
ミアさんがたった1人で、襲ってきた相手を倒してしまったからだ。
だが、無事だとはわかっていたものの、怪我をしていないかどうか心配だった。
だが、こうして元気そうな姿を見ると大丈夫そうだ。
本当に無事でよかった。
元気そうなミアさんの姿を見て、わたしはホッと胸を撫で下ろす。
続いて、わたしは反対側のソファーに座る者達を見る。
左のソファーには、ジークの取り巻き2人とその使用人の男達が座っていた。
ソファーのスペースが足りないので、使用人の男達は地面に正座で座っている。
また、取り巻きの学生1人は自分の魔法を受けたのか、髪の毛と学生服が真っ黒に焦げていた。
幸いにも回復魔法のおかげで、体の傷と火傷は回復している。
だが髪の毛が問題であった。
髪の毛は回復魔法では再生しない。
理由はよくわからないのだが、魔法でハゲは治せないのだ。
その為、あの黒く焼け焦げた髪の毛の再生は絶望的であろう。
彼は若くして禿げてしまうのかしら・・・。
わたしは取り巻きの男子を心から哀れんだ。
そうこう考えていると、正面に座る年老いた男性から声をかけられる。
彼はこの学園の長である「ドルワナ=クロニクル」先生だ。
紫色の魔法使いのローブを着用し、服と同じ色の魔法使いがよく被る長く尖った帽子を被っている。
そして顎には立派な白い髭を携えていた。
ドルワナ学園長は魔法界の中では有名な人物で、魔法を7つの属性に区分したのは、この人の発見であると言われている。
また闇魔法に精通しており、闇属性の一つである毒の魔法を応用してポーションや薬を研究したりする等の実績もあり、大変偉い人らしい。
らしいというのはゲームの設定でそう書かれているくらいしか、わたしもよく知らないからだ。
ゲーム内では入学式や卒業式等の式典しか登場しないモブである。
「呼び出してすまなかった。当事者の話が聞きたくて呼び出したんじゃよ。さあ、立っておらず座ってくれたまえ」
わたしとジークは学園長の言葉に頷くと、わたしは右のソファー、ジークは左のソファーに座る。
そして、私達を引率したイングランド先生は、学園長の左隣に座った。
もう片方の右隣には、既に男性教師が腰かけている。
その男性教師は、黒い短髪で顎が四角く体の大きな人だった。
全員が座ったのを確認すると、学園長が話を始めた。
「今日、お主らに集まってもらったのは、そこに居る彼女があの者達に暴行を受けたと連絡があったのじゃ」
そう言うと、被害者としてミアさん、加害者としてジークの取り巻き二人とその使用人達を指し示す。
ジークの取り巻き達は、学園長の言葉を受けてビクリと震え上がった。
さらに学園長は話を続ける。
「幸いにも被害者の力が強く返り討ちにしたので、死者は0、負傷者はいたが幸いにも全員魔法で回復した。
ところで、ジーク君、加害者の彼らは君と同じキルラルド帝国の人間だ。
そして彼らは君に命令されて今回の事件を起こしたと言っているが、覚えはあるかね?」
そう言うと学園長は、ジークに話を振り鋭い眼差しで彼を見つめた。
辺りは緊張に包まれる。
しかし、ジークはそれに臆することなく涼しい顔で答えた。
「たしかに彼らは帝国の人間で、私は彼らに見覚えがあります。だがそれだけです。私は彼らにそんなことを指示した覚えはありません」
その言葉に対して、ジークの取り巻き二人は激怒して声を荒げる。
「そんな、僕たちは貴方の命令に従っただけだ。僕達を切り捨てるのか!!」
「ふざけるなよ、俺達がどれだけお前に貢献してきたと思ってるんだ。」
そんな二人の言葉に、ジークは鼻で笑い反論する。
「ふん。帝国の第2王子である俺を陥れたいのか知らないが、証拠もないのによくそんなことが言えるな。恥を知れ!!」
そんな3人のやり取りに対して、学園長の右隣に座る男性教師が制した。
「ええい、お前たち少し静かにしろ。証拠については俺が後程調べてやる。わかったな。」
「まあまあ、ゲルマン先生その辺にして。」
学園長は、男性教師のことをゲルマン先生と呼ぶとジーク達を怒鳴りつけるのを嗜めた。
それから、今度はわたし達のソファーの方を向くとメイ様とミアさんに尋ねた。
「ではメイさんとミアさん。現状ではジーク君の関与した証拠はないので処分は保留する予定じゃ。じゃが・・・」
そう言うと一呼吸置き、ジークの取り巻き達を見た、そして話を続ける。
「この者達は現行犯だ。そして未遂に終わったものの明確な殺意を持ってミアさんに魔法を放ったのは明らかだ。そうじゃな?」
その言葉に取り巻き達は押し黙る。
その様子を見て、ジークは鼻で笑った。
「規則では学園内の魔法の使用は、その責任を負うことを条件に基本自由にしている。だが魔法を使えない者に対して魔法を放つのは厳禁じゃ。
そして、殺意を持った魔法の使用は退学処分が通例となっている。メイさんとミアさんは、その処分で問題ないかね?」
退学処分・・・。
魔法を使える者は、魔法学園に通う義務を負う。
それにも係わらず退学というのは、一見矛盾しているように思われる。
だが、その退学には意味がありその処分は限りなく重い。
まず退学処分を受けた者は、貴族としての地位は剥奪され、爵位等一切の相続権を失ってしまう。
その為、退学処分した者は両親から勘当されるのが通例だ。
さらに今後の魔法使用は禁止となり、どんな理由であろうとも魔法を使うと死罪になる。
貴族としての地位を剥奪され、今後一切の魔法使用を禁じられる。
完全に未来が閉ざされる退学処分は、限りなく重いのだ。
本来のゲームシナリオだと、わたしが受ける筈だった退学処分。
その重さを実感し、わたしの胸は緊張で高まった。
その言葉に対して、ミアさんが言葉を返した。
「わたしは彼らの退学処分を望みません。わたしとの接触禁止を命じて頂ければ十分です。」
「ほう?それは何故じゃ?お主は一歩間違えていれば殺されていた筈だぞ?それにも係わらずその罪を軽くするというのか?」
ミアさんの言葉に、学園長は興味深そうな顔をすると顎髭を触りながら理由を尋ねた。
その質問に対して、ミアさんはゆっくりと理由を述べる。
「わたしは今日初めて魔法を肌で体験し、その強大な力を目の当たりにしました。
魔法はわたしを含めて魔法の才能を持たない者達からしたら大変恐ろしい力です。
ですが同時に、その魔法からわたしを救ってくれたのもまたメイ様達の魔法でした。
彼女達が魔法を使っているのを見ていると思うのですが、魔法は人々を笑顔にする力を秘めています。
それに、加害者の学生達はまだ13歳と若く、魔法という力に溺れてしまい誤った使い方をしたにすぎません。
だから、わたしはこの子達に学んでやり直すチャンスをあげたい。
魔法の使い方だけではなく、その魔法を使う意味を、そして魔法という巨大な力に向き合う心を。
若い彼らの未来を閉ざし、魔法の才能を奪う退学処分をわたしは望みません。」
ミアさんの発言が終わり、シーンと部屋が静まり返るのであった。




