入学式③
メイ様達の魔法のおかげで、わたしを取り囲む男達は無事に全て殴り倒すことができた。
自分の魔法を受けて黒焦げになった生徒、そしてわたしに殴り倒された使用人の者達は、まだ辛うじて息があるようだ。
だが、ダメージが大きく動くことはできない。
はあはあと荒い息づかいをして倒れ込んでいた。
「たっただの侍女じゃないのか・・・どうして魔法が使える!?」
デイルは吐き捨てるように言葉を発すると、地面にお尻をつき崩れ落ちた。
その体はブルブルと震え、完全に戦意を喪失している。
わたしは彼を見た。
相手を倒したことで、今のわたしは落ち着いている。
すでに戦いの高揚感は失せていた。
倒れ込む学生を睨みながら、わたしは先程の戦いのことを思い起こす。
初めて、魔法を体験した。
そして、あの時の自分の思考に対して、自分で自分に恐怖する。
大きな力は人を変える。
わたしはその経験を先程目の当たりにしたからだ。
一方的に相手を蹂躙する巨大な力を持つ魔法。
一時的にその力を借り受けただけだが、今目の前で震える子は常時その力を持っている。
そしてメイ様、ミルロ。
彼女達は私より年下で、まだまだ年端もいかない子どもだ。
彼らそして彼女たちは、こんな大きな力をもって冷静でいられるのだろうか?
一方的に力を振りかざしたりしないのだろうか。
わたしは魔法を持っている者達に改めて恐怖した。
そして魔法学園の意味を改めて理解する。
彼らは学ばなければならないのだ、魔法の力、そしてそれを振りかざす意味を・・・。
わたしがそう考えていると、デイルは吐き捨てるように声をあげた。
そして苦し紛れに、魔法を放とうと構える。
「くそっ、僕は失敗するわけにはいかないんだ。これでも!くらえ!!アイスショット!」
ミルロの反射魔法、まだその効果は残っている。
この魔法はわたしに通じない、むしろ自爆であろう。
わたしが静止しようと声を出そうとすると、後ろから大声が響き渡り1人の男性が駆け寄ってきた。
「お前達何をやっている!?」
その声を聞き、デイルは慌てて魔法を中断する。
その男性は、職員用の青いローブを身に着けていた。どうやら彼は学園の職員のようだ。
ふぅ助かったわね・・・。
わたしは彼を見てホッと一息つくのであった。
◇◇◇◇
入学式はつつがなく終了した。
そして、メイ様の新入生挨拶は、大成功で終わった。
この入学式を準備してくれた先生や在校生への感謝から始まり、学園に入学した決意そして今後の目標を簡潔に述べられた。
メイ様の話が終わった後、会場は割れんばかりの拍手に包まれ、わたしも立ち上がり大きな拍手を送るのであった。
あれから、隣のジークはわたしに話しかけてこなかった。
だが時折気になって横を確認したが、機嫌がよさそうに不敵な笑みを浮かべていた・・・。
「それでは新入生の退場です。序列順に中央を通り退場してください。」
式が終わり、司会の人が新入生の退場を告げる。
2位のわたしが先頭なので、その声を受けて立ち上がると中央の道を歩き出した。
在校生、そして来賓の方が私達に注目する。
すると、在校生の席に見知った顔を見つけた。
アーサーお兄様だ。
お兄様は1年前から学園に通っていて去年は家に1度も戻ってこなかった。
その為、会うのは1年ぶりだ。
久しぶりに見たお兄様はさらに身長が伸びて、成長していた。
そして相変わらずの甘いマスクをしたイケメンだ。
もし兄妹ではなかったら、わたしはお兄様に猛烈なアプローチをかけていたかもしれない。
それくらいにお兄様のことが大好きだ。
しかし、わたしとお兄様は血の繋がりはないが兄妹だ。
また、2年近く一緒に住んでいたので、家族という感情が強く恋愛感情は殆どない。
その為、カッコよくて尊敬するお兄様。
それがお兄様に対して持つ私の正直な感情だ。
わたしは久しぶりの再会が嬉しくてお兄様に手を振る。
お兄様も嬉しそうに手を振り返してくれた。
すると、隣の女性もわたしに手を振る。
あの人は・・・!?
わたしは手を振ってくれた女性に見覚えがあった。
その方は、このゲームのヒロインであるアリアだ。
艶やかな銀色の髪と神々しい金色の瞳。
現実で初めて見た彼女は、ヒロインの名にふさわしいくらい美しい人だった。
さらにわたしはお兄様の周りを見渡すと、近くに見知った金色の髪の男性と黒色の髪の女性が座っているのが見えた。
金色の髪の男性は、メイ様のお兄様であり、この物語の主人公であるゼノン様だ。
そしてもう1人の女性は、悪役令嬢のカトレアだ。
本当にパーティーを組んでいるのね。
お兄様には事前に聞いていたものの、ゼノン、カトレア、アリアが3人仲良く並んで座っているのが非常に違和感を感じた。
だが、楽しそうにお話ししている姿を見ると胸が熱くなる。
この世界のカトレアは、ゼノン達と仲がいい。
これなら、学園生活は平和で終わるかもしれない。
そして最後の魔王編は、そもそもカトレアが王国に恨みを持つのが原因だ。
その為、カトレアとの対立がなければ、学園編と魔王編は起こりえないのだ。
残るは帝国編・・・。
わたしの後ろに続くジークは問題児だ。
そして兄のアークにも出会ったが、非常に冷たい印象を受けた。
2人の性格は、ゲーム内そのままでおそらく戦いは避けられないであろう。
そして、この後早速ジークとの対決が待っている。
わたしは決意を固めて、会場を後にするのであった。
会場を出ると、早速わたしそしてジークは、先生に呼び止められる。
呼び止めたのは、先程受付をしていたイングランド先生だ。
「ミルロさん、そしてジーク君。校長先生がお呼びです。私に付いてきてください」
わたしは呼び出しをくらうのは、分かっていた。
落ち着いて、その言葉に答える。
「わかりました。先生」
だがジークは、わたしはともかく自分が呼び出しを受けるとは夢にも思っていたかったのであろう。
機嫌の良さそうだった顔は一転して、激しい動揺を浮かべた。
当たり前だ、こいつは人知れずミアさんを消すつまりだったのだから。
呼び出しを食らうということは、彼の計画の失敗を意味していた。
「どうして、俺なんだ?俺は何もやっていないぞ」
ジークは動揺を浮かべ言葉を発する。
何もやっていないと言うことは、何かやりましたと言っているようなものじゃない。
わたしはジークに心の中で、ツッコミを入れた。
やっぱり彼はバカだったようだ。
「ジーク君、話は後で校長先生と一緒に聞きます。いいから、一緒に来てください」
学園生である以上、校長先生に呼び出されては無視することもできない。
わたしとジークは、イングランド先生に校長先生の元へと連れていかれるのであった。




