入学式②
「メイ様の侍女さんですよね?」
メイ様とミルロと別れて、来賓席に向かっていると突然後ろから声を掛けられた。
私は顔にでないように気をつけながら、後ろを振り向く。
すると予想通り、声をかけたのは1人の学生らしき若い男性であった。
青い髪をした少しポッチャリとした子だ。
おそらくメイ様やミルロと同じ年齢なのであろうが、太っていて肌が汚く老けて見える。
(ミアさん、貴女は狙われています。)
彼を見たわたしの頭に、先程のミルロの言葉がよぎる。
わたしは相手に悟られないようにその言葉をぐっと飲みこむと、慎重に言葉を返した。
「はい、メイ様の侍女をしておりますミアと申します。貴方はメイ様のご学友の方ですか?」
彼はわたしの言葉に笑顔になると、人懐っこい口調で話を続ける。
「はい、僕はメイ様の友人のデイルと申します。実はメイ様に頼まれて貴方を探しておりました。彼女、学生証を忘れたみたいで・・・。すぐに取りに帰ってあげてくれませんか?」
学生証?予備知識のないわたしなら、慌てて取りに行っていただろう。
だが相手の目的がわかっている以上、言うことを聞くつもりはなかった。
「おかしいですね。学生証は今朝わたしがメイ様の鞄に責任をもって入れましたよ。勘違いではないでしょうか?」
わたしの言葉を聞き、デイルは明らかに動揺した顔を浮かべた。
ダラダラと額から脂汗を浮かべ、押し黙る。
わたしはそんな彼を一瞥すると・・・。
「それでは失礼させて頂きます。」
お辞儀をして話を終え、その場を去ろうとした。
ところがわたしの周りを、突然物陰から男達が現れて取り囲む。
1人はミルロが言っていたもう一人の学生。
そして2人の使用人らしき者達だ。
執事服を着た若い子から年配の者まで、さまざまである。
取り囲んだ者達は全部で8人。デイルを加えると9人だ。
どうやら、ミルロやメイ様が恐れていた通り、相手は強硬手段に出たらしい。
「なんですか?貴方達は?」
わたしの言葉に対して、取り囲んだもう一人の学生が応えた。
彼は、ホッソリとというか、まるで病気のようにガリガリに痩せこけたの男性であった。
栄養が足りないのだろうか、金色の髪は色あせてくすんでいた。
「悪いが、俺たちの主の命令だ。貴様には消えてもらう。」
彼がそう言うと、取り囲んでいた内1人の年配の男性が前に出る。
そしてわたしを拘束しようと腕を前に突き出し、掴みかかろうとしてきた。
実はわたしはメイ様の侍女となる為に、幼い時から教育を受けている。
そして、もしもの時の為に護身術も教えられていた。
それは、相手の関節を決めて身を守る、合気道と呼ばれる武術だ。
わたしは前に突き出した男の手を両手で受け止めて関節を決めると、そのまま地面に向けて投げ飛ばした。
関節に体重が乗り、ミシリと骨が砕ける音が辺りに響く。
投げられた男性は折れた腕を押さえ、地面を苦しそうにのたうちまわった。
「くそっ生意気な奴め!」
痩せこけた学生は、仲間の1人がやられたことに舌打ちすると右手を前に突き出して、魔法を唱えた。
「サンダーボルト!」
そして躊躇なく魔法を放った。
激しいスパークが轟き、わたし目掛けて強烈な電撃が襲い掛かる。
魔法使い同士の戦いでは魔力によるガードがあるので、よほどの力の差がない限り致命傷は避けられる。
だが魔法を使えない者は魔力がない為、魔法を防ぐ術はない。
その為、初級呪文でも、一般人がそれを受ければ命を失う危険性がかなり高いのだ。
そして相手が放ったのは、中級呪文。
まともに受ければ、わたしの命はないであろう。
わたしはそれを見て、自分の体を庇うように両腕を前に突き出し、腕をクロスさせて身を守る体制に入った。
そして魔法の衝撃に備える。
魔法の前では、そんなことをしても意味はない。そう普通なら・・・。
だが、相手の魔法はわたしには届かなかった。
魔法がわたしの体に触れようとした瞬間、うっすらとわたしの周りを包む氷の薄い壁が相手の魔法を弾き返したのだ。
「なっなんだと!?」
相手は私が魔法を使えないと油断していた。
その為、対処が遅れ、弾き返された自分の魔法をまともに受けてしまった。
大きな悲鳴と共に、激しい雷撃と肉を焼く焦げ臭い匂いが充満する。
そして魔法を放った学生は黒焦げになり、そのまま地面に崩れ落ちた。
「ひいっ!」
わたしを取り囲んでいた使用人の男達は主の1人が倒されたことに悲鳴をあげ、1歩後ろに下がりたじろいだ。
一方、わたしはというと初めて命を狙われたこと、そして人が重傷を負い倒れた所を目の当たりにしたことで、心臓がバクバクと高鳴り恐怖に支配されていた。
だめよ、ミア。
メイ様とミルロが守ってくれている。しっかりするのよ。
わたしは必死に自分に言い聞かせ、深呼吸をして呼吸を整える。
そして少し落ち着きを取り戻すと、スカートの中に隠してあった短剣を抜き構えた。
すると、短剣からビリビリと雷がほとばしり私の体を包み込む。
ミルロは、ジークという帝国の第2王子が昨日のトラブルの復讐として、わたしの命を狙っていることを察知していた。
おそらく使用人を粛清することでメイ様達に恐怖させて自分の力を見せつけることが目的であったと思われる。
そして、拉致監禁等ではなく必ず命を狙うと確信していた。
それは、下級メイドごときの命では、メイ様はそう思わないかもしれないが王国にとってなんの脅しにもならないからだ。
さらに、拉致監禁では証拠が残る為、もし見つかった場合の不利益が計り知れない。
以上のことから、必ず殺しに来ると確信していたのだ。
それに対抗する為に、メイ様とミルロはわたしに事前に魔法をかけておいた。
ミルロは、相手の魔法をはじき返す反射魔法
そしてメイ様は、私の短剣にエンチャントを施していた。
エンチャントされた短剣を持ったわたしの肉体は、メイ様の雷の魔法で強化されパワー、スピードが跳ね上がる。
わたしは短剣を構えると、怯んだ男達に向けて駆けた。
自分でも信じられないスピードに息をのむ。
そして一瞬で相手に接近すると、短剣を持つ左手とは逆の右手で拳を握り相手を殴りつけた。
相手はわたしのスピードに対応できずに、防御することができなかった。
拳がすっと相手のお腹に吸い込まれ、相手を弾き飛ばす。
殴られた相手は10メートル程、吹っ飛び近くの木にぶつかり止まった。
ぴくぴくと痙攣しているので、なんとか生きているようだ。
「くそ、怯むな、殺せ!!」
1人倒されたことで、固まっていた取り囲む男達は我に返る。
そして吐き捨てるように言葉を発すると、持っていた剣や槍等を構えた。
だが魔法で強化された今のわたしにとって、それは欠伸が出るほど遅い動作であった。
わたしは、相手の隙をつき隣に立つ男の懐に潜り込む。
そして先程と同じように、右拳で強くお腹を殴りつけた。
先程と同様に、相手を遠方に弾き飛ばし1激で混沌させる。
「くそっ」
他の男達が悔しそうに武器を振り回すものの、それはただの苦し紛れであった。
わたしには相手の攻撃は全て見えており、そして欠伸が出るほどに遅い。
わたしは格闘術を習っていたものの、あくまでも身を守るために身につけたもので、基本的に暴力反対の平和主義者だと思っていた。
強い者が弱い者に虐めるそんな思考は野蛮で、信じられない考えであると信じていた。
だが、今一瞬でも大きな力を借り受けたことでその認識を改めなければいけないと思った。
強大な力を持てば、相手の攻撃は意味をなさず、一方的に相手を攻撃できる
それは戦いではなく、一方的な蹂躙だ。
そして自分に危険が及ばない、一方的な蹂躙は私にとって楽しいものであった。
まるで小さな子供が、笑いながら虫を殺す。
そのような思考と同じようなものであろうか。
わたしは次々と相手を殴りたおし、昏倒させていく。
短剣を使うまでもない、拳だけで十分だ。
既にわたしの恐怖は完全に消え、相手を一方的に蹂躙する高揚感に満ちていた。




