青龍②
体内が凍り付き、動きが鈍くなった青龍は地面に真っ逆さまに落下する。
わたしとメイ様は押しつぶされないように、その場を離れた。
巨大な青龍は落下すると、地面にあったたくさんの岩をなぎ倒し、大きな衝撃と共に砂埃が舞う。
落ちた青龍は大きなダメージを受けて、真黒な血を口から吐き大きな唸り声をあげた。
さらに暴れようともがくものの、内部から凍り付いた体は、力に任せて多少動くことはできるものの、その動きは亀のように鈍い。
「いくわよ!ミルロ。ライトニング・エンチャント!」
そんな相手に止めを刺すべく、メイ様はわたしに、かけ声をかけた。
そして魔法を唱え、持っていた剣に雷の魔力をエンチャントさせて、激しい雷を纏う。
エンチャントした剣を持つメイ様の体は、金色の輝きを放ち、激しいスパークを纏った。
それに対して、わたしは持っていた弓を再び背中に担ぎなおす。
そして魔法を唱えた。
「ブリザード・ソード!」
魔法の氷で剣を作り出し、氷のエンチャントを纏う。
エンチャントした氷の剣を持つわたしの体は、銀色の輝きを放ち、凍てつく吹雪を纏う。
そして金と銀の光を放つメイ様とわたしは、青龍の元へと同時に駆けた。
まばゆい光を放ちながら、2つの剣は青龍へと迫る。
「おのれ、人間どもが舐めた真似をしやがって。これでも食らえ!!」
迫りくる二人に対して、青龍は口を大きく開けて息を大きく吸い込むと、激しい勢いで凍てつく氷の息を吐きだした。
青龍の最大の必殺技、アイスブレスだ。
アイスブレス
その温度は絶対零度に達し、触れる物を凍らし周りを凍てつく死の大地へと変える輝く氷の息だ。
青龍から放たれたアイスブレスは、私達の元へと真っ直ぐに迫り、辺りを氷の大地へと変える。
岩ばかりの荒野は、息の冷気の影響で一瞬で北極のような氷の大地へと姿を変えた。
だがアイスブレスは、分類上は魔法攻撃だ。
その為、体に魔力を纏えば、その威力は軽減される。
周りの大地を凍らす影響は、魔力を纏う私たちを凍りつかせることはなかった。
私たちは、迫り来るアイスブレス、そしてそれを吐く青龍に真っ直ぐにつき進む。
そして、アイスブレスがわたし達に届く瞬間、わたしとメイ様は息を合わせるように、同時に剣を構え切りつけた。
メイ様は右斜め、わたしは左斜めに切り裂き2つの剣はアルファベットのXの文字を形取る。
「ツヴァイウイング!!」
私たちは同時に叫ぶと、迫り来るブレスごと青龍を切り裂いた。
凍てつく氷の魔力と轟く雷の魔力を纏うX型の斬撃は、ブレスを霧散させ青龍のお腹をバターのように切り裂いた。
「ばっばかな!なんて力だ」
斬撃を受けた青龍は激しい断末魔をあげると、そのまま地面へと崩れ落ちた。
「ミルロやったわね!」
「はい、メイ様」
私たちは地面に着地すると、笑顔を浮かべてハイタッチを交わす。
私たちの完全勝利だ。
私たちが喜び合う中、小さな虫のざわめきのような声が、私たちの頭に話しかける。
その声の主は青龍であった。
どうやら、ダメージが大きすぎて動くことができないものの、辛うじて生きているようだ。
だがその命も、もはや風前の灯であった。
「我の完敗だ。さあ我を殺せ。そうすればお前たちの勝利だ」
「メイ様どうしますか?」
私たちは、倒れて動くことができない青龍の元へと駆け寄ると、どうするか話し合った。
「そうね、別に私達の目的は武器であって、青龍の命ではないから、なんとか助けてあげられないかしら?ミルロ、回復魔法をお願い出来る?」
少し考えた後、メイ様はわたしにそう指示した。
わたしは、一瞬殺さないと、青龍の剣は手に入らないのでは?と思ったものの、青龍は虫の息だ。
時間をかけると、直ぐに死んでしまうだろう。
メイ様はお優しい人だ。
きっと青龍にも慈愛の精神を見せたのであろう、ならわたしはその意思に従おう。
わたしはそう判断すると考えるのを止め、倒れている青龍に回復魔法を唱えた。
「アイスヒール!」
呪文と共にキラキラした優しい氷の吹雪が巻き起こると、青龍を優しく包み込む。
怪我がひどかったので暫く時間がかかったものの、倒れていた青龍の怪我は元通りに修復されて完全に癒えた。
「回復魔法だと、それにこの力は!?」
怪我が癒えた、青龍は驚きを浮かべて立ち上がると、わたしとメイ様を見つめた。
その目には驚愕と敵である自分を回復させた困惑に満ちていた。
それに対して、メイ様は満足げな顔を浮かべると青龍に話かけた。
「さて傷も癒えたことですし、約束の『青龍の剣』頂いてもよろしいですか?」
しかしその言葉に対して、青龍は大きく首を降るとメイ様に問いかけた。
「待て、その前に1つ聞かせてくれ、何故、我を助けた?このまま我を殺してしまえば、欲しい物は手に入ったはずだぞ?」
「決まっていますわ。貴方は魔物といえど国や町を襲ったり、向かってくる人は別ですが、積極的に人を襲ったりしてません。むしろこの青龍の丘を魔物の手から守ってくれています。そんな守り神のような存在を殺す必要はありませんでしょ?」
メイ様は自信満々に答えた。そして、やさしく青龍を見つめ返す。
その目には嘘偽りのない気持ちと、メイ様のまっさらな優しい心が現れた慈愛に満ちた眼差しであった。
「わっはっはっは。お主人間の癖になかなか面白い奴じゃの。魔物の我を守り神と呼んでくれたのは、お主が初めてじゃ。」
辺りは静寂し、青龍の笑い声が響き渡る。
わたしとメイ様は、じっと事の成り行きを見守った。
「気に入った!お主に約束の『青龍の剣』を渡そう。受け取れ」
青龍はそう言うとゴソゴソと顎髭を触る。
そして、何かをつかみ取るとメイ様に向けて大きな手を差し出した。
その手のひらには、サファイヤのように青く透き通った刀身の剣が握られていた。
それは、目的の青龍の剣であった。
メイ様はごくりと唾を飲み込むと、青龍から剣を受け取った。
そして嬉しそうに剣を上に掲げて、はしゃぎながら声をあげた。
「ミルロやりましたよ!青龍の剣手に入れました!!貴女のおかげよ、ありがとうございます」
メイ様はそういうと、嬉しそうに青龍の剣を何度も振るうのであった。
わたしは喜ぶメイ様の様子を、笑顔で眺めていた。
そんなわたしに青龍が話しかける。
「お主の回復魔法は素晴らしかったぞ。我が生きているのはそなたのおかげじゃ」
その言葉にわたしは横に首を振る。
メイ様の言葉がなければ、わたしは彼を助けなかったであろう。
その気持ちを正直に伝える。
「いえ、わたしはメイ様のご指示で貴方を助けたにすぎません。わたしはメイ様が居なければ、貴方を助けなかったかもしれませんよ?」
「ふっふっふ。そなたは正直じゃな。じゃが、お主の魔法によって我が助かったのは紛れもない事実じゃ。お礼にお主にはこれを渡そう」
青龍はそう言うと先程と同じように、顎髭をもぞもぞと触る。
そして再び何かをつかみ取ると、今度はわたしの前に差し出した。
それは青龍の剣と同じように、サファイヤのように青く透き通っていた弓であった。
「これは!?」
わたしは見たこともない武器に、思わず青龍に尋ねた。
その言葉に対して、青龍は嬉しそうに答える。
「これは『青龍の弓』じゃ。まあ、青龍の剣と同じ能力の弓といったところかな。そなたは弓の方が得意であろう?」
青龍の弓!?
わたしの知らない、そしてゲームにも存在しない武器を見て、わたしの胸は躍る。
本当に青龍の剣と同じ能力なら、その能力はかなり強いであろう。
ごくりと唾を飲み込むと、わたしはその弓を受け取った。
その弓を握ると、力が溢れ、魔力が漲るのを感じる。
それは嘘偽りのない、青龍の力を秘めた弓であった。
こうしてわたしとメイ様は、青龍から強力な武器を受け取るのであった。




