青龍①
魔法学園の入学式まであと1ヶ月。
わたしとメイ様はとある場所に2人で来ていた。
通常、王女は王国にいる限り自由に出歩くことは許されない。
だが、魔法学園に入ってしまえば話は別だ。
実戦を重んじる学園では、パーティー単位で魔物討伐やダンジョン探索を強いられる。
そこには王女や王族等は関係ない。
完全な実力主義で身分制度は意味をなさないのだ。
それを利用してメイ様は、お父様であるウィシュタリア王にお願いした。
魔法学園の予行演習で、ミルロと2人で外征に行きたいと。
王様はメイ様のことを溺愛し甘やかしている。
初めは反対していたものの、魔法学園に入ると嫌でも冒険しなければいけないと伝えると、渋々と納得してくれたのだ。
今、私たちが来ているのは、ウィシュタリア王国内で最も標高が高い『青龍の丘』と呼ばれている場所だ。
青龍の丘はかなり険しい山道で、標高は3000メートルを超える。
その為、普通の人では登ることは困難だ。
だが、わたしとメイ様には魔法がある。
身体強化の魔法で強化した肉体は、薄い空気や、険しい道にも十分対応できる。
特にピンチやトラブル等なく、ここまで登ってくることができた。
また、ここには魔物が少なく戦闘も殆どなかった。
魔物が少ないのは、山頂に住む凶悪な魔物を恐れてのことだ。
その魔物は『青龍』。
Sランクの魔物で、凍てつく氷のブレスと轟く雷の魔法を得意とする強力な魔物だ。
魔物の強さは、その強さの順番にE、D、C、B、A、S、SSの順にランク付けされている。
Sランクはかなりの上位の魔物で強敵だ。
そいつを討伐して、ドロップアイテムである『青龍の剣』を手に入れることが、この丘に来た目的である。
青龍の剣は、最強の剣ではないがゲーム内で2番目に強いと言われている剣だ。
なお最強の剣は、勇者しか装備できない聖剣なので、勇者ではない者にとっては実質最強の剣である。
攻撃力は、全体5位とそこまで高くないものの、付与効果が圧倒的に優秀だ。
その効果は、水、雷 属性攻撃20%アップ、魔力消費10%カット、素早さ+10%の効果だ。
メイ様はある目的をもって、これからの学園生活に臨む。
その為にも個人の実力アップは必要だったので、こうして強力な武器を取りに来たというわけだ。
「本当に険しい山ね。ねえ?ミルロ。そのモンスターを倒せばわたしはもっと強くなれるの?」
軽く息を吐き、山道を登りながらメイ様はわたしに話しかけた。
メイ様は3年経ち、ゲーム内に登場する全く同じの姿に成長した。
艶やかな金色に輝く背中まで届く長い髪、サファイヤのように美しい青い瞳。
シミ一つない色白の肌に、小さな桃色の唇。
ゲーム内ではドレスを着用することが多かったが、今は、白を基調とした冒険者用の服と、銀色の軽鎧を装備している。
身長は155センチと小柄で、やさしい顔立ちの美しい女性だ。
その為、男性からの人気が高く、王国内の貴族そして他国の王族からも求婚が相次いでいる。
過保護な父である王様の強い反対と、メイ様本人も結婚にその気がない為、特に進展はしていない。
また、性格もゲームのような卑屈な性格ではなく、魔法により自信を取り戻し明るく何事も積極的に取り組むようになっている。
だが人見知りが激しいことは未だに改善されず、社交界やお茶会もわたしが同伴しないと絶対に参加しない。
また友人と呼べる存在も、わたしだけである。
「はい、メイ様。この山頂に青龍という魔物がいます。そいつを倒して『青龍の剣』を手に入れれば、メイ様はもっと強くなれますよ」
護衛の為に前を歩いていたわたしは後ろを振り向くと、メイ様の言葉に笑顔で答えた。
異世界に来て早3年。
わたしもメイ様ほどではないにしろ、すっかり成長した。
その姿も服装は違うものの、ゲーム内そのままだ。
氷のような水色の髪にルビーのように赤い瞳。
身長はメイ様よりもあまり伸びず145センチ。
そして胸は未だに・・・ない。
ミルロは成長が遅いと思われる、うんそうだ、きっとそうだ。
その為、身長も胸も今後大きくなる予定である。
なお、今のわたしは引き続き護衛兼侍女として、メイド服を常に着用している。
そうこう話しているうちに、もうすぐ目的の山頂のところまでついた。
わたしは後ろに続くメイ様に、警戒を促す。
「メイ様、もうすぐ山頂です。気を引き締めていきましょう『青龍』は強敵です」
「ええ、わかっているわ。いつも通りの連携でいきましょう。ミルロサポートは任せたわよ」
メイ様の言葉にわたしは頷くと、気を引き締めて山道を登り切るのであった。
◇◇◇◇
山頂は、木々が全く生えていない荒野のような場所であった。
むき出しの岩がごつごつしており、障害物が多く視界が悪い。
山は雲を突き抜け、青い澄み切った空が広がっていた。
だが、今から命を懸けた戦いが始まる。
私たちに風景を楽しむ余裕はなかった。
わたしとメイ様は不意打ちに気を付けてゆっくりと進む。
順番を入れ替え、前衛はメイ様、後衛はわたしだ。
メイ様は腰に差してある剣を抜き、わたしは背中に担いでいた弓を構える。
少しづづ進んでいくと、突然頭の中に声が鳴り響き、同時に上空から大きな影が現れ空が暗くなった。
「お前たち!!私の縄張りに何の用だ?」
私達は声が聞こえた上空を見上げると、頭上に巨大な龍が大きな雄たけびをあげた。
青龍だ!
青龍は、前世でいう中国の物語に出てくる巨大な蛇のような龍だ。
体長は30メートルくらいで、キラキラと輝く青い龍の鱗が全身を覆う。
そして鼻の付近から、10メートルはあろう黄色い2つの髭をたなびかせる。
どうやら先程、頭に聞こえた声は、この青龍の声のようだ。
わたしとメイ様は、その巨体に一瞬たじろいだ。
だがすぐに正気に戻ると、メイ様は青龍に向かって声を上げた。
「青龍様!あなた様の持つ『青龍の剣』を貰い受けに来ました。私たちとその剣をかけて勝負して頂けませんか?」
その言葉に青龍は、嬉しそうに笑いを浮かべ、その言葉に応えた。
「久方ぶりの挑戦者か!面白い!!ちっこい奴らだが、二人纏めて相手にしてやろう。さあ、かかってこい。人間達よ」
そう言うと、青龍は私たちを威嚇するように大きな雄たけびを上げた。
強大な雄たけびは衝撃を巻き起こし、大気を震わせ周りの岩を薙ぎ払う。
だが、わたしとメイ様は身体強化魔法を施し、その衝撃を耐えた。
「ミルロ頼んだわよ!」
わたしはメイ様の指示に頷き弓を構えると、魔法で無数の氷の矢を生成して青龍に向かって放った。
「プリザード・アロー!」
氷の矢1つ1つには、かつて騎士団試験の時にカリンとの戦いで放った『プリザード・ソード』と同じように氷のエンチャントを施す。
氷のエンチャントは、触れた相手を凍り付かせる効果を持つ。
氷の矢が相手の肉体を貫通することで、相手の体を内部から凍り付かせ相手の動きを止めるのだ。
氷のエンチャントを施した無数の氷の矢は、巨大な青龍に全弾命中した。
矢は龍の鱗を安々と砕き、その肉体を貫通する。
さらに傷口から氷が広がり、青龍の体内を凍り付かせた。
内部が凍り付いた青龍は動きが鈍くなり飛行を維持することができなくなった。
「ぐわあああ。馬鹿な我の体がこんな簡単にダメージを受けるだと!それに体が動かない・・・」
青龍は悲鳴を上げながら、地面に落下するのであった。




