王女との出会い
「ミルロよく似合ってるよ」
騎士団の軍服に身を包んだわたしを見て、お兄様は笑顔を見せた。
ウィシュタリア王国の軍服は、黄色を基調としていて少し派手な印象だ。
そして胸と右肩には、この国の象徴である雷の紋章があしらわれている。
この国の王家は雷魔法の適性があるものが多い。
その為、軍服も雷を象徴とする黄色になったそうだ。
「ありがとうございます。うぅ代表の挨拶を言わないといけないので緊張します」
首席合格者は挨拶を壇上で読み上げなければいけない。
幸いにも言うことは決まっており、カンペも支給されているので間違えることはないのだが、それでも多くの人達の目に晒されるのは緊張する。
前世では弓道大会の時に檀上で宣誓することはあったが、どうしても人前で話すことには慣れない。
ドキドキと心臓が高鳴るのが、自分でも感じ取れた。
そんなわたしの様子を見て、お兄様は笑顔でわたしの頭を撫でた。
お兄様の逞しくて固い手のひらが触れる度に、わたしの胸は更に高まる。
笑顔を見せるお兄様は、兄妹なのが悔やまれるくらい素敵なのだ。
もし、わたしが妹ではなく別の家のご令嬢だったのなら、確実に惚れていただろう。
「ミルロ大丈夫だよ。去年僕も挨拶したけど、何も問題なかった。ミルロはしっかりとしているし、きっと大丈夫だよ」
「お兄様は完璧なので、比較にならないですよ。それでもありがとうございます。少し緊張が和らいだかもしれません」
「そうか、それはよかった」
わたしとお兄様が楽しくおしゃべりをしていると・・・。
こんこんこん
ドアからノックの音が鳴り響いた。
そしてすぐに慌てた様子で、お父様が入ってきた。
「ミルロすまない。今すぐ王宮に行ってメイ様の所に行ってくれ。今すぐ来いとのご命令だ」
わたしはその言葉に訝しむ。
「お父様、しかし今日は騎士団の入団式が・・・」
「あぁ入団式は欠席で構わない。王女様を優先とのことだ。すまないな」
王女メイ。
思っていたよりも我儘みたいだ。
入団式は多くの騎士に会うことができて、その後歓迎パーティーが開かれる予定であった。
実は、わたしはそれを楽しみにしていたのだ。
騎士団入団式があるのは、メイ様も知っているだろうに・・・。
だが仕方ない。
ゲーム内での彼女の性格を考えると、行かないならへそを曲げて最悪クビだろう。
別にクビでもいいのだが、それはそれでなんだか悔しい。
わたしは泣く泣く入団式を諦めた。
「わかりました。今すぐメイ様のところに向かいます」
こうして突然わたしはメイ様から呼び出しを受けるのであった。
◇◇◇◇
「今日からメイ様の護衛騎士になりますミルロ=マルチーズと申します。宜しくお願い致します。」
そう言うと、わたしはメイ様にお辞儀をする。
「よく来てくれたわね。これから貴女の主人になるメイ=ウィシュタリアよ。精一杯頼むわね」
王女メイ。
彼女は金髪碧眼の美少女だ。
そして、わたしのメイに対する第1印象は意外とハキハキ話すなぁという印象だった。
ゲーム内での彼女は、今から3年後の姿なので比較しづらいものの、もう少しナヨナヨして物静かだった。
もしかしたら、今からずっと引きこもる筈なのでそれが彼女の性格を変えるのかもしれない。
コミュニケーションも使わないと劣化する。
今の彼女は多少なりとも、まだ人との交流があるのだろう。
だがメイ様はやっぱり引きこもりだった。
「あの・・・メイ様、何もなさらないのですか?」
わたしはベッドで横になるメイ様に恐る恐る話しかけた。
挨拶をしてから3時間が経った。
だが彼女は何もする訳ではなく、ベッドに横になっているだけだったのだ。
流石に暇だったので、思い切って声をかけた。
「寝るのが好きなのよ。それともわたしに何かしろとか意見でもするの?」
そうするとメイはきっとわたしを睨みつけてきた。
だがそれに対してわたしは笑顔で対応する。
ゲームの知識のおかげでメイの心の傷は理解しているし、劣等感もわかる。
彼女は何もしたくない、疲れているだけなのだ。
何かしろとか言うのは逆効果だ。
それなら、わたしは彼女に癒しを与える。
「それなら一緒にお風呂に入りませんか?」
「お風呂?」
その言葉にメイは訝しむ。
「お風呂というのは、お湯に体をつけてつけるんですよ。気持ちいいですし、リラックスできますよ。」
そう言うと、わたしは魔法を発動して大きな氷の浴槽を作り出しお湯をためた。
メイ様のお部屋はかなり広いので、大きな浴槽を作ることができた。
そしてわたしはおもむろに服を脱ぐと、お風呂につかる。
次にできるだけ気持ちよさそうに、伸びをしてリラックスをした顔をした。
メイのお風呂に興味を持ってもらうためだ。
「こら!いきなり私の前で服を脱ぐな。不敬だぞ」
突然、服を脱いだわたしを見て、メイ様は顔を赤くする。
怒っている口調なものの、すこしお風呂に興味を持っていることが伝わった。
そしてわたしに対して恥ずかしがっているのも。
これならいけるもう少しだ。
「メイ様、そんなこと言わずに一緒に入りましょうよ」
わたしは努めて笑顔で、メイ様をお風呂にお誘いするのであった。
◇◇◇◇
「ご・極楽だわー」
お風呂に浸かり、メイ様は気持ちよさそうな顔をする。
暫く抵抗していたメイ様だったが、気持ちよさそうに湯舟に浸かるわたしを見て、恐る恐るお風呂に入ってきた。
一度、お風呂に入ればこっちのものだ。
お風呂に入ったメイ様は、その気持ちよさにやられ陥落した。
そしてお風呂の虜になったのだ。
「ね、メイ様。お風呂って気持ちいいでしょ?」
「ああ、悪くないわね。これなら毎日入ってもいいかもね」
気持ちよさそうな笑顔を浮かべたメイ様は、顔を綻ばせてわたしに同意した。
その笑顔を見たわたしは、更なる陥落を試みる。
「それならもっと気持ちがいいものがあるのですよ」
そう言うと、わたしはメイ様の背中を触りマッサージを始めた。
「ふひやぁ。何、急に触ってくるなんて、ああああ。」
メイ様は最初は抵抗したものの、声を上げた後、暴れるのを止めた。
前世の麗華はマッサージが得意であった。
弓道部の部活動の後には、よく仲間の部員達をマッサージしてあげていたのだが、評判がかなりいいのだ。
的確なツボを押さえて、体重をかけて射抜く。
マッサージの極意は、的を射抜く弓に通じるものがあるのだ。
実はお母様はわたしのマッサージの虜で、よくマッサージをしてあげていたりする。
また社交界でもわたしのマッサージの評判はいい。
もしマルチーズ家を追い出されたら、お風呂とマッサージ屋さんを始めてもいいなぁと考えているくらいだ。
こうしてメイ様は私の思惑通り、お風呂とマッサージの虜になるのであった。




