騎士団試験⑤
わたしは1次試験に合格し、2次試験に進んだ。
そして合格発表後すぐに、2次試験の模擬戦が始まった。
ここは騎士団演習場の中央。
多くの受験生達が見守る中、わたしは模擬戦の対戦相手と対峙した。
相手はカリン=ルージュだ。
目の前の相手は嬉しそうな顔を浮かべ、わたしに話しかけた。
「試験結果には不満があるんだけど、あんたと戦えるのはラッキーね。公衆の面前で、叩き潰してあげるわ。わたしに逆らったこと後悔しなさい」
そう言うと、カリンはわたしに向けて槍を構えた。
絶対に負けない、そんな自信を感じさせる堂々とした構えだ。
その姿を見ながら、わたしはカリンについてのゲーム内の知識を思い起こす。
カリンは、わたしと同じ悪役令嬢カトレアの仲間だ。
そして、その運命も全く同じ道をたどる。
学園編では追放され、帝国編では死亡して、魔王編ではゾンビになる。
そして、キャラ性能は、槍を使った近接攻撃のキャラだ。
相棒の精霊は炎を纏うトカゲのような精霊、フラム。
炎属性の魔法を使い、炎を纏った槍術を得意とする。
魔力はあんまり高くないので、武器主体の攻撃が中心だ。
魔法は補助的な位置に留まる。
そして肝心の強さであるが、あんまり強くないというかハッキリ言って弱い。
前衛なので体力は高いものの、素早さが遅く攻撃が単調だ。
それに加えて、魔力が低いので魔法耐性が致命的に低いのだ。
この世界では魔力が高いほど、魔法が効きにくい。
その為、魔力が低いということはその分魔法に弱いのだ。
よって魔法攻撃であっという間に蒸発する頼りない前衛キャラというのが、カリンに対するゲームでのわたしの評価だ。
だが、ここはゲームの世界に似ているものの、現実の世界だ。
何が起こるかわからないし、カリンの性能がゲームと違う場合も大いに考えられる。
実はミルロのゲーム内でのキャラ性能は、ヒーラーで武器は両手杖だったりする。
だが現にわたしは両手杖を使っていないし、代わりに剣と弓が使える。
もはやゲームの設定は、崩壊しつつあるのだ。
「大丈夫?ミルロ緊張していない?」
すると、わたしの精霊であるユキメは、姿を現すと心配そうに声をかけた。
「ありがとう、ユキメ。わたしは大丈夫、お願い力を貸してね。」
「もちろんだよ!絶対勝とうね」
油断は命取りになる、慎重に行動しましょう。
ユキメと言葉を交わしたわたしは、注意深く相手を観察しつつ、腰にさしてある剣を抜いた。
模擬線は接近戦である為、弓は不利だ。
その為、今回は剣を使用する。
なお、今回の戦いは試験官はおろか、騎士団試験を受けた全受験生(不合格者を含む)、出勤している騎士達、騎士団長達も二人の戦いを見に来ている。
なぜなら、魔法を使える者は少なく、魔法使い同士の戦いはそうそう見れるものではない。
戦いの当事者が10代の少女であったとしても、貴重な魔法戦なのだ。
この戦いは見逃せまいと、両者の戦いを全員が固唾を飲んで見守る。
「はじめ!」
審判を務める隊長のゲイルが、模擬戦の開始を告げる。
そしてミルロとカリンは同時に動き、一歩踏み出し前に出た。
攻撃はカリンから仕掛けた。
槍の方が剣よりも射程が長い為、距離をとりつつ攻撃する。
カリンは体に炎の魔力を纏い、自身の肉体を大幅に強化する。
さらに槍に炎を纏うと、勢いよく槍を突き出した。
だがその攻撃に対してミルロは驚きを浮かべる。
カリンの槍の突き出す速度は、ミルロが予想していた速度よりもずっと遅かったのだ。
実はカリンの攻撃の速度は、子どもながら大人顔負けの速さだった。
だが、ミルロにとってはかなり遅い。
何故なら、彼女が練習で相手をしていた兄のアーサーの剣はこれの数10倍速いからだ。
アーサーは幼いながらも騎士団では、かなりの実力を持っている。
そんなアーサーの剣術を体験しているミルロにとって、カリンの攻撃は圧倒的に遅かったのだ。
ミルロは魔法を使うまでもなく、簡単に攻撃を見切り槍を躱す。
カリンが勢いよく突き出した槍は空を切り、大きな隙を生んだ。
「てい!」
そして、掛け声と共に、槍の持ち手を強く剣で叩いた。
その衝撃に思わずカリンは持っていた槍を振り落とす。
カラカラと音を立てて、槍は手から離れて落ちた。
「え?」
槍を落としたカリン、そして戦いを観戦していた者達は茫然とする。
もちろんだが観客達は、珍しい魔法戦を期待していた。
同年代の二人であるし、まさか魔法無しで勝敗が決する程、実力差があるとは思っていなかったのだ。
あまりの呆気なさに全員の思考がフリーズした。
暫く茫然としていたゲイルは、ハッと意識を取り戻すと慌ててミルロの勝利を告げる。
「勝者、ミルロ=マルチーズ。」
「う・・・嘘よ・・・」
だがカリンは敗北を信じられなかった、自分が一瞬で負けたことを認めたくなかった。
現実逃避するように顔に怒りを浮かべると、ミルロに掴みかかろうと飛び掛かった。
だがそれに対してもミルロは冷静だ。
ヒラリと身をかわす。
飛び掛かったカリンの体はミルロを掴むことができずに空を切ると、そのまま顔面から地面に突っ込んだ。
そんな様子に辺りはシーンと静まり返る。
なんてあきらめの悪い人なの・・・。
ミルロはカリンの行動にドン引きしていた。
もう係わりたくないと、そそくさと試合会場を後にしようと試みる。
だがカリンはすっと立ち上がると、立ち去ろうとするミルロを怒りの声で呼び止めた。
「待て!逃げるな、卑怯者」
そんなカリンの言葉に、ミルロは思わず振り向いた。
そして声を出したカリンの顔をマジマジと見つめる。
顔面から地面に突っ込んだ顔は鼻血で血まみれ、目は涙を流し真っ赤だ。
睨むカリンの顔は醜かった。
なるほど、この人って本当に負けず嫌いなのね。
でも嫌いではないわ。
だが、彼女は一生懸命だった。
諦めが悪いと言えばそれまでだが、ここまで食い下がるのも珍しい。
ミルロの前世である麗華は、弓道部に所属しており体育会系だ。
その為、頑張る人は嫌いではない。
諦めの悪い人は成長する。
それが、麗華として生きてきたミルロの経験だ。
このまま去るのなら今は楽だろう。
だが、カリンはどうなる?
ここで不完全燃焼で終われば彼女の心は折れてしまうか、怒りに捕らわれ、わたしを一生恨み続けるだろう。
彼女の成長と今後のことを考えると、希望通り全力で叩き潰すのが得策ね。
わたしはそう判断した。
わたしはゆっくりとカリンの元に歩み寄ると、槍を拾い上げて彼女に手渡した。
「いいわ、相手をしてあげる。だけど今度は全力を出します。死んでも恨まないでくださいね」
「わかった・・・」
カリンはそう言うと槍を受け取った。
そして再びわたしはカリンと対峙する。
試験官のゲイルさんは大きく頷くだけで、何も言わなかった。
周りの観客達もわたし達の勝負の行方を何も言わず見守る。
辺りはシーンと静まり返った。
「ユキメ、あの魔法を使いましょう」
わたしはそう言うと、両手にありったけの魔力を込めた。
するとまばゆい光と共に、キラキラと輝く氷が集まる。
これはお兄様を倒すために生み出した魔法だ。
両手に、圧縮された魔力が集まるとキラキラとかがやく氷の剣を形作った。
「ブリザード・ソード」
水晶のように透き通り、まばゆい光を帯びた神々しい氷の剣。
その一振はあらゆる物を凍てつく氷へと変える。
「始め!」
再び試験官のゲイルが試合開始の合図を告げる。
ミルロとカリンは同時に動くと、氷の剣と槍を交差した。
カリンの槍は先程よりも強烈な炎を上げて、メラメラと燃え上がる。
それはカリンの全魔力を込めた渾身の一撃だった。
目の前に立つミルロという化け物を倒すため、カリンはこの一撃に全てをかけたのだ。
しかし力の差は歴然であった。
槍が氷の剣に触れた瞬間、炎は霧散して消え槍そしてそれを持つカリンを氷漬けにしてしまった。
周りが息を飲むなか、勝敗は一瞬で決した。
ミルロの圧勝だ。
だが敗れて氷漬けになったカリンは、先程とは違い怒りに満ちた醜い顔ではなかった。
全ての力を出し切り敗れたことで、その顔には満足そうな笑みを浮かべる。
誰も敗れたカリンを嘲笑う者などいない。
そしてこの敗北は、カリンを大きく成長させる糧となるのであった。




