騎士団試験④
「ハヤブサなんだか嬉しそうだな」
ゲイルは嬉しそうに採点作業をしているハヤブサの様子が気になり、声をかけた。
ハヤブサはどちかと言えばクールな性格で、感情特に喜びの感情はあまり表に出さない。
だが、今のハヤブサは珍しく嬉しそうな顔をしていたのだ。
鼻歌交じりに作業する姿は、今までの彼の性格からは考えられない所業であった。
「ああ、ゲイルさんわかりますか?実は今日の試験で期待の新人を見つけたんですよ。ここ最近の新人は不作だったので、彼女が私の隊に入ってくれるのが楽しみなんです」
「その逸材って、ミルロのこと?彼女は合格しても第4部隊には入らないわよ」
すると、隣で作業していたミミルが、2人の話に入ってきた。
その言葉にハヤブサは驚きと同時に、訝しんだ表情を浮かべる。
「ミミルよく知ってるね。そう、ミルロだ。それにしても彼女が第4部隊に来ないとはどういうことだい?彼女は弓の試験を受けたから、合格したら第4部隊に入るのは確定だよ。」
「ガハハ、なんだハヤブサ知らねえのか?ミルロは団長のお嬢さんだ。騎士団に入ったら、第1王女のメイ様の護衛騎士にしようと団長が画策しているらしいぞ」
ゲイルの言葉に、ハヤブサは驚き声を上げる。
「そんな!彼女は第4部隊に入ると言ってましたよ、何かの間違いじゃないのですか?」
「あんた何も知らないのね。騎士団では有名な噂話よ。本人がそう言っても団長が決めるんだから、あんたにも本人のミルロも選択権はないんだからね。大人しく諦めなさい」
その言葉に、ハヤブサの上がっていたテンションは、どん底に沈んだ。
笑顔は消えて、沈んだ顔で作業を続ける。
ただ気持ちが沈んでも作業を止めないところが、ハヤブサはマジメなのだ。
3人は暫く作業していた。
それから、作業に飽きたのかゲイルが再び口を開いた。
「ミルロと言えば元孤児なんだろ。だが恐ろしい魔法の才能を秘めているらしいな。団長といいアーサーといいマルチーズ家は化け物揃いだな。」
ゲイルの言葉にミミルも賛同する。
「社交界では、青の魔女と呼ばれているらしいね。なんでも魔法を使って大きなお風呂というものを作ってしまうみたいだよ」
「お風呂?聞きなれない言葉だな?」
その言葉にハヤブサは興味を示した。沈んだ顔は消えてミミルに質問する。
「お風呂は温泉みたいなものらしいよ。団長の夫人が開くお茶会の後に、みんなでお風呂に入るらしい。お肌がすべすべになって気持ちいいみたいだよ。わたしも入ってみたいな」
「おいおい、魔法でそんなことができるなんて聞いたことないぞ。さすがにそれは噂が大きくなりすぎじゃないのか?」
「いや、ゲイル本当らしいよ。知り合いが自慢してたから、間違いないよ。疑わしいならミルロが騎士団に入ったら、実際に見せてもらうといい。まあわたしは彼女にお風呂をお願いする気満々だけどね」
「へえーそれは楽しみだ。ならミミル賭けないか?俺は噂が大きくなりすぎているに賭ける。」
「おっいいね。それなら負けた方が今度酒を奢るということでいいかな?」
「おっしゃー乗った。負けないからな。」
こうしてミミルとゲイルは、ミルロのお風呂について賭けた。
なお今後、賭けに負けたゲイルが、ミミルにお酒を奢ったのは言うまでもない。
それからも採点作業を進めながら、受験生の話題、主にミルロについての話に花を咲かせる隊長達であった。
◇◇◇◇
そして試験の取り纏めが終わる。
だが、その試験結果は隊長達の頭を悩ませるものだった。
「おいおい。嘘だろ、勘弁してくれよ」
採点を終えたゲイルは、頭を抱えて項垂れた。
今回の受験者数は500名。
合格率は30パーセントなので、150名が2次試験に駒を進める。
そして2次試験は、模擬戦だ。
模擬戦は受験生通しの対戦で、2勝したら合格。
だがそれだと、強い者同士が潰し合い優秀な人材が不合格になる可能性がある。
運が悪いと言えばそれまでなのだが、試験の公平性を確保するためにも、騎士団としても見逃せる問題ではなかった。
そこで、対戦の組み合わせを決める際にルールを1つ設けた。
それは対戦の組み合わせは、1次試験の成績を考慮して、上位と下位がぶつかるよう組むことだ。
合格したければ1次試験で点を取れ。
それが安定して合格する為の秘訣だ。
そしてそのルールを適用した結果、このような対戦の組み合わせになってしまった。
1位 ミルロ=マルチーズ VS 150位 カリン=ルージュ
2人とも魔法が使える。
魔法が使える者は貴重な存在で、騎士団としても本音を言えば合格を出したい。
だがこの対戦結果は、どちかが不合格になることを意味していた。
なお魔法が使える者は、全員貴族かその関係者だ。
その為、お金をかけて教育してから試験に臨む為、1次試験で上位にくい込み、対戦することはまずない。
魔法使い同士の対戦は、騎士団試験の歴史上でも前代未聞であった。
ミルロの成績はよかった。
筆記と実技全て満点のぶっちぎり。
2位に対しても、大きく点数を引き離していた。
だがミルロは、10歳までは孤児だったといえマルチーズ家の娘である以上、それは普通の成績だ。
もしミルロの成績が悪ければ、父であるマルチーズ男爵は娘の受験を認めなかったであろう。
だが、カリンは違った。
カリンも、ルージュ家の娘で貴族の一員だ。
もちろん勉強していたし、実技についても訓練して努力していた。
普通なら上位にくい込んでもおかしくなかった。
だが彼女は筆記試験の最中ミルロに対して怒り狂い復讐することばかり考えていた。
その為、試験に全く集中することができなかったのだ。
それにより筆記の点数が壊滅的。
実技で点数を取っていたのでなんとか合格ラインに達していたものの、ギリギリの点数になってしまったのだ。
「ゲイルさんどうします?カリンの点数を操作して対戦相手の組み合わせを変えますか?」
ミミルはゲイルにそう提案した。
隊長の3人の間に気まずい空気が流れる。
暫く3人は考えた後、ゲイルが口を開いた。
「いやそれはできない。あくまでもこれは試験であり公平であるべきだ。ミルロとカリンは10歳とまだ若い。不合格になってもまた来年があるだろう」
ゲイルはそう決断する
その言葉にハヤブサも同意した。
「ああ。私もゲイルさんの意見に賛成だ。今、騎士団試験の試験結果は厳しくチェックが入っている。
点数操作は許されない。
それに魔法の力は絶大だ。仮に組み合わせを変えれば、誰かが代わりに不合格となってしまうだろう。
私はそれを見逃すことはできない」
2次試験の模擬戦はなんでもありのバトルロワイヤルだ。
もちろんだが、魔法の使用も認められている。
そして今回受験生で魔法が使えるのは、ミルロとカリンの二人だけであった。
もし二人の点数を操作すれば、代わりに誰かが落ちてしまうだろう。
公正を重んじる騎士団として、これは許されることではなかった。
こうして、ミルロとカリンの対戦が騎士団内で決定するのであった。




