騎士団試験③
「私が弓の試験を担当する、第4部隊の隊長 ハヤブサだ。」
試験官はわたしの前に立つと、気まずそうに自己紹介を行った。
わたしはそれに合わせて、ぺこりとお辞儀を返す。
ハヤブサさんは、スラっとして背が高いイケメンであった。
薄緑色の髪と、透き通るような白い肌。
身長は高く190センチを越えている。
そして何よりも特徴的なのは、先がとんがった大きくて長い耳であった。
これはエルフ族の特徴だ。
そう、彼はエルフなのだ。
エルフは普通の人間と比べると、寿命が長いと聞く。
見た目は20代前半くらいに見えるのだが、見た目よりも年齢を重ねているのかもしれない。
そして何故気まずそうなのかというと、今回弓の試験を受ける受験者はわたし1人だけだったからだ。
広い弓道場には、わたしとハヤブサさんの二人だけがポツンと寂しそうに立っていた。
受験生が1人というのは、例年数人はいる受験者数を考えると少し少ない。
その状況に、ハヤブサさんはショックを受けたのであろう。
だが、わたしの心は逆に浮足立っていた。
弓の試験は騎士団演習場内にある、弓道場で行う。
そこは、広々とした大きなスペースを持ち、あらゆる場所に的が設置されていた。
その広さは前世の時に使用していた部活動の弓道場や、マルチーズ家の弓道場よりも遥かに広く設備が充実している。
それは、わたしが思い描いていたよりも遥かに上だった。
もし騎士団に合格すれば、この道場を自由に使うことができる。
そう思うと、嬉しくて嬉しくてたまらなかったのだ。
絶対に騎士団試験に合格してみせると、わたしは改めて決意を固めるのであった。
「それでは試験を始めよう。あそこの的に向けて矢を放つんだ。5発中、3発当たれば合格だ」
そう言うと、ハヤブサさんはわたしに矢を5本手渡した。
わたしは矢を受け取ると、的を確認する。
100メートルくらい先の距離に、的が1つ置かれていた。
弓道の一般的な距離は28メートルだ。
それと比べると遥かに遠い。
この世界の人々は、魔法なしでも全体的に人間の身体能力は高い。
魔物に鍛えられたせいなのか、ゲームの世界に似ているせいかはわからない。
だが全体的に筋力、瞬発力は全て上回っている。
現にミルロの身体能力は10歳にも関わらず、魔法なしでも前世の高校生の麗華よりも上だ。
その為、運動競技のハードルは高いのだ。
ちなみにこの世界の100メートル走の世界記録は、魔法なしで5秒だ。
そして魔法を使うと1秒切る。
それだけ、この世界の人間の身体能力が凄まじいことが伺える。
100メートル先に矢を飛ばすだけの筋力は今のわたしの体には十分備わっている。
あとは狙いを定める精神力と技術だ。
それは前世の弓道の練習で、培っている。
わたしは落ち着いて弓を構えて弦を引き絞ると、狙いを定めて矢を放った。
矢は真っ直ぐに飛んでいくと、スパーンという音がなり的の真ん中を射抜いた。
「ほう?」
後ろで見ていたハヤブサさんから、感心した声があがった。
やったわ。
練習通りね。
真ん中に当たったことで、気をよくしたわたしは次々と矢を放つ。
2発、3発、4発、5発。
放った矢は全て真っ直ぐに的に吸い込まれ、真ん中を射抜いた。
5発中全て命中。
文句なしの合格だ。
「素晴らしい!君は騎士団試験に合格したら、第4部隊を希望しているのかね?」
わたしの試験を見ていたハヤブサさんは、興奮した口調でわたしを問い詰めた。
それに対して、わたしは笑顔で応答する。
ハヤブサさんは試験に合格出来れば、今後わたしの上司になる人だ。
できるだけ印象をよくしておこうと、精一杯の笑顔で答えた。
「はい。希望しています。わたし、弓が大好きなんです。第4部隊に入るために騎士の試験を受けたようなものですよ」
それを聞き、ハヤブサさんは嬉しいそうに言葉を返す。
「そうか、それは素晴らしい!!君のような逸材が入ってくれるなら、願ったり叶ったりだ。ぜひ、この王国を導く騎士になってくれたまえ」
「ありがとうございます。わたしもハヤブサさんと仕事を出来るのを楽しみにしています。よろしくお願いいたします。」
それから、私とハヤブサさんは、弓術や騎士団試験について会話をするのであった。
弓の受験者は少ないため試験はすぐに終わり、他の武器を選択した受験者を待つ必要があった。
その為、会話を楽しむ時間はたっぷりある。
試験にも関わらず、わたしはハヤブサさんとの楽しいひと時を過ごすのであった。
◇◇◇◇
1次試験の筆記と実技が終わり、騎士団の会議室では急ピッチで採点を進めていた。
今日採点を終えて、即日に結果発表。
そしてその後、2次試験の模擬戦が行われる。
騎士団試験は、たった1日で筆記、実技、模擬戦をこなす必要があるハードスケジュール。
合格率はだいたい1次試験が30パーセント。
2次試験も同じく30パーセントほどだ。
その為、騎士団試験の最終合格率は30×30で10パーセントを切る。
結構難易度の高い試験となっている。
そして騎士団試験に合格すれば、以下の部隊に配属され、それぞれの隊長から指導を受けることになる。
王国の騎士団は4つの部隊に分かれている。
第1部隊の隊長は、ミルロの父であるマルチーズ男爵だ。
マルチーズ男爵は騎士団長でもあるので、隊長と兼務している。
第1部隊は特殊で、王家と王宮を守る特殊部隊だ。
少人数ながら、精鋭ぞろいであり個人の実力では間違いなく最強の部隊だ。
第2部隊を率いるのは隊長兼副団長のゲイル侯爵。
ゲイルは屈強な肉体を持つ大男だ。
身長は3メートル近くあり熊のような男であった。
大盾を使い騎士団の盾として君臨している、いかついハゲオヤジだ。
部隊の人員数は1番多く、あらゆる外敵から王国を守っている。
戦争の際には、真っ先に投入される実働部隊だ。
第3部隊の隊長は、紅一点のミミル男爵。
ミミルは女性ながら、戦争の活躍で騎士爵位を持つ。
彼女は普通の人間ではなく、ドワーフだ。
ドワーフは小柄ながら、筋肉質な体と器用な手先が特徴の種族だ。
顔は緑色で金色の髪をした可愛らしい女ゴブリンのような姿をしている。
なお、試験会場で看板を持って並ぶように伝えていたのはミミルである。
第3部隊の業務は治安維持の側面が強く、警察や公安関係のような仕事をしている。
そして第4部隊の隊長ハヤブサ。
先程ミルロの試験官を務めたエルフの男性だ。
第4部隊も特殊部隊で、弓を利用した遠距離攻撃による後方支援がメインだ。
ミルロが配属を希望している部隊でもある。
そして今、3人の騎士隊長達は急ピッチで試験の採点を進め結果の取り纏めを行っていた。
なお、騎士団長であるマルチーズ男爵はこの場には居ない。
騎士団の規則で、身内が騎士団の試験を受ける場合は不正防止の為、試験に参加ができない決まりになっているのだ。
今回、娘であるミルロが試験を受けているので、マルチーズ男爵は自宅待機である。
すると、試験の採点結果を取り纏める騎士団の隊長たちは、ある受験生の話で盛り上がるのであった。




