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転生

剣と魔法の世界『マナアース』

そこは強力な魔物が徘徊する危険な世界。


だが人々は魔物達に対抗する術を持っていた。

それは魔法。

精霊と契約することで、人は魔法を使えるようになるのだ。

これは、勇者ゼノンと聖女アリアの愛と冒険の物語である。


エンドロールが終わり、挿絵と共に『TheEND』の文字が画面に写る。

画面に写る挿絵は、主人公である勇者ゼノンとヒロインの聖女アリアのキスシーンで締めくくられていた。


「ふう、やっと終わったわ!」

わたしは達成感に満ちた顔で、嬉しそうにガッツポーズをする。


わたしは弓道(きゅうどう) 麗華(れいか)

高校2年生で16歳だ。

そして弓道部に所属していた。

所属していたというのは、重い病を患い退部を余儀なくされたからだ。

弓はわたしの人生の全てであった。

青春時代は必死に弓の練習に明け暮れた。

そして去年、全国大会優勝を果たせるくらいの腕前までに上達したのだ。


だが今は重い病を煩い、ベッドから出ることはできない。

病名は食道がんの末期。

助かる見込みは少ない、だが今日最後の望みをかけて手術を行う予定だ。


ここ1番の大事な手術の前に、ゲームをクリアできてよかった。

わたしはホッと胸を撫で下ろす。

やっていたゲーム名は、『マナアース』。

勇者ゼノンと聖女アリアが魔物と他国からの侵略から、彼らが住むウィシュタリア王国を救うシミュレーションRPGだ。


わたしは部活に忙しく、今までゲームを全くしたことがなかった。

だが入院して暇だろうと友人が貸してくれたのだ。

最初はゲームなんてとバカにしていたのだが、実際にやってみると戦略性のある戦闘と魅力あるストーリーにハマってしまい結局最後までプレイしてしまったのだ。


「麗華さん、そろそろ時間ですよ」

ゲームの余韻に浸っていると、看護師さんから手術の開始を告げる連絡が来た。

この手術が成功すれば、わたしは元の生活に戻ることができる、でも失敗したら・・・。


今更ながら死への恐怖がわたしを襲う。

何も無い漆黒の闇を思い浮かべ、ブルりと背中が震え顔が青ざめた。

だが、わたしは慌てて、その思考を振り払う。


大丈夫成功する!

勇者ゼノンと聖女アリアは最後まで諦めなかった。わたしもあの2人を見習わないと!!


わたしは心を切り替えると、緊張した顔で看護師さんに連れられ手術に臨むのであった。


だが現実はゲームのように甘くない。

その後、手術は失敗し、わたしはこの世を去るのであった。


◇◇◇◇

教会にはわたしと同じ年齢の子供達が期待を込めた眼差しを向けて、今か今かと自分の順番を待っていた。


ヒソヒソ

「ねえ、あの子・・・」

「いやーね。汚らわしいわ」


わたしの姿を見て、周りで自分の子供達を見守る親からしかめっ面を向けられ、ヒソヒソと陰口が叩かれる。


全部聞こえているというのに・・・。


わたしは居た堪れない気持ちで下を向き、子ども達の列に並んでいた。

順番は一番最後だ。


わたしの名前はミルロ。

わたしは両親がいない孤児だ。

両親の顔も覚えていない。

物心ついた時から、ずっと一人ぼっちだった。

スラムの路地裏がわたしの寝床で、繁華街の外れのゴミ箱が食堂だ。

今まで人目を避けるように、ひっそりと隠れるように生きてきた。


だがそんなわたしが何故こんなところにいるのか?

それはこの国では10歳になると、儀式を受ける為に教会に行かなければならないからだ。

儀式の名前は、精霊契約の儀。


儀式会場にある大きな水晶玉に手をかざすと、才能のある者は精霊と契約して魔法が使えるようになるらしい。

らしいというのは、わたしは今まで精霊や魔法というものを見たことがないからだ。

そして今この会場でも続々と儀式は進んでいるものの、誰一人として精霊と契約できるものは居なかった。


精霊と契約して魔法を使える才能のある者は血筋に大きく左右され、王族や貴族に多い。

その為、平民で才能のある者は稀だ。


この会場は平民の子どもが儀式を受ける会場で、会場にいる子どもは平民かわたしのような孤児だけだ。

その為、精霊と契約できる人がいないのだ。


だが稀に精霊と契約できる平民の子どもがいる。

もし平民で魔法が使えるようになれば、王族や貴族の養子や側近候補として迎えられる。


たしか去年平民の少女が精霊と契約して、侯爵家の養子となり貴族になったらしい。

そんな実情もあり会場は、儀式を受ける子どもとその親たちの期待と熱気に包まれていた。


そしていよいよわたしの順番となった。

結局この後、誰も精霊と契約できた者は居なかった。

あれだけたくさん居た人たちは、項垂れた顔でみんな帰って行った。

その為、会場にはわたしと神父さんしか残っていない。


がらんとした静寂が教会を包み込む。


わたしは孤児だ。

精霊なんて無縁だろう。

さっさと終わらせて帰ろうと、わたしはおもむろに目の前の水晶玉に手をかざした。

期待等、これっぽっちもなかった・・・。


だが水晶玉は、今まで見たこともないような強い光を発して強く輝いた。

透き通るような水色の光が辺りを包み込む。


すると同時に頭の中にたくさんの記憶が流れ込んできた。

みたこともない世界、見知らぬ人物、経験したことのない記憶。

あまりの情報の多さに頭が混乱しパンクする。


わたしの意識はそこで途絶えた。


◇◇◇◇

「ここは!?」

わたしは目を覚ますと、見知らぬベッドに横たわっていた。

見たこともない部屋だ。

ここはどこだろう?


ベッドから降りて、立ち上がる。

今まで苦しかった体が嘘のように軽い。

手術はどうなったのだろうか?

だがこうして動けるようになったということは、手術は成功したということなのだろう。


早くお父さん、お母さんと会いたい。

よかった・・・本当によかった・・・。

生きている喜びと、元気になった喜びにわたしの胸はいっぱいになる。

目からポロリと涙があふれた。


すると、何気なく机の上に置かれていた鏡を見た。

そこに映ったのは、見知らぬ少女の姿だった。

ボサボサに伸びた水色の髪とルビーのように赤い瞳、そしてその顔は何日もお風呂に入っていないように黒ずんでいた。


「だれ!?」

慌てて体を確認する。

体は小さく縮んでいて、細くやせ細った体。

自分の体ではない誰かの体に乗り移ったような感覚を受ける。


次に記憶を思い起こす。

すると、わたしの中に2つの記憶が混ざり合う不思議な感覚を受けた。

1つは高校2年の麗華としての記憶、もう1つは孤児のミルロとしての記憶。


そうだ!この子というかわたしはミルロだ。


「ミルロやっと起きたのね。わたしはユキメよ。今日から貴女の精霊になったから、これから宜しくね!」

すると頭の上から声が響き渡った。

わたしは慌てて、声が聞こえた方を向く。


すると2頭身の少女がニッコリと微笑みユキメと名乗った。

少女の体の大きさは30センチくらいで、その体は薄く透けている。

また、雪のように白い髪の毛と白い肌、そして白い着物を着ていた。

まるで小さな雪女のような印象だ。


待って、ミルロとユキメ。

わたしはその名前を知っている。


先程クリアしたゲーム『マナアース』に出てくる登場人物だ。

ん?ということは、ここはゲームの世界?

そしてわたしはゲームのキャラクターに転生した?


「えーーー!?」

衝撃の事実を知り、わたしは驚きの声を上げるのであった。

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