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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

男子高校生の妄想はテロリストをも凌駕する

作者: 志賀トモ樹

 始まりは……そうだな。

 齢四十を超え、男子生徒を見る視線が猛獣のそれに勝るとも劣らずと言われている現国教師の多井中が持つチョークが割れた時、だ。

 おろしたての長いチョークが中程からポキリと音を立てて真っ二つになった。

 すぐに教室のどこからともなくクスクスと笑い声が上がると、多井中は生徒にも見えるように、真っ二つになったチョークを目線の高さまで持ち上げた。まるでタネも仕掛けもございませんと決まり文句をい

うマジシャンのようだ。


「先生、力強すぎっしょ」


 誰かが言ったそんな冗談にクラスがどよめく。


「静かに!」


 とめどない笑い声を御すかのよう、多井中が一際大きい声を上げると、やがて教室に響いていた喧噪は鳴りを潜めた。

 多井中は満足したのか、ふぅと一呼吸置き再び黒板に向かうが、割れたチョークがどうにも気に入らないのかゴミ箱に投げ捨て、声を上げた。


「新しいチョークを取りに職員室まで行ってきます。すぐに戻ってくるので大人しくしておくように」


 そう言ってドアの方へと向かい、スライド式の扉に手をかけたその時。


 ――――ガチャリ


「おいテメエら、先生の言う通りだ。大人しくした方が身の為だぜェ? たった今この学校は――」


 全身を武装した黒マスクの男が、手に持つアサルトライフルを胸の高さまで掲げ――


「俺様が占拠した」


 銃口を向けながら、そう宣言した。


 * *


 奴が教室に現れ数十分が過ぎた。

 奴は俺たちに机を一か所に集めろという指示を出した。

 「まるで掃除の時間じゃねえか、ガハハ」と笑いながら俺たちを見ていたが、クラスの連中は口をつぐんだまま、指示通り黙々と教室の前の方へと机を移動させた。

 それが終わると、次は二人一組でお互いの手を縛れ、と結束バンドを寄こしてきた。皆は黙ったまま床に落ちた結束バンドを拾い、それぞれの目を見合わせる。

 

 理解していた。

 これで手を縛ってしまえば、もう俺たちが出来ることは、せいぜい神に祈ることだけだと。

 テロリストの目的はわからないが、とにかく彼らが満足するまで俺たちはいつ発砲されるかも分からない銃に怯えるだけしか出来ない事を。


 だが――だとしても、何かおかしな真似をすれば……それが見つかりでもすれば、逆上したテロリストがどう出るか分からない。クラス全員を皆殺しにすることだってあるだろう。

 そのリスクを考えると、頭では理解していても、行動に移す勇気のある者など居るはずもなかった。当然だ、一介の高校生には重荷すぎる。


「おい、グズグズしてねえで、早くしろ。テメエらの先生がどうなっても知らねえぞ」


 なかなか動かない俺たちに痺れを切らせたテロリストは、両手を後ろで縛られた多井中先生の背に銃口をグイグイと押し付ける。

 多井中先生は声を押し殺したまま静かに泣いていた。その表情に普段のような鋭い眼光は無く、ただ小刻みに肩を震わせていた。

 

「分かったから、その銃を降ろしてくれ……ッ!」


 うつ向いたまま、消え入るような声をあげたのは、クラス委員長だった。正義感が人一倍強い彼には到底許せない行為なのだろう。

 委員長は俺たちの方へと向き直り、再び口を開いた。


「皆、ここは彼の言う通りにしよう」


 少しでも皆が安心出来るようにだろうか、その口調は努めて明るく振舞っているように見える。そして、それは功を奏したようで、皆の表情はいくらか和らぎ、横に居る者同士で手を取り合った。


「根倉くん……私の……お願いできる?」


 俺に声を掛けてきたのは、クラス一……いや学年も学校をも通り越し、おそらく高校生一の美少女と名高い姫野さんだ。

 話した事はなかったが、どうやら俺の名前を知っているようだ。光栄だな。


「うん、もちろん。さあ手を出して」

「お願……ンッ……‼」


 結束バンドを巻くために、姫野さんの手首に触れると、艶めいた声が口から漏れた。

 ……この状況だ、無理もない。おそらく極限の精神状態なのだろう。俺は極力姫野さんの肌に触れないように結束バンドを巻き終えた。

 次は俺の番だ。


「姫野さん、頼む」

「う、うん……」


 姫野さんの様子がおかしい。

 どうやら俺の腕に触れるのを躊躇しているようだ。

 マズいな……俺の腕に触るのが照れくさい事は分かるけど……こんな事をしてると――


「おいテメエ! 何怪しい動きしてくれちゃってんだァ!?」


 テロリストが俺たちを不信に思ったのか、声を荒げながら俺たちの所へやってきた。もちろん、銃はしっかりと手に握ったままだ。


「すみません、彼女少し体調悪いみたいで。お願いします、彼女だけでも助けてやってくれませんか?」


 俺はテロリストを逆上させないよう、言葉を選びながら頭を下げた。

 だが――


 ――バキッ


 最初に音、次に衝撃、最後に浮遊感が俺を襲った。

 気が付けば顔を殴られていた。

 身長二メートル、体重推定百二十キロ程ありそうなテロリストの体躯から放たれたパンチは、俺の身体を浮かせるには十分だったのだ。


 俺は無様にも空中で一回転し、やがて地面の感触を背中に感じたところで、()()()吐血した。

 しばらく天井を見つめていると、駆け寄ってきた姫野さんが視界に入った。


「ね、根倉くん……! 大丈夫!? わ、私の……せいで……」


 姫野さんは俺の身体を抱きしめ、大粒の涙を流しながら言った。

 俺が殴られた事が自分の責任だと感じているのだろう、だがそれは違う。


(姫野さん、俺なら大丈夫。インパクトの際に顔を少し引くことで、パンチの衝撃をいくらか殺したからね)


 俺はテロリストに聞こえないよう、努めて小声で姫野さんの耳元で囁く。

 しかし、それでも姫野さんの涙は止めどなく流れ、


「で、でも根倉くん、ち、血が口から……!」


 ああ、そんな事。


(ははっ、心配してくれたんだね、ありがとう。俺なら平気さ。これはいざという時の為に用意しておいた血のり、実際に血なんて吐いてないよ)


 俺がウインクを一つ交えながらそう言ってやると、姫野さんは安堵の表情を浮かべ、次第に頬を朱色に染めていった。


「私ね、この戦いが終わったら、根倉くんにね、その……伝えたい事があるの」


 へぇ、それは楽しみだ、っと。


「さて、そろそろ良いかな。あんたまだ意識はあるかい?」


 俺は腕を使わず腹筋の力だけで立ち上がり、教卓付近にいるテロリストに声を掛けた。

 テロリストの顔には苦悶の表情が浮かんでおり、まさに立っているだけでやっと、という言葉が似合うほどにその足元はふらついていた。


「ぐ……ぐがが、き、貴様……一体お、おデの身体に、ナニ……ヲ」

「フン、そんな事も分からないのか。自分の手を良く見てみなよ」

「手……ダとォ?」


 俺に言われるがまま、自分の拳を見るテロリスト。

 その拳は、赤紫色に変色していた。


「ナ、なんダ……これワッ!」

「俺ってさ、幼少期からあらゆる痛みに耐性をつける為に、色々と体弄ってんだよね。で、あんたの手はその賜物って訳」


 次第に意識を保つ事が難しくなってきたのか、テロリストの呂律が回らなくなっていき――


「くぁwせdrftgyふじこl」

「ふん、冥途の土産に教えといてやるよ、俺は体中に毒を飼っててね。俺の身体に触れた時、その毒があんたの拳に付着したって事。ああ、安心していいよ、その毒の解毒薬なんて存在しないから。まあ、強いて言うなら俺自身が解毒薬ってとこかな、ハハ」


 俺が言う終わると同時、テロリストは口から泡を吹きながら、死んでいった。

 さて――


「姫野さん、伝えたい事って?」


 ふぅ、正体を明かしてしまったからには、今後ただの高校生として生きていくのは無理だろうな。

 けど、姫野さんがそれでも俺を選んでくれるっていうなら……俺は、彼女を一生……。



「根倉、大変だ! 姫野さんが泡を吹いて倒れた!」  

 

 


 

 


 

 





 

途中で力尽きた

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