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第008話 試験

ブクマ・評価のほどよろしくお願いします。

12/7(月)に7話ほどアップする予定です。

 僕は何を見させられているのだろうか。

 憤怒の形相を浮かべた修道女にお尻を叩かれる少女。

 パッシーン! と小気味良い音が執務室に響き渡る。


「すぐに手や口を出すから暴虐のリルアと呼ばれるのです」

「ご、ごめんな、ひゃいん!!!」


 僕に暴力を振るった罰としてのお尻百叩きの刑。

 それにしても、聖女候補のあだ名が暴虐ってのはどうなんだろうか。

 いつもの風景と言わんばかりに、ゼノス様は優雅にお茶なんか淹れてるし。

 まあ、何となくリルアの日常が垣間見えたのは嬉しいかな。


「僕は怒ってないので、リルアを許してあげて下さい。ケイトさん」


 ケイトさんは振り上げた手をピタリと止める。

 リルアと僕を交互に見て、フゥーと溜息をついてから、


「カイル様に感謝するのですね。今日はここまでにしておきます」


 もうかれこれ、90発は叩いてると思うのですが。

 いや、さっき連行されたのも合わせると190発くらいか……。

 先程、尻を叩きつつ自己紹介されたがケイトさんはリルア専任の教育係らしい。

 リルアの捕まえ方やお尻の叩き方、どの動きも洗練された何かを感じる。

 その光景を横目に4人分のお茶を淹れ終えたゼノス様はにこやかに微笑んで、


「それでケイトさん。私の部屋に来たのはリルアさんの処遇が決定したからではないのですか?」


 リルアの処遇か。

 それは僕にとっても一番の関心どころだ。

 

「お咎めはありませんが、旅に出る条件を提示されました。エルナハド遺跡、その最奥に眠る秘宝を入手することが条件です」


 お、おう?

 それはつまり、僕とリルアで相応の実力があるか示せということだろうか?

 不安はあるが、リルアに対する懲罰がないという点だけは少し安心できた。

 お尻百叩きくらいなら許容範囲として目を瞑るけど。

 ゼノス様はケイトさんの回答にお茶の香りを確かめつつ、一口含んでから、

 

「ふむ。まあ、妥当な判断でしょうね。聖女候補の旅は長く険しい道のりです。それ相応の実力者でなければ、聖女候補も含め無駄に命を落とすだけでしょうから……」


 聖女候補の安全を考慮した上で従者の選択を行っているということか。

 聖連は全ての命に責任を負っているのだ。

 そして、従者となるのであれば全身全霊を以て聖女候補を守る責務がある。


 勝手に契約者を選ぶという行為は聖連からすれば身勝手な行いだ。

 残念ながら今の僕にリルアを守れると断言できる実力は無い。

 いや、皆無と言っていい。

 彼女のためを思うのであれば辞退すべきだ。

 けれど、何もしないまま諦めるという選択肢は選びたくない。

 リルアと旅を続けることで、【理の収集家(スタンプラリー)】が大きく成長する可能性もある。

 無謀ではない。

 希望があるなら、それに掛けてみたい。


「ダンジョン攻略と言っても条件がありますよね? 教えて下さい。どうすれば、僕がリルアの従者として認められるかを」


 僕の真っ直ぐな視線にケイトさんが初めて笑みを見せる。

 何となく分かる。

 ケイトさんは厳しいけど、リルアのことを大切に思っている。

 長年、成長を見守っていたのだから当然だ。

 そして、若干リルアが暴力的なのもケイトさんが影響もあるのではないかと。

 憤怒の形相とか、お尻百叩きとか、グレイン並みの威圧だったりとか。

 まあ、僕の勝手な想像だけどね。


「期間は30日です。しかし、場合によってはもっと短くなるかもしれません」

「どういうことですか?」

「エルナハド遺跡の秘宝をめぐり、聖連指定のギルドと競って頂きます。そのギルドの名はスレイブナハト……。貴方が今日まで所属していたギルドです」


 聖連はこう言っているのだ。

 従者として認めて欲しければ、古巣のギルドくらい超えて見せろと。

 スレイブナハトは所属メンバー50人を超える中規模のギルドだ。

 新規ダンジョンの開拓を主とするプロ集団でノウハウも多く持っている。

 簡単に考えると50対2の戦い。

 分が悪いにもほどがある。

 リルアも同じ意見を持ったようで、


「そんなの勝てるわけないじゃない! もっと、公平な勝負で判断すべきよ」

「従者は王族や貴族から選出されます。資金や人員の面でも盤石の態勢を得た状態で旅を開始できるのです。つまり、貴方達2人にそれと同等の実力を求めているのですよ。聖連として公平に判断していると思うのですが如何でしょうか?」


 それに関しては聖連の言い分が正しい。

 僕達が比較されるべき相手は他の聖女候補達だ。

 彼女達は多くのバックアップを得た状態で旅に出るということ。

 ならば僕達もそれが可能だ、もしくは相応の実力を示さなければ公平じゃない。

 その相手がスレイブナハトということだ。

 しかし、裏を返せば、


「これって儀礼的に試しているだけで、合格させる気がないですよね?」

「良い着眼点ですね。私もそう思います。リルアの行いを、聖連は許す気がないのです。チャンスは与えた、それを乗り越えられなかったのは貴方達のせい、としたいのですよ。それでも、この試験を受けたいと思いますか?」


 現実はそんなに甘くないよな。

 命に関わる問題だ。

 簡単に許可を出したくないというのも分かる。

 半分は掟を破ったリルアに怒り心頭というのもあるかもしれないが……。


 ここで大事なのは1つだと思う。

 僕とリルアの気持ちが一緒であるかどうか、それだけだ。

 不安気な表情を浮かべるリルア。

 彼女の憂いを晴らせる、僕なりの精一杯の笑顔を作って気持ちを伝える。


「僕はこの試験を受けようと思う。秘宝をスレイブナハトより先に入手して、リルアと旅に出たいんだ。ついでだけど、冒険は僕の夢でもあるしね。そして、最後には必ず君を立派な聖女にしてあげたいと思っている。だから、リルアはどうしたいか本当の気持ちを聞かせて欲しい」


 リルアはブツブツと何言か呟く。

 言っていることは何となく想像がつく。

 大事な場面だけカッコつけて、とかそんなところだろう。

 勝手にイキった未来を妄想するのは僕の得意技だ。

 でも、今回は妄想ではなく現実とするために頑張りたい。

 そして、リルアは僕に負けないくらいの笑顔を作ってくれて、


「私もカイル君と旅に出たい。だから、この勝負必ず勝とう。約束だよ?」

「うん。必ず勝つよ」


 僕が手を差し出すと、リルアは顔を少し赤らめながら手を握ってくれた。

 その光景にゼノス様、ケイトさんが拍手を送ってくれる。

 少ないけれど僕達を応援してくれる人達もいる。

 

 こうして僕とリルアのダンジョン攻略が幕を開けるのだった。

 

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