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第007話 再会

ブクマ・評価のほどよろしくお願いします。

12/7(月)に7話ほどアップする予定です。

 オヴェリアル大聖堂。

 聖連3大支部に数えられ聖女候補育成の役割を担った重要拠点の1つだ。

 一般向けに公開されている場所もあるが、そのほとんどは秘匿されている。

 今は秘匿された場所を進んでいる訳で……。


 赤を基調とした絨毯が続く廊下。

 育成機関の側面もあるため、窓の外には修練所のような場所も見える。

 大聖堂の奥に立ち入る機会なんてそうそうない。

 構造がどうなっているのか心のメモ帳に出来るだけ詳細に書き込んでおく。

 自作小説のネタ収集という、いつもの悪癖が顔を出す。


 僕は2人の修道女に挟まれる形で廊下を歩いていた。

 リルアは街であった憤怒の修道女に連れ去られ、離れ離れとなっている

 お尻百叩きは嫌ー!、とか叫んでたのでどうなったかは察しがつくけど。

 問題は僕の方だ。

 その場の勢いで聖女候補と契約したのがマズかったのだろう。

 もしかしたら、この先で懲罰的な何かを受ける可能性もある。


 昨日まで普通の生活だったのにな……。

 午前中はギルド協会との折衝を済ませ、午後はギルドで不足している道具の買い足しのため街中を巡る。

 つまりは雑用です、はい。

 夜の自由時間は自主訓練を行い、就寝前に趣味の小説を書いて1日が終了する。

 これが僕の日常だった。


 案内されるがままに修道女の後を追う。

 そして、いかにもお偉い様が居そうな扉の前で立ち止まった。 

 

「どうぞ、中へ。私達は外で待機しております」

「ど、どうも」


 お礼を言って、豪奢な扉の中へと入る。

 そこで待っていたのは見覚えのある老人だった。

 高位の者が着用する獅子の紋章が刻まれた青の修道服。

 大神官ゼノス様。

 オヴェリアル大聖堂を統括する長の1人だ。

 今回の聖誕祭で開催の謝辞を述べたのもゼノス様だったのを覚えている。

 

「立ち話もなんですから、こちらの椅子へどうぞ」

「あ、ご丁寧にありがとうございます」


 僕が椅子に腰掛けると、ゼノス様は窓際へと歩を進める。

 外の様子を窺いながら、


「10年ぶりの再会ですか……。貴方は覚えていないかもしれませんが」

 

 10年ぶり――。

 そう言われて思い出すのは1つの悲しき事件だ。

 セファイア村の悲劇。

 死霊達による大量虐殺。

 前兆すら観測されず、大量出現した死霊達によりセファイア村が全滅した事件。


「セファイア村の虐殺事件ですか?」

「そう、あの悲しき事件です」

「それはおかしな話だと思います。1人を除いて村人は全滅したと……」


 その1人はゼノス様ではない。

 唯一の生き残りを救出したのは僕だから知っている。

 鮮血に染まり、紅蓮の炎に焼かれるセファイア村。

 あの地獄の光景は今でも鮮明に思い出すことができる。


「村に直接、居たわけではありません。貴方から授かったのです。セファイア村で唯一、生き残った幼き少女を……」


 記憶が曖昧で思い出せない。

 命からがらセファイア村から逃げた僕は近隣の街へ駆け込んだ。

 教会を発見したところまでは覚えているが、その先の記憶がない。

 怪我と疲労、助かったという安堵感からすぐに深い眠りへと落ちたのだ。

 目覚めた時は病院のベッドの上だった。

 その後、怪我人なのにすぐギルドメンバーに連れ出され、物凄く怒られた。

 雑用係が勝手に消えるんじゃねぇと……。


「もしかして、僕が駆け込んだ教会の関係者ですか?」

「ええ、当時はその教会で神父を務めておりました」

「すみません。教会に入って、すぐに気絶か眠りに落ちたかで記憶がないんです」

「確かに、あの時の貴方は心身共にボロボロの状態でしたからね。私はよく覚えています。勇敢にも死霊が溢れる村に単身飛び込んで、少女を救ったのですから」


 救ったというのは大袈裟だ。

 たまたま、【理の収集家(スタンプラリー)】を眺めていたら偶然見つけただけにすぎない。

 地図上で赤く燃えるセファイア村を。

 ギルドの皆に助けを求めても誰も応じてくれなかった。

 それでも、自分なら何か出来ると思い込んで単身村へと乗り込んだんだ。

 結局、救えた命は1つだけ。

 死霊達に一太刀を加える事も出来ずに、無様に逃げ回っていただけだ。

 

「僕が強ければ、もっと多くを救えたと思います」


 あの時、黒髪の少女を抱えながら自分に誓った言葉を思い出す。

 強くなりたい、強くなるんだ、と。

 それからギルド活動の空き時間は全て、自主訓練に費やすようになった。

 あれから10年もの歳月が流れ、結果ギルドを解雇されるという体たらく。

 情けないったらない。


「そういえば、僕が助けた女の子は元気にしていますか?」

「おや、お気付きにならなかったのですか?」

 

 もう既に会っています、みたいな言い方だ。

 当時、彼女は5歳かそこらの年齢だった。

 あれから10年も経っている。

 子供の成長は早いからな。

 面影がなくなるのも無理はない。

 

「記憶にないです。僕は彼女と何処で会ったのでしょうか?」


 もしかして、僕を案内してくれた女の子の中にいたとか?

 黒髪じゃなかったし、何か違う気がする。


「あんなに顔を近付けたというのに分からなかったのですか?」

「顔を……近付けた?」

「契約の口付けを交わしたのでしょう? リルアこそが当時、貴方がセファイア村から救い出した女の子です」


 ちょっと待て!

 僕が助けたのは黒髪の女の子だ。

 リルアの髪は染めたような形跡が一切ない綺麗な金色をしていたはずだ。


「リルアは金髪ですよね!?」

「5年前ですかな。正式に聖女候補となった日に、神の恩寵を受けることで髪が金色に染まったのです。左目も碧眼となりましたが、今はレンズで隠しています」


 聖女候補にそんな隠し設定があるなんて僕含め下々の民は知らないと思います。

 というか、そんなことはどうでもいい。

 まさか、リルアがセファイア村の子だったなんて。

 思い返せばリルアは僕のことを知っているようだった。

 覚えているはずだ。

 彼女にとって命を救ってくれた恩人が僕なんだから。


「運命とは不思議なモノです」

「運命、ですか?」

「リルアさんは掟に従い、教会が選定した者と契約するはずだったのです。神の悪戯か、命の恩人である貴方と出会い、契約を結んだ。これを運命と言わずして、何と言うのか」


 ゼノス様の言葉で確信に変わる。

 リルアはやはり教会の掟に背いて、僕と契約したのだと。

 

「掟を破るとリルアはどうなるのですか?」

「丁度、それを話し合っているところです。前例が無い事案でしてね。私は聖女候補として旅立つことを許可していますが、他の大神官達が反対してましてな。懲罰も覚悟しなければならない状況です」


 懲罰か……。

 何とかならないのだろうか。

 例えばだけど、


「僕が唆したとかで、刑を軽くすることはできませんか?」

「街の人達が一部始終を見てましてね。リルアさんが先に仕掛けたのでしょう?」

「リルアが行動に出たのは、僕が不甲斐ないからです」

「事情は全て知っています。ですが、掟を破ったのも事実ですから」


 ゼノス様の話では教会の意見は二分しているという。

 掟を破ったことに対する罰を与えるか、人助けをした温情措置で無罪か。

 今は掟を尊重するべきだという意見に傾きつつあるという。


「結論が出るまで待ちましょう」


 ゼノス様が穏やかな顔で僕の肩を叩く。

 焦っても何も変わらない、そう言わんばかりの表情だ。

 その時だった。

 ドアをノックする音が聞こえる。


「どなたかな?」

「ケイトです。リルアの調教が終わりましたのでお連れしました」


 調教ってお尻百叩きの刑だよね?

 ガチャりとドアが開くと、目を真っ赤にしたリルアが立っていた。

 隣には憤怒の修道女さん。

 どうやら、大分絞られたらしい。

 お尻が痛いのか少し猫背気味だ。

 リルアが10年前に救った少女なのだとすると、実に感慨深いものがある。

 僕の視線に今までにない色を感じたのかリルアは、


「ゼノス様に教えてもらったんだ……。私がセファイア村の女の子だって」


 沢山泣いたせいか、そうでないのか判断が難しいが顔が赤くなった気がする。

 そんなリルアのつま先から頭のてっぺんまで確認して、


「全然気付かなかったよ。凄く可愛い子に成長したんだね。背だって………、えっと、こんなに大きくなって」

 

 しまったぁーーー!!!

 スラスラ言えば良いものをリルアの小さな背丈を見て言い淀んでしまった。

 事前察知による回避行動を取ろうとしたが時既に遅し!


「私も会えて、とーっても、嬉しい!」


 感謝の言葉と共にリルアの素早い掌底が僕の鳩尾へと突き刺さる。


「グフッ!!!」


 こんなに強く成長するとは夢にも思っていなかったです。

 そうして僕はしばらくの間、ゼノス様の執務室でのたうち回るのであった。

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