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第003話 聖女候補

はじめまして、にゃると申します。

ブクマ・評価のほどよろしくお願いします。

12/6(日)に5話ほどアップする予定です。

12/7(月)に7話ほどアップする予定です。

 グレインの威圧的な言葉に物怖じせずミートパイを食べ続ける少女。

 一方、グレインは何もせずに彼女が食べる様子をジッと睨み続けている。

 2人が放つ異様な空気に酒場の誰もが動けずにいた。


 そうして5分くらいが経過しただろうか。

 

 少女は手早く食事を済ませると僕達が座るテーブルへと1歩を踏み出す。

 それが始まりの合図となった。

 顔面にパイを受けたニーナが同じポテトパイを持って少女に襲い掛かる。


「さっきの仕返しよ。このクソガキ!」


 洗練された動きとはこの事を言うのだろうか。

 相手の勢いを利用した足払い。

 宙で半回転したニーナの背中に軽く掌底を叩き込む。

 その勢いで店の外に吹っ飛ばされるニーナ。

 ご丁寧に投げつけようとしたパイが再び顔面にヒットする形で。

 

 この娘、メチャクチャ強い。


 溜息をひとつ、そして服についた埃を2、3度払う。

 それから、バーテンダーにチョイチョイと人差し指で誘うような合図を送ると、


「スレッジバーボンを2本頂戴。投げて貰って構わないわ」


 スレッジバーボン。

 酒場アリアドネで扱う有名な高級酒の1つだ。

 言われるがままに2本の酒瓶を少女へと投げるバーテンダー。

 それを造作もない仕草でキャッチする。

 それから笑顔でグレイン、ファーカスを交互に見ながら、


「私の奢りよ。少しだけ三十路のお兄さんと話す時間を頂戴」

「頂こう」


 2本の酒瓶は少女からグレイン達へ。

 再度、2本の酒瓶が宙を舞う。

 それを受け取った2人は少しだけ椅子を引いて僕から距離を取る。

 少女に向けて1度軽く酒瓶を掲げて、酒をグイっと煽る。


 一方、少女はゆっくりと歩を進め、遂には僕の眼前に立った。

 それから、小さな両手で僕の右手を包んで顔をマジマジと観察しながら、


「三十路って言ってたからもっとおじさんなのかと思ってたけど若いね」

「ど、どうもありがとう」

「ん~、ちょっと待って、何処かで会ったことない?」

「僕にそんな記憶は無いけど……」


 少女はグイっと僕へ顔を近付けると急にポッと顔を真っ赤にする。

 それから考え込む仕草を取り、得心したと言った感じで大きく頷く。


「やっぱり私の勘違い。ところでお兄さん、質問いい?」

「はい…」

「こんなに馬鹿にされても、まだ冒険者を続けたいの?」

「……子供の頃からの夢だから。僕にはそれしかない」

「可愛いね。三十路になっても捨てきれない夢か……」


 可愛いね、という少女の表情に頬が熱くなる。

 こんな小さな子供に何をドキッとしてるんだ僕は。

 優しく諭されて、冒険が子供の頃からの夢であることも語って。

 

「それなら、私だけの従者になってみない?」

「えっ?」

「私と世界中を旅するの。聖女候補の従者として契約してね」


 聖女、候補?

 従者?

 見た目10歳くらいだよね?

 聖女候補って15歳で旅に出るって話じゃなかったっけ?

 少女が何を言ってるのか全く理解出来ない。

 この事態を整理しようと脳みそをフル回転させる。

 けれど、その思考を遮るように酒瓶を叩きつける音が酒場に鳴り響く。


「酒が切れた。時間切れだ」

「あら残念。もう少しゆっくり味わって飲んでも良かったんじゃない?」

「暑苦しいおっさんと幼女の会話は見るに堪えないんでな」

「幼女って……、私のこと?」


 僕の右手を包む少女の両手に力が入る。

 かなり痛い。

 どうやら、少女にとって幼女という言葉は禁句のようだ。


「自覚があるようだなチンチクリン。聖女候補ってのも嘘くせぇ話だぜ」

「はあ!? 何ですって?」

「今日は大聖堂で契約の儀が行われているはずだ。聖女候補が酒場でミートパイなんか食ってるわけねぇだろ!」


 痛いところを突かれた、と罰の悪そうな表情を浮かべる少女。

 確かにグレインの話は的を射ている。

 今日は聖誕祭が行われる日だ。

 そんな大事な日に聖女候補が1人酒場でパイなんか食べているだろうか。 


「分かったわ。店の外に出なさい。証拠を見せてあげる」

「証拠だと? どんな証拠を持ってるって言うんだ?」

「私の従者と貴方で勝負をするの、簡単でしょ?」


 おかしな話だ。

 ついさっき僕に対して従者の誘いを掛けたばかりではないか。

 聖女候補に従者は1人のみ。

 子供でも知ってる普遍の真理だ。


 グレインはヤル気満々で既に酒場の出口に手を掛けていた。

 呆然と座る僕の手を少女はガッと掴んで力強く引っ張る。


「何をボッーとしてるのよ。私の従者なんだから早く来なさい」

「えっ? 僕が、従者?」

「他に誰がいるの? 貴方が戦うのよ。あの筋肉マッチョと」

「無理だよ! 僕に勝てるわけがない!」

「弱音を吐くんじゃない。リストラ君」

「リストラ君!? ちょっと、そのあだ名は酷いでしょ!」


 君より年上なんだけどな……僕。


「話、聞いてたんだよね。僕のスキルは全てにおいて役立たずで……」

「私のスキルでリストラ君を最強……、にするから多分、大丈夫?」

「最後、疑問形だよ! ねぇっ!?」


 聖女候補の従者に選ばれて、ついさっき解雇されたギルドの幹部と戦う。

 何でこうなった。

 見た目10歳の聖女候補に手を引っ張られる三十路男。

 普通の人が傍から見たら僕達は一体どのように映るのだろうか。

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