第002話 始まりの日(リルア・リフレイン)
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12/6(日)に5話ほどアップする予定です。
12/7(月)に7話ほどアップする予定です。
大聖堂に描かれた円形の巨大魔法陣。
その外周にはヒト1人が座る事が可能な小さな円が7つ等間隔に並んでいる。
小さな円の中心で祈りを捧げる7人の聖女候補達。
祈りは魔法陣に聖なる力を与え、輝きを大きなモノとしていく。
神からの恩寵。
聖女にのみ与えられし特殊な力が私達の中に宿るのを感じる。
儀式は数時間にも及び、全てが終わる頃には皆疲弊しきっていた。
それでも、神に授かった力をお披露目したい聖女達はお喋りが弾む。
「私、《雷帝》のスキルを頂きましたわ」
「それは素晴らしい。私は《複体群衆》のスキルを頂戴しました」
ライゼクスは契約者に雷神の加護を付与する。
アバターは契約者と同等の実力を持つ複数の分身体を作る。
どれも伝承に記載されるレアな能力だ。
聖女候補が授かるスキルは契約者を前提とした特殊な力を持つ。
一生涯自分に忠誠を誓う存在を選んで契約を結ぶ。
その従者と共に真なる聖女となるべく長い旅路に出るのだ。
聖女候補の年齢は15。
従者は15歳から20歳の間で選ばれる。
例外はない。
何故ならその候補は教会が集めた者から選ぶ掟があるからだ。
聖女と従者は長い歴史を紐解いても恋仲となる事が多い。
そのため、各国の王子や有名貴族から選出される。
勿論、聖女を守る従者であるためその実力は折り紙付きだ。
スキルを授かった後、すぐさま従者との顔合わせのため教会に向かう。
時間を掛けて親睦を深める、なんてことはしない。
古代からの習わし通り出会った瞬間、お互いが感じるままに直観で決めるのだ。
聖女の従者となる相手は生を受けた瞬間に運命として定められている――。
という謎の理屈から時間を掛けても結果は変わらないという考えが根底にある。
教会の戸を開けると、そこにはいかにもな面々が礼儀正しく鎮座していた。
誰も彼もが容姿端麗で微笑んだ瞬間、真っ白な歯がキラリと輝きを見せる。
その笑顔に私もぎこちない笑みを返す。
教会の長であるゼノス大神官が教壇へと向かう。
登壇すると1つ咳払いを入れてから大聖堂全体に響くような声で、
「これより、聖女と従者による契約の儀を執り行います!」
いよいよ始まるのだ。
7人の聖女候補、その従者を決める運命の時間が――。
――それから30分後。
ゼノス様が教会の皆に聞こえるように凛とした声を張り上げる。
「聖女候補の皆さん、従者の方は決まりましたか?」
「リルアさんがまだですの」
「何故、従者を選ばないのですかリルアさん?」
「選ばない、ではなく選ばれなかったのです。ゼノス大神官」
そーい!
セーラ、それを言うんじゃない。
皆の冷たい視線が私に突き刺さる。
選ばれなかった理由は端的に言えば3つあると推測される。
私の背が子供みたいに小さいこと。
私のスキルが《親愛なる祝福》とかいう微妙なスキルであること。
私がここの王族やら貴族に全く興味がないこと。
しれっと黙っていればバレないかと思ったがここは聖女候補の皆さま。
余り者が居ればすぐさま指摘してくれる優しい心の持ち主ばかりだ。
従者を選ばない私にゼノス様は穏やかな笑顔で理由を問い質してくる。
「リルアさん。意中の従者が見つからなかったのですか?」
ゼノス様の発言に従者として選ばれなかったイケメン達が視線を逸らす。
私と目が合った瞬間に従者として確定してしまうからだ。
この場では聖女候補の方が圧倒的に権力が強い。
それにしてもここまであからさまに視線を逸らさなくてもよくありませんか?
興味がない人達とはいえ多少なりとも心に傷は付く。
確かに背は低いし、幼児体型だし、胸はぺったんこだし……。
異性として興味が無いのも理解できるよ。
王族であれば隣に凛とした麗しき女性を並べたいとは思うしね。
スキルもギフトとか言う微妙な力だもん。
従者のスキル習熟度に合わせて特典を付けるって何って感じ。
他の娘は人外の力を与えるのに対して、私のスキルは内容が具体的でないし、あくまで本人のスキルが持つ能力の延長線上にある強化しか入らなそうに思える。
炎の剣が出せるとするなら、もっと凄い炎が出せますみたいな……。
自分の努力次第でどうにかなりそうな強化なら、全く別の……《ライゼクス》みたいな雷神の力を宿すみたいな能力を貰った方がいいに決まってる。
気が乗らないな。
我が儘であることは理解しているが、ゼノス様に無理を承知で願い出てみる。
「1日だけ私に下さい。必ず従者を決めますから、少しだけ考える時間を」
「分かりました。規則に反する行いですが、それもまた運命かもしれません」
「許して下さるのですか?」
「ええ、但し明日には必ず従者を選んでもらいますよ。いいですね?」
「ありがとうございます」
ゼノス様に頭を下げ、教会を後にする。
視界の隅には誓約の儀を交わす聖女候補と従者の姿があった。
契約の光によって、鮮明に映し出される男女による濃密な口付け。
私は逃げるように教会を飛び出し、街にある酒場へと足を向ける。
「ポテトパイとミートパイでも食べて、少し落ち着こう」
大好物を食べれば、少しは頭も冷えるだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
頭を冷やすつもりで酒場に来たんだけど……。
それが、こんなイライラする場面に出くわすなんて。
大好きなポテトパイとミートパイを睨みつつ、聞き耳を立てる私。
屑、無能、ゴミ、三十路、花丸。
どうやら三十路の男性に無理矢理ギルド脱退を迫っているようだった。
そして、話を聞く限り【スタンプラリー】は私と同じく微妙なスキルみたい。
あれよあれよと降り注ぐ罵詈雑言。
屑、無能、ゴミみたいなスキルで何が悪い。
背が小さくて、童顔で、幼児体型で何が悪いってのよ。
まるで自分が罵倒されているようで無性に腹が立ってきた。
後半は自分の容姿に関する全く関係ない怒りだけどさ。
不意にドカンと酒場を包む程の笑い声が上がる。
そこには弱者を甚振って笑い者にする悪魔の姿があった。
聖女たる者、いつ如何なる時も清く正しく美しく。
弱者が居れば導となって助けるべし。
少し注意してやろうと席を引いた時だった。
ガタンと男性が席から倒れた。
力が入らないのか這いつくばる様に入口へと向かう。
彼に救いの手を差し伸べる者はいない。
それどころか冷たい刃のような笑い声が降り注ぐ。
もう止めてあげてよ……。
それでも容赦なく無理矢理椅子に座らせて脱退を強制する。
そのあまりに痛々しい姿にツーと頬を流れるモノがあった。
ふざけるな……。
聖女候補らしく、言葉で諭そうと思ったがもう止めだ。
テーブルに並べられたポテトパイを手に取る。
脳裏をよぎるは師であるシスター達の静止の声。
—―従者を決める大事な時期に問題事を起こしてはなりませんよ。
知ったことか。
コイツ等みたいな屑は粛清する。
結果、どうなったって構わない。
聖女候補なんて私以外に6人もいるし、どうとでもなる。
まずはあの女の顔面に一発入れてやる。
貴方に罪はないけど許してね。
美味しそうな湯気を放つポテトパイにまずは謝罪。
そして、酒場の客達を先導する馬鹿に全力で大好物のポテトパイを投げつけた。
一般人のスキルは【】、聖女のスキルは《》で表現しています。