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ショートショート7月~

ニセモノだらけ

作者: たかさば

「こちら2LDKの割には広くてですね、フローリングだし、掃除もしやすくて…。」


急遽引っ越しすることになった僕は、新しく住む部屋を探すべく、不動産仲介会社のお兄さんと一緒に内見に来ている。五階建ての、五階部分、…告知事項ありかあ。


「ここ家賃やすいですよね、ええと…」

「すみません、ここ告知事項がありましてですね、そこのベランダから転落事故があって。」


まあ、ベランダに出なきゃ大丈夫かな?


木目調のクローゼットに、フローリングマット、大理石風キッチン天板。

きれいな見た目してるけど、まあ偽物ばっかだな。


日当たりは悪くない、角部屋だし、ここに決めるか。


「じゃあ、ここにします。」

「ありがとうございます。」


かくして決まった僕の新居、なかなかに住み心地は良い。

今日は一人で、引っ越し祝いパーティーだ。


偽物の大理石の上で調理をした料理が、テーブルに並ぶ。

テーブルは普通の木製だ。

テーブルの乗っているリビングの床は、フローリングっぽく見えるシート張りだけどさ。

ちなみに奥の部屋の畳はビニール製?の人工畳だったりする。


テーブルの上には、僕の好物がずらり。

蟹の偽物のカニカマに、ホタテの偽物のホタテフライ。

果汁ゼロのオレンジジュースに、マンナンごはん。

大豆ミートの唐揚げに、ネギトロとわさび。

ああそうだ、コーヒーにはコーヒーフレッシュが欠かせないな。


食材の乗ってるお皿は木目プリントがされてるプラスチックだ。

…偽物だらけの愉快な食卓。


「やあやあ、豪勢ですね、お邪魔しますよ。」

「あれ、なんだよ、いきなり。」


僕の目の前に、人のふりをした偽物があらわれた。

こいつは何かと僕の目の前に現れるんだ、さも友達であるかのようなふりをしてさ…。


「いやいや、そこにね、幽霊のフリしたのがいるから、ちょっといただいていこうかと思って。」

「いいの?ありがとう。じゃあ、君も食べていきなよ。」


奥の部屋から、恨めしそうに僕を見ているおじさん。

告知事項の人だと思うんだけどさ、視線気になってたんだ、いやあ、助かった。


「ごちそうにあずかりますね。ま、その前に刈っときますか。」


人のふりをした偽物は、おじさんを鎌でさっくり仕留めた。

…ああ、部屋の空気が変わったな。こんなにこの部屋は明るかったのか、ふうむ。


「もうね、ほんと気が弱い人はね、怨念化する勇気もない癖に留まっちゃってね、こっちも商売あがっちゃったりなんですよ。…鎌が泣いてますよ、ちゃんとした魂を刈らせろって。」

「まあまあ、そのうち僕の魂刈らせてあげるからさあ。それまではがんばりなよ。」


僕はネギトロのふりをしたアカマンボウの脂和えをワサビのフリした香辛料入り醤油につけてもぐもぐしながら、人のふりをしている偽物を労う。ねぎだけにね。はは、おもしろくないな。


「あのね!!貴方みたいな力のある人刈ったら私の鎌が壊れちゃいますよ!!!遠慮します!!」

「そんな大げさな、僕はただの人だよ?」


カニカマもホタテフライもうまいなあ、これはもう偽物というよりも、こういう食べ物だね、うん。


「普通の人のふりしたって駄目ですよ!普通の人は僕とこんなにマッタリ会話なんてしませんからね?!」

「まあまあ、そうカリカリしなさんな。」


僕は大豆ミートの唐揚げをぱくつきながら、マンナンごはんを掻っ込む。いやあ、最近ちょっと腹出てきちゃってさあ、カロリー制限してんのさ。


「カリカリしてんのはあなたの方なんじゃないですか、この前悪霊とやらかしたじゃないですか。」

「あれはねー、負けるからよろしくねって言ったら相手が怒っちゃったからねえ…。」


悪霊名乗るくらいならさあ、演技することも大事だってなんで気が付いてくれないのかね。おかげで僕は前のアパートから引っ越さざるを得なくなっちゃうしさあ。住人に乗り移って放火させるとかいつの時代の悪霊だよ。令和の世の中舐めてんな、マジで。


「だから!そういうときは僕に連絡くださいって言ってるでしょ!!」

「だって僕普通の人だからさあ、悪魔呼ぶわけにいかないじゃん!!」


霊能力者のふりをしている、普通の人のふりをするって大変なんだよ…。


「中途半端に能力使ってるからですよ、もうちょっと開き直ったらいいのに。」

「目立ちたくないんだよ。なんかうまい手はないもんか…。」


悪魔はオレンジジュースが気に入ったようだ。ぐびぐび飲んでるよ。


「もう人間やめて魔王になっちゃえばいいのに。今魔王いないから、皆めっちゃ喜びますよ。」


ぶはっ!!


僕はコーヒーフレッシュたっぷりのコーヒーを噴出してしまった。


「フフフ、そしたら僕の事第一の配下にしてくださいね!」

「やだよ!!絶対やんないからな!!!」


食べ終わった器をまとめて、片づけようと立ち上がると。


「そんな!魔王様のお手を煩わせるわけには!おい!!出てこい!片づけの手伝いをするのだ!!」


ぱんっぱんっ!!


悪魔が手を叩くと、ちんまい小悪魔どもが出てきて、食器を片付け始めたぞ…!!!


「ちょ!!勝手な事すんなってば!!僕はただの人間だってば!!」

「今日から魔王になったらいいんですよ、よっ魔王様っ!」


ここで流されたらダメだ!!

僕は普通の人間として人生を終えると決めている!!!


「…悪霊退散!」

「わー!殺生な―!また来まーす!!」


僕はフルパワーで悪魔どもを僕の部屋から追い出した。


…僕が本物の魔王になる日は来ない!!

来ないんだからな!!!


僕は…普通の人間のふりをしている、ちょっと変わってる人間なだけであってっ!!!


人間のふりをしている、魔王なんかじゃ、ないんだからな――――!!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] まーたやらかしがちな少年 [気になる点] 目立ってもいいじゃない。魔王になっちゃいなよw
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