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雲の中で笑う彼

作者: かねっこんれんこん

雲の上に青い空が広がっているという確証もなく、彼はただ、雲に入り、雲の上を目指していた。雲の中は、白く、そして果てしない。しかしそれでも、彼はただがむしゃらに進んでいた。


『中学二年生の六月だった。忘れもしない、国語の時間。僕はその授業二回目のトイレに行くと先生に伝えた。僕は素行が悪く態度も悪かった。そんな僕に向けた先生の目はうす暗く、不気味で、そして顔はさぼりだ。とでもいいたそうだった。その時の僕のくやしさは決して忘れることができない。

数日後、僕は病院のベットにいた。硬く寝心地の悪いベットだった。

「病名はネフローゼです。一か月半くらい入院していただきます。」

僕の頭の中には、このフレーズだけが頭を幾度となく反芻していた。しかし、僕のその時の気持ちは、「かなしい」ではなかった。』。


ここまで言うと彼は、「病気っていうのは、甘くないんだよ。」と少し笑った顔で言った。


 『一か月半がたち、退院した。学校に行くとみんなに「ニキビ増えたね。」と言われた。薬の影響で、ニキビができやすくなっていたのだ。僕はこの時も悲しさは感じなかった。学校に行けるようになりうれしかったのだ。しかし、数日後再発した。医者は特に驚くそぶりを見せずに淡々と薬を処方していた。そして、僕の顔は腫れた。所謂、ムーンフェイスというやつだ。そして、僕は悲しかった。


 「その時から二年間鏡で顔を見れなかったからね。」と彼はまた笑った顔で言った。

 「どうしていつも笑っているの」と聞いても、彼はただ笑うだけだった。


 『僕は結局冬休み前に二回目の入院をした。塩分制限のため、汁がないみそ汁などのまずい食事とともに、一日を過ごしていた。何となく過ごしていた。悲しささえも忘れてしまいそうだった。しかし、体はそれどころではなかった。はげしい腹痛、下痢それを乗り越えた後も、数値はよくならなかった。』


 そして、彼は僕に聞いた。

 「体も太って、顔も晴れて、運動もしてなくて、小学校から続けているピアノも弾いていない。授業も受けてなくて、勉強に遅れている。この僕に何かある?」と。


 『僕はもう、勉強するしかなかった。進学校と呼ばれる学校に通っている、僕にはそれしかなかった。そして、勉強という砦があることに感謝するしかなかった。』


 ・・・

 『入院する前の面談でワースト10といわれていた僕は追いつくのではなく、トップになろうと思った。なりたいとか、なれたらいいなとかではなく、僕の気持ちはなる!これだけだった。主治医や看護師には、がり勉の目で見られた。そしていつも会話の最後には「○○学校だもんね。と言って去っていった。正直、ちがう!と言いたかったが、言わずに黙々と勉強した。もちろん勉強以外にも、映画見たり、ゲームしたり、していたのだが、彼女らには、勉強しているという事実しか残らなかったようだ。

 そして、ぼくは一か月半勉強をたくさんして、退院した。退院したけど顔は腫れていた。戻ってきたとき僕は友達がいなかった。本当に一人だった。僕が、そのクラスで過ごした時間が短く、みんな和を作っていた。そしてまた、僕も話しかけに行けなかった。顔が腫れ、すごく醜くなったであろう僕に、もはや話かけに行く勇気などなかった。僕は入院前、すごく変人だった。馬鹿なことをいっぱいしていた。それで面白いやつとは思われていたかもしれないけど、まともな友人関係は築いていなかった。もちろん戻ってきた日はそれなりに人と話した。変な奴だということはみんな知っていたから、面白半分で級長やれと言われ、そして僕はやった。でもその日だけだった。次の日から話す人はほとんどいなかった。別のクラスから中一の時仲が良かった人が、たまにクラスに来ても、ぎょっとした目で見られた。僕は何とか前みたいな、変な奴を演じようと必死だった。普通は変な奴から脱却しようとするけれど、僕は人と接するために演じるしかなかった。通院によって遅刻したとき、仮面をつけてクラスに入った。そこそこうけた時も滑った時もあった。先生も怒らないでくれた。再発したと告げられた日に仮面をつけて遅刻した時もある。仮にその後仮面を外しても僕は、気持ちに仮面をつけて、学校生活を送らなければならなかった。

 周りからは「ヤバいやつ」と思われたり、言われたりした。でもそれでよかった。少しは関わってくれる人が出てきた。それで僕もすこし勇気がついた。隣の席の人とも仲良くなれた。』


 この時の彼はまるで小学生のように、無邪気に笑っていた。


 『でも僕は一つ決めていた。来年のクラス替えの後心機一転頑張ろうと。

  ・・・

  その矢先、僕は春休み前に再発した。クラス替えをチャンスにしていた僕にとって、始業式以降も入院することは絶対に避けたいことだった。とにかく祈った。病気の事で僕ができることはないので、学校生活ができるよう少しずつ運動して、体力をつけようとした。準備していれば、祈りも通じると思ったからだ。その後願い通り、病気の値は落ち着き、また主治医も最短での退院ルートを用意してくれて始業式までに退院した。


 そして彼はいったん席を外した。


 彼を待つ間がすごく長く感じられた。人生の倍の時間を生きているかのような感覚になった。


 『そして運命のクラス替えの日になった。同じクラスの名簿を見ると、中一の時仲が良かった人や、去年の最後、隣で仲良くしていた人が同じクラスにいた。僕はうれしかった。神はいるとこの時人生で初めて思った。ここからもう一度、コミュニケーションをとって、自分を取り戻そうと。そして僕は、医者の指示に逆らった。病人と思われることは僕にとって死活問題だった。だから、運動制限をかけられている中で、体育をやり、そして部活も出た。再発する可能性がある行動だった。もちろん悩んだ。それでも、僕は運動する方を選んだ。選ぶしかなかった。病人として同情されたり、気を使われたりされたくなかったのだ。もう一つ指示に従わなかった行動がある。それはマスク着用だ。免疫力が低下していた、僕にとってマスク着用は必須だった。でも周りから免疫がないから着用していると思われないことはわかっていた。

 「腫れた顔を隠すため。」と。

 マスクをどうするかは二週間程度悩んだ。なぜなら一番の優先事項はやはり再発しないことだからだ。ここでマスクを外すことは、油断している行動かもしれないなどの考えが頭の中をぐるぐる回った。結局僕は外した。明確な意思をもって外した。「再発させれるならさせてみろ」これが僕が出した意思だった。未熟者の世間を知らないおろそかな行動である。病気をなめている行動かもしれない。でも、当時僕にこれ以外の選択肢はなかったように思える。この行動によって、もし困るとしてもそれは僕だけだから。』


 彼は最後の一文を読むときすごく辛そうだった。親の事を考えているのはわかったが触れないで置いた。


 『僕は、そして学校では病気がなるべくマイナスの材料にならないように気を付けた。腫れた顔で変顔をしたり、副作用で出来た足の線をあえて見せたりした。入れ墨だよ、かっこいいだろ。とできるだけネタにした。煽られても怒るのではなく、できる限り、良い返しを考えた。なぜなら、僕も今まで外見を煽ったり、いじったりしたことはあるし、逆の立場でも煽ると思ったからだ。煽られた時の返しの練習を一人で家でやったこともある。』


 「つらくないのかってー?」彼は急に言った。

 「学校では能天気に煽らせたり、笑ったりしたけど、やっぱり外見で笑われるという事実は僕の心に刺さったよ。だから家で一人でズドーンと落ち込んだ日が何日もあるよ。」と彼は答えた。


 『僕は中二の時孤独だった。だから煽ってくれる行為もうれしかった。勿論そうじゃないコミュニケーションをとらないといけないことも分かっていたけど、はじめはそれでよかった。でもずっとするわけにはいかないから、変わらないといけなかった。病気は中三になり、落ち着いた。そして変わらないといけないことはたくさんあった。50m走が11秒台になってしまったから、なんとか8秒台にするべく毎日走った。長距離を走る体力なんてなくなっていたからまずは四百mを長距離走として走った。体力を取り戻すのに間に合わなくて、体育祭の四百m走ではぶっちぎりのどべ。まだ四百mを長距離として練習していたころだったから。でも正々堂々どべになったつもり。自分はどべなのだ。と胸を張って退場した。そしてそこから、長距離を練習する距離を長くして、10キロのマラソン大会を遅いけれど、どべではない順位で走りきることができるようにはなった。そして入院中太ってしまったから、おやつは一切禁止して、ダイエットして10キロやせた。まだ自分で顔を鏡で見ることはできなかったけど、体の調子は良かった。顔の腫れもひいたよ。と言われた。そして副作用もなくなり、外見で煽られることはなくなった。煽っていた彼らは病気の副作用だってことを知らないから、「やせたね。」っていう。でもそれでよかった。』


 僕は彼がなぜいつも笑っているのかがわかったような気がした。


 『そしてしばらくするといつの間にか自分の顔を見れるようになっていた。そこにいたのは、紛れもない、僕だった。久しぶりに小学校の時の友達と話すと、変わってないねって言う。それがとてもうれしいのだ。』


 そして時は今に至る。


『僕はいつ再発するかわからない。でも僕の頑張りを無駄にしないでくれよ。病気が近頃再発していないから、気が抜けている感じがする。』

と彼は僕に喝を入れ、消えた。


 

頑張れるって素晴らしいことだ。そしてそのためには笑うことが必要だ。


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[一言] 僕の心境の変化がとても良かった
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