2話 初めてモンスターと戦ってみたんだか
暁はダンジョンを脱出する為に早速行動する事にした。
「まずは周りの確認だな」
広さはだいたい野球場と同じ位で壁は洞窟のようにゴツゴツとした岩で出来ているが何故か壁は発光しており視覚の確保は問題ない。
部屋の奥には台座のようなものがあった。
この広場には、その台座と上に登る階段しか無いため、暁はとりあえず台座の方へと向かった。
「この赤い石はなんだ?鑑定してみるか」
台座の上には人の頭ほどある赤い石が置かれていた。
暁はその石を鑑定する。
〈ダンジョンコア〉
ダンジョンの最奥にあるダンジョンの心臓の役割を持った石。
ダンジョンコアを破壊するとダンジョンは機能を停止し、そのダンジョンでモンスターを生成出来なくなる。
ただし、既に生成されたモンスターはそのまま残る。
どうやらこの石はダンジョンコアと呼ばれる物のようだ。
「このダンジョンコアを破壊するモンスターが生成されないのか。とりあえずこれは壊そう」
暁はダンジョンコアに、ついさっき手に入れたシミターを突き刺す。
シミターは抵抗無くダンジョンコアに刺さり、一瞬発光した後、赤色だったダンジョンコアは黒色になった。
〈ダンジョンコアを破壊しました。獣王ダンジョンは機能を停止しました〉
暁の脳内に機械のような声が響く。
「これで良しと。一応このダンジョンコアとさっきの魔石はアイテムボックスに入れておくか。〈アイテムボックス〉」
暁がアイテムボックスを唱えると手に持っていた魔石は消えてアイテムボックスの中に収納されたが、台座の上にあったダンジョンコアはそのままだった。
次は手で触れながらもう一度、アイテムボックスを使う。
「なるほど。手で触っている物しか入らないのか。他のスキルも研究してみないとな」
無事、ダンジョンコアと魔石をアイテムボックスに収納した暁は、他のスキルも確かめる事にした。
「あとよく分からないスキルは当たり判定補正か」
暁は剣を構えて振ってみる。
しかし、特に変わった事は無く、剣の風を切る音がするだけだった。
「このスキルはどうやって使うんだ?」
次はスキル名を唱えながら剣を振る。
「〈当たり判定補正〉!!」
しかし結果は変わらず、ただ風を切る音がするだけで終わった。
「よく分からないな。とりあえず階段を登ってみるか」
暁は階段の方へと足を進める。
階段を登りきると、そこは真っ直ぐ伸びた一本道で壁は先程の階段下と同じ岩で覆われていた。
「とりあえず真っ直ぐ進むしかないか」
暁は腰に付けた剣に手を触れながら慎重に前に進む。
壁が発光している為の視界は確保出来ているが、何かに見られているような不快感を感じとても不気味である。
慎重にしかし少しずつ進む暁の前に突然巨大な黒い影が現れた。
「ワォォォーン!!」
暁の目の前に突然現れたのは黒い、そして3メートルはあるであろう巨大な狼だった。
その狼は大きな口から牙を覗かせヨダレを垂らしながらこちらを見ている。
暁は慌てて剣を構えるが、目の前の狼を見て動く事も、声を出すことも出来ない。
狼は少しずつこちらに近づいてきて、そして暁に飛び掛かった。
「うゎぁぁぁー!!」
暁は慌てて剣を振り回すが狼に当たる事は無い。
しかし突然。
「きゃいん!!」
暁の耳に狼の悲鳴が聞こえた。
狼は左目に大きな傷ができ、その傷からは大量の血が流れ出していた。
狼は暁が持った剣を警戒しながらこちらを見ている。
「なんで狼にダメージが?剣は当たってないはずなのに」
その時、暁はある事を思い出した。
当たり判定補正のスキルである。
スキルの説明には攻撃が当たりやすくなると書かれていた。ならばこれもスキルの効果かもしれない。
「もしスキルのおかげなら、もう一度」
暁は、剣を上から下へ振り下ろす。
暁と狼の距離は約5メートル。この距離では剣が当たるはずが無い。
狼は野生の勘で危険を感じたのか横に飛び逃げるが、先程切られた左目の傷のせいで反応が遅れ、暁の攻撃が狼の左足に当たった。
狼の左足は切り飛ばされ、動けなくなってしまった。
「やっぱりこれはスキルの能力なのか」
暁は自分のスキルの能力に驚きながらも、もう一度剣を振って、狼にトドメを指した。
息絶えた狼は黒い光になりそのまま消え去った。
「ふぅー、何とかなったな。けどこの当たり判定補正のスキル、めちゃくちゃチートだな」
暁の持った剣には血がべったりと付いていた。
「どっと疲れたな。おもに精神的に」
暁は初めての命を懸けた戦いを終え、その場に座り込んだ。