1話 ダンジョンに落ちたようです
俺、建宮暁は憂鬱な朝を迎えていた。
高校を卒業した俺は、家があまり裕福ではなかった事もあり、そのまま就職することになった。
あまり景気が良く無い事もあり就職活動は失敗ばかりだったが、何とか採用された会社は超絶ブラック企業だった。
休日出勤当たり前、残業手当は無し、絵に書いたようなブラック企業でも辞めて他に行くあても無い俺は、25歳になった今もこの会社で働いている。
「朝から憂鬱だ。こんな会社もう辞めてやる」
土日の休日出勤後の月曜日の朝、愚痴を言いながらも渋々会社に出勤する。
「今朝は混んでるな」
朝から渋滞に引っ掛かり車の中でイライラしていた暁の耳に、突然警報の音が響き渡る。
《ダンジョンの発生を確認。直ちに指定のシェルターまで避難してください。繰り返します...》
「今すぐ避難しないと!その前に今日の会議で使う資料も持っていかないと!」
周りの人々がシェルターの方角へ逃げていく中、暁は鞄を持って車を出ようとするが焦ってしまった為に鞄の中身を車の中にばら蒔いてしまった。
「クソっ!急いでる時に限ってどうして!うっ、うわぁぁぁ」
暁は慌てて資料を拾うが、地割れが起き、暁の乗った車は、そのままどこまで続くか分からない地面の底へと落ちていった。
◇
〈初めてダンジョンに侵入しました。ボーナススキルを獲得しました〉
〈ダンジョンボスを討伐しました。ボーナススキルを獲得しました〉
〈世界で初めてダンジョンをクリアしました。ボーナススキルを獲得しました。〉
暁は、頭に響く機械のような声で目を覚ました。
「ここはいったいどこだ?」
車の中でエアクッションに包まれながら目を覚ました暁は、フラフラする頭を振り意識を覚醒させる。
「ここはダンジョンか?なんで俺は無事なんだ?」
車から降りた暁は周りを見渡すと、そこは薄暗い洞窟だった。
車の近くには拳程の紫の石と、刀身に反りのあるシミターのような剣が落ちていた。
「ここはダンジョンの中か?そういえばさっき頭の中に声が聞こえた気がするな。ボスを倒したとか、クリア、あとはスキルだったか?」
暁は今までダンジョンに入った事はなかったがネットで色々と噂を聞いた事があった。
その中に自分のステータスを見ることができる事を思い出した。
「えーと、確か〈ステータスオープン〉。だったか?」
すると暁目の前に半透明のステータスボードが現れた。
名前
建宮暁
ランキング
325
スキル
当たり判定補正
鑑定
アイテムボックス
称号
初めてダンジョンを制したもの(ダンジョン内でのステータスアップ)
獣王ダンジョンを制したもの(獣型モンスターに対してステータスアップ)
装備
無し
自分のステータスボードを見て暁は驚いた。
まず初めにランキングである。
ランキングとはその名の通り順位なのだがこれは今まで1度でもダンジョンに入った事のある人は全てこのランキングが表示されて数字が低いほど強いとされている。
そして暁のランキングである325位とはかなりのトップランカーであり各国ではかなりの待遇を受けていると言う。
次に称号である。
称号に付いては世界的によく分かっていない。誰がこの称号を判断して付けているか全て謎だが暁の称号にはダンジョンを制したと書いてある。
暁は今まで世界でダンジョンをクリアしたと言う話は聞いた事がなかった。
「いったいどうなってるんだ?ボスを倒した覚えはないんだが?まさか落ちてきた俺の車の下敷きになったとか?」
考えてみても答えは出ない。
暁は考えるのを諦めて落ちていた剣と石を拾った。
「とりあえずダンジョンを脱出しないとな。もしくは救援を待つか。その前にスキルを確認しておこう」
暁はもう一度ステータスボードを見てスキルを確認する。すると各スキルに詳しい内容が表示された。
〈当たり判定補正〉
自分の攻撃が相手に当たりやすくなる。
〈鑑定〉
様々な物、生き物などの詳細なデータを見ることができる。
〈アイテムボックス〉
別空間に物質を入れる事ができる空間の大きさは使用者の魔力量に依存する。
この空間は時間が停止している。
自分のスキルを見た暁はガッカリしていた。
「鑑定とアイテムボックスは使えそうだが、この当たり判定補正は微妙だな。出来れば攻撃系か魔法なんかのスキルが欲しかった」
ガッカリしていた暁だったが、とりあえず気を取り直し、先程の剣と石を鑑定してみる。
〈獣王牙の剣〉
獣王の牙で作られた剣。下級の獣型モンスターはこの剣を見れば逃げ出していく。(獣型モンスターに対してダメージアップ)
〈獣王の魔石〉
魔力が溜め込まれた石
「武器はなかなか強そうだな。とりあえずここから出る方法を考えるか」
鑑定が終わった暁は、このダンジョンを脱出する為に行動する事にした。