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シルバークロニクル  作者: しお
ジルウィンダーシーズン
25/29

25 4-6 進歩の日々と年に一度の友達



 ある日、アルフレッドはナザリ平原内にあるフラリエの丘で練習をしていた。今日は初級魔法を様々な形でクリーンに撃つことを重視してやっていた。


 スタンダードな形で咄嗟の時にも撃ちやすいボール型。狭い隙間を通したり、狙い撃ちにも有用なビーム。素早い魔物に当てやすく、見た目が綺麗なのでパフォーマンスにも向いているリボン型。


 6属性の初級魔法を使い分け、主にミニクラスの魔物を順調に討伐していた。


 フラリエの丘で魔物を討伐しながらうろうろしていたアルフレッドは、丘の頂上付近で見慣れない人を見つけた。ボサボサとした茶髪に白衣、白ブチのメガネをかけている男性だった。


 白衣の男性は、巨大な魚採り用の網のようなものを両手で持っていた。大きな網を持って魔物を追い、捕獲を試みていた。白くてやわらかい体毛を持つ長方形の平べったい魔物、オフトゥンを狙っているようだったが、空中をふよふよと漂うオフトゥンにことごとく逃げられていた。


 アルフレッドはしばし迷ったが、好奇心が勝り声をかけてみることにした。もし変な人だったらすぐに離れられるように、靴底を叩いて空中浮遊の魔法を発動しておいた。


「こんにちは。あの……何やってるんですか?」


 多少の距離を取った位置から、アルフレッドは白衣の男性に声をかけた。白衣の男性はオフトゥンを追いかけるのをやめて立ち止まった。


「これはこれは! この天才魔物研究家ダーンズ博士のフィールドワークに興味を抱くとは! なかなか見込みのある少年だな!」


 ダーンズ博士と名乗った白衣の男性はそう言った。近づいてくるとべらべらと語り出した。


「私はだな! オフトゥンの調査のためにこの丘に来たのだよ! 奴の白くてやわらかい体毛には、他の魔物の体力を回復させる効果がある。私はその効力を研究して、人間の疲労回復に役立つアイテムを開発したいのだよ! この丘には普段から数多く出現すると聞いてはるばる来てみたが、その通りだ! 丘のあちこちを飛んでいる!」


「あっ……。はい、そうですね。確かによく見ます」


「だが奴ら全然捕まらん……む?」


 博士はアルフレッドの足元から発せられる輝きを見て言った。


「その靴の銀色の輝き……。もしかして、きみは魔導師なのかね……?」


「あっ。はい。一応」


 博士は「ほほう!」と手を打った。アルフレッドを指差して、高らかに言ってきた。


「少年! これはきみの良い練習になる! 将来、大陸に多大なる利益をもたらすであろう、私の研究を手伝いたまえよ!」




 アルフレッドはダーンズ博士の頼みを引き受けてあげることにした。花咲く丘で空中を漂うオフトゥンを背景にして、博士に詳細を尋ねた。


「それで、どうやって手伝ったらいいですか?」


「あれを使ってくれたまえよ! 私は見たことあるぞ。魔導師がぼんわりとした銀色の光で、魔物の動きを抑えつけるところを! 動きを止めてくれたら、調査もはかどるに違いないのだよ!」


「念動魔法のことですね。分かりました!」


 アルフレッドは地面を軽く蹴って、空中に浮かび上がった。近くを漂っていた1体のオフトゥンに狙いを定めると、オフトゥンの真上から念動魔法を撃った。


「ダブルキネシス!」


「スヤァ!?」


 ぼんわりとした銀色の光が、空中を漂っていたオフトゥンを包み込んだ。アルフレッドはかざした手の動きでオフトゥンを動かし、地上にいる博士の目の前の地面で停止させた。


「そう! それだよ! 実に良い! しばらくそのままでいてくれたまえよ!」


「分かりました!」


 アルフレッドは博士の指示通り、念動魔法でオフトゥンを固定し続けた。体力はこのところよく鍛えていたので問題なかった。


が、比較的弱いノーマルクラスの魔物である、オフトゥンの体力がもたなかった。


「スヤ……ス……スヤァ」


 念動魔法で固定されていたオフトゥンは、体力が尽きて青白い光となり消滅してしまった。白くてやわらかい体毛は消え去り、後には黒いコアだけが残された。


「むむ……倒れてしまったか……。まだまだ調べたいのだが……」


「うーん。違うやり方のほうがいいのかな。そしたら……」


 アルフレッドはもう一度飛び上がった。先ほどと同じように1体のオフトゥンに狙いを定め、真上から今度は風魔法を撃った。


「ウインド!」


「スヤァ!」


 真上から風魔法を撃たれたオフトゥンは、あえなく地面に墜落した。アルフレッドは続いて氷魔法を素早く何発か撃った。


「アイス!」


「スヤァ! スヤァ!」


 氷魔法はオフトゥンの四隅に命中し、四隅を地面に凍りつかせて固定した。オフトゥンは鳴きながら胴体部分を上下させて暴れていたが、逃れることはできなかった。


「初級の氷魔法でやってみました。真ん中らへんがちょっと動くけど……さっきより長く持つと思います」


「いいじゃないか! よし、まずは手触りからだ! その次は薬品との反応! 創傷部分と触れた時の反応も気になるな!」


「スヤァー!」


 博士は地面に固定されたオフトゥンを、触ったり薬品を塗布したりして調査した。アルフレッドも博士の指示に従い、水魔法や風魔法を適宜使って手伝ってあげた。


 その後も別個体のオフトゥンを同じように地面に固定して調査した。数体の調査を終えたところで博士が言った。


「ありがとう、少年! 今日は良い調査ができた! このあたりで止めにしておくのだよ」


「そうですか。それなら良かったです」


「少年のおかげで多くのデータを効率良く集めることができた。さっそく帰って分析を……」


「──スピィ」


「……む?」


 しゃべっていた博士はふと黙り、じっと耳をすました。周囲をキョロキョロと見回し、音の聞こえた方角を探った。


「……どうかしましたか?」


「……静かにしたまえ。いま鳴き声が聞こえたのだ。この鳴き声は……もしや……」


 博士は慎重に歩みを進めていった。アルフレッドも博士の後をゆっくりと追った。かすかに聞こえた鳴き声の主は、少し離れた細い木の近くの宙を漂っていた。


「あっ……あれは!」


「グースカピィー」


 ふかふかした純白の体毛を持つ、オフトゥンに似ているけれどオフトゥンよりも大きい魔物だった。


「あれは、オフトゥンの上位種! ラージクラスの魔物、シンサレオフトゥン! こんな街に近いところで出会えるとは!」


 魔物の姿を見た博士は、興奮を隠しきれない様子で言った。


「え……めずらしいんですか?」


「めずらしいとも! 基本的には人里離れた場所にある花園に出現する魔物だ。こんな街に近いオープンな場所ではめったに出てこない! 少年! 私は今日のシメとして奴を調査したいぞ! 何とかして捕まえてくれ!」


「……分かりました!」


 アルフレッドは地面を蹴って飛び上がった。これまでよりも少し高い位置まで上昇した。シンサレオフトゥンの真上まできて、念動魔法を撃つ準備をした。


「レアな魔物……緊張するな。でも、上手くやりたい。やろう!」


 アルフレッドはシンサレオフトゥンの真上から急降下した。降下しながら念動魔法を撃った。


「伝わる念! トリプルキネシス!」


「スピィ!?」


 空中から撃った念動魔法は、シンサレオフトゥンに命中した。ぼんわりとした銀色の光に包まれたシンサレオフトゥンは、アルフレッドの手に動きを操られ地面に降ろされた。


「大事をとって念動魔法にしました。博士、体力が尽きる前に」


「もちろんだとも! スピード調査してやるのだよ!」


「スピィー!」


 これまで数体を調査していた博士は手際良く進めていった。一通り終わったところで、シンサレオフトゥンが途切れ途切れに鳴いた。


「スカ……ピ……スピィ」


 力尽きたシンサレオフトゥンは青白い光となって消滅した。


「博士、間に合いましたか?」


「バッチリだとも! いや、帰り際にこんなラッキーがあるとは、今日は本当に運が良かったな! 少年! 私の研究が実を結んだ暁には、特別価格で販売してあげようじゃないか! その時を楽しみにしていてくれたまえよ! では!」


 博士はそう言うとフラリエの丘を降りて帰っていった。アルフレッドは手を振って博士を見送った。


「変な人だったな……。でも、確かにいつもと違う練習ができたし、良かったかも。どうしようかな。僕も帰ろっかな……?」


 アルフレッドは少し迷ったが、またフラリエの丘をうろうろと歩き出した。


「もうちょっとだけ、やろ。訓練会も近いし」


「ヘキシャシャー!」


「あっ、ヘキサトレントだ。ファイア!」


「ヘキシッ」


 その後、さらに数体の魔物を討伐してからアルフレッドはナザリに帰還した。





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