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シルバークロニクル  作者: しお
ジルウィンダーシーズン
24/29

24 4-5 進歩の日々と年に一度の友達



 迎えたランドルフの開店セレモニーの当日。


 アルフレッドはナザリの中央広場の転移エリアの近くで、ランドルフの出現を待っていた。この時間にナザリの中央広場で待ち合わせして、ウォカーナに送ってもらうことになっていた。


 淡い水色のシャツに黒のズボンという格好だった。ランドルフ主催のミニマジックショーにキャストとして招待されたことを家族に話すと、父親が商人仲間経由でシャツを取り寄せてくれた。肌触りが良くて動きやすい、上質なシャツだった。


 何人か、知らない人たちが出てくるのを見送っていた。間もなく現れた銀柱から、ランドルフが姿を見せた。近くで手を振るアルフレッドに気づき、転移エリアから出てそばまでやってきた。


「やあ、アル! 調子はどうよ?」


「うん。たぶん大丈夫、だと思う。練習もけっこうしたから」


 最近のアルフレッドは、ナザリ平原でミニマジックショーのためのパフォーマンスを練習していた。何をするかはしっかり決めていたし、ここ数日はそれなりに良い出来だった。


「そうか! しっかり準備してくれて嬉しいよ。じゃあ、行こうか。俺の店の前に送るよ」


「うん。ラドっち、よろしく!」


 アルフレッドは瞳を閉じて右手を差し出した。ランドルフは頷くと彼の手を取って、くるりと回してやった。




 地に足がつく感覚がして、アルフレッドは瞳をひらいた。正面に見えたのは白っぽい石造りの壁。顔を上げると濃いグレーの屋根と煙突、落ち着いた赤色の立派な看板があった。


「おおっ……。ここがラドっちの店なんだ……」


 真新しい建物を前にしてアルフレッドは言った。立派な看板はよく目に焼きつけておいた。右隣と左隣の建物も、白っぽい壁に濃いグレーの屋根だった。


「ねえ! あの子じゃない!? ラドが言ってた子って!」


「えっ? あ、あの子! そんな気がする! というか絶対そうよ! 髪青くてちっちゃい子って言ってたし」


 後ろで何やら明るい会話が交わされていた。アルフレッドが振り返ると、アレンダ風の綺麗な服装をしている女性が二人。二人の他にも、綺麗な服装をしている数人の男女がいた。


 彼らの後ろには運河が流れていた。口の動きが見える程度の距離に対岸があり、同じような白っぽい壁とグレーの屋根の外観の建物が並んでいた。対岸は普段着の人たちでほぼ埋まっていた。年代は幅広かったが、ほとんどが女性だった。


「きゃあ! こっち見てくれた! かわいいんだけど!」


 先の二人でいる女性の片方が高い声を上げた。もう一人の女性と一緒にアルフレッドのそばまで駆け寄ってきた。


「こんにちは! ねえ、きみがアルくんでしょう! ラドからかわいいキャスト呼んでるって聞いて、楽しみにしてたの! ねえ、ちょっと頭なでさせて!」


「あ……はい、あの、どうぞ」


「何それ、ずるい! 私もやりたいんだけど!」


「おー? アル、さっそくかわいがられてんな!」


 ちょうど転移魔法でナザリからウォカーナに戻ってきたランドルフが、からかうように言った。


「ラドっち。あの。なんとか……」


 気の知れた相手に上目遣いで、アルフレッドは助けを求める視線を送った。ランドルフは面白そうに笑ってから言った。


「だってよ! ほどほどにしといてやってくれ。みんな集まったし、そろそろショーも始めるからさ!」




 ランドルフの店の前がステージ。運河の対岸が観覧エリアだった。開店セレモニーのショーは、ランドルフの司会で進行していった。


 各出演者をエピソードを交えてランドルフが紹介した。紹介を受けた出演者が、一人ずつ短いパフォーマンスを披露していく流れで進んでいった。


 個性豊かでアットホームなステージに、対岸の人々は拍手と黄色い歓声を送っていた。運河を渡る小舟に乗っている観光客たちも、行きすがら岸を見上げてパフォーマンスを堪能していた。


「さあ、次のステージいこうか! ナザリから来てくれた小さなキャスト。これからがすごく楽しみな頑張り屋の魔導師だ。アルフレッド! よろしく頼むよ!」


 ランドルフの紹介を受けたアルフレッドは、店の前に対岸を向いて立った。対岸の人々がはっとざわめいた。アルフレッドの耳までは届かなかったけれど、「え? かわいい……」や、「やばい、好きかも……」と言った呟きがこぼれていた。


 対岸のざわめきなど構わず、アルフレッドは氷魔法を撃つ準備をした。目の前の地面に向けて手を構え、上級の呪文を唱えた。


「きらめく氷! トリプルフロスト!」


 アルフレッドの両手から放たれた銀色の光が、氷のオブジェを形作っていった。直径が成人男性の背丈の2倍ほどある、大きな氷のリングになった。


 アルフレッドはもう一度、上級の氷魔法を撃った。2発目の氷魔法は、最初のリングの内側で一回り小さなリングになった。店の前に、氷でできた二重リングのオブジェが出来上がった。


「すごいわ! あんなキュートなのに、立派に上級魔法が使えるのね!」


 先ほどアルフレッドの頭をなで回していた、アレンダ出身の女性が言っていた。


 アルフレッドは、次は自身の靴底を叩いて空中浮遊の魔法を発動した。軽く地面を蹴って宙に浮くと、氷のリングをスイスイとくぐり抜けて、初級の氷魔法でリングに模様を施していった。左右交互に移動しながら、リングの頂点まで上昇していった。


 靴底から発せられる銀色の輝きが、オブジェのきらめきを引き立てた。氷のリングに結ばれた、輝きのリボンのようだった。


「これはいいね! 小さな体を生かした軽やかなパフォーマンスだ。ラド、彼は空中浮遊が得意なんじゃないのかい?」


「その通り! 見る目あるなあ。さすがだよ」


 リングの頂点まで上昇したアルフレッドは、リングの後ろ側から下降した。下降の途中で、空中から中級の氷魔法をリングの中央に撃った。二重リングの中央に、氷でできた大きなベルが吊り下がった。


「最後の仕上げ! ダブルシャイン!」


 着地したアルフレッドは、氷のベルの下側から光魔法を撃った。彼が生じさせた白い光は、氷のベルの内側で強く輝いた。


「始まりの合図、朝日の鐘! 遠くまで届きますように!」


 出来上がった氷のオブジェの横からひょこっと顔を出して、アルフレッドは言った。


「かわいいー!」


 対岸にいる観客からも端で見ていた他の出演者からも、「かわいいー!」という感想が次々に出た。


 すごいや上手いを目指してパフォーマンスを披露したアルフレッド自身は、ちょっとだけ「ええ……」という反応を見せた。




「みんな、今日はありがとな! おかげですごく良い開店セレモニーになったよ」


 終了後、店の前でランドルフが出演者たちに礼を述べた。仲の良い友人たちに囲まれて、嬉しそうに笑っていた。


「それで、みんなに今日のお礼があるんだ。ちょっと待っててくれ」


 ランドルフは店の入口のドアをあけた。「伝わる念、トリプルキネシス!」と上級の念動魔法の呪文を唱えて、店の中に向けて手をかざした。


 ランドルフの手の動きに導かれて、店の中からテーブルが外に出てきた。テーブルの上には木の箱が何個か置いてあった。


「これ、中身はウォカーナの名産品なんだ! 美味しいんだぞ」


 ランドルフはそう言って出演者たちに木の箱を配っていった。


「ラド、ありがとう! 美味しいってことは、何か食べ物なのかい?」


「ねえ、気になる! あけてもいい?」


「ああ、いいよ!」


 アルフレッドも配られた木の箱をあけてみた。中には黄緑色のブドウが一房入っていた。一つ一つの粒が大きくてつやつやとしていた。


「ウォカーナ近辺で栽培が盛んな果物、ウォスカットだ! この辺り以外の地域では育ちにくいんだ」


 アルフレッド含めた出演者たちは、今一度ランドルフにブドウのお礼を言った。しばらく話した後、それぞれの街に帰っていった。



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