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シルバークロニクル  作者: しお
ジルウィンダーシーズン
23/29

23 4-4 進歩の日々と年に一度の友達



 ある日の夕食後。アルフレッドは邸宅の自室で遠話石の確認をしていた。


 連絡がきているかどうかの確認を、彼はいつも夕食後の時間にしていた。アイテムボックスから遠話石をまとめて入れている袋を取り出し、中身を机に広げて点滅している石がないかチェックする。


 点滅している石はなかったが、机に置いた石の一つがちょうど光り出した。アルフレッドは光り出した石を手に乗せて、ふっと息を吹きかけた。


「もしもし、ラドっち? アルです」


「おっ。よかった、タイミングが合って。アル、久しぶり。元気か?」


「うん。最近は。この前も友達と遊ぶのでホスラに行ったし」


「そうか、そうか。それならよかったよ」


 石を介したランドルフの声が優しく言った。最近はあまりなかったけれど、ジルウィンダーの大発生が終わって間もない頃は、アルフレッドを心配して忙しいなかでも度々遠話をかけてきてくれていた。


「ラドっち、ありがとう。依頼で忙しいのに」


「ああ、それなんだけど……俺、ギルド所属の討伐者を近く引退することにしたんだ」


「えっ……ええ!?」


「それで、これからは故郷のウォカーナに帰って、魔法で街の人たちの暮らしを助けるよろず屋をひらこうと思ってるんだよ。その報告と思ってさ」


「え……じゃ、じゃあ、おめでとう……? いや、でも、早いよラドっち」


「いやあ……俺なんか、ずいぶん長くできたほうだよ。本当に」


 体力から魔力への変換能力は筋力のように加齢によって弱まっていくが、その弱まりは筋力が衰えるよりもずっと早い。


 アルフレッドより15歳年上のランドルフは今27歳だったが、魔導師としてはベテランと呼ばれる域だった。他の職種、たとえば大工で27歳だといったら、この青二才がとなめられるような年頃だというのに。


「それでさ、アル。アルにお願いがあるんだ」


「僕に……?」


「そう。よろず屋を始めるにあたって、開店セレモニーとしてミニマジックショーをやりたくてさ。だいたい来節くらいに。アル、キャストとして出てくれないか?」


「僕が!? えっ、そんな大事なショーに」


「気負わなくていいんだ! 他の出演者は俺の仲良い友達ばかりだし、ウォカーナの人たちもみんないい人たちだ。どうかな」


 アルフレッドは光る石を手に乗せたまま首をひねった。石を持って自室内を3周ほど歩き回ってから、石に言った。


「……うん。やります! ラドっちの開店祝い、僕もしたいから」


「よかった! 引き受けてくれて嬉しいよ。ありがとう!」


 石を介した声は嬉しそうに言った。ランドルフが赤い目を細めて笑っている様子が、アルフレッドの頭に思い浮かんだ。


「じゃあ、ラドっち。どんなテーマでやったらいい?」


「何でも! みんなにも好きなのやってって言ってるから」


「何でもか……難しいな」


「あ。でも、アルには一つだけリクエスト」


「えっ?」


「誰かの提案じゃなくて、アルが自分で考えたパフォーマンスが見たいかな。テーマは何でもいいから」


「自分で……考えた……」


「じゃあ、楽しみにしてるよ! 当日は転移で迎えに行くからな」


 ランドルフの声がそう言うと、遠話石の光は消えた。


「何でも……んー。何がいいんだろう。開店セレモニーにぴったりのテーマって……? 新しい? にぎやか? 始まり?」


 ランドルフの遠話石を袋にしまいながらアルフレッドは呟いた。他の石も点滅しているものはなかったので、全部の遠話石を袋に戻して、袋をアイテムボックスにしまった。窓の外の夜の風景を見ながらしばし考えて、呟いた。


「始まり……朝、かな……」




 次の日の朝。


 夜明けからまだいくらもたっていないような早朝に、邸宅の玄関のドアがあいてアルフレッドが出てきた。


 寝間着に長いコートを羽織った格好で、瑠璃色のくせ毛がいつもよりもくるくるとしていた。


 ランドルフのミニマジックショーで披露するパフォーマンスのテーマを、アルフレッドは朝と決めた。さっそくモチーフを探すために、朝の街を歩いてみることにしたのだった。早起きに備えて、前日の夜はいつもよりだいぶ早くに寝た。


 早朝の空気はひんやりとしていて、どこか澄んでいるようだった。あたたまりきっていない街は、風が吹くと少し肌寒かった。


 アルフレッドは邸宅の広い庭を歩いていって、自宅の敷地から外に出た。少しばかり立派なお屋敷が立ち並ぶ区画の、石畳で舗装された道を歩いていった。


 まだ寝ぼけ眼の静かな街。人通りはほとんどなく、家々の窓も閉まっていた。中央広場方面に近づくにつれて多くなってきた商店も、陳列棚にカバーがかかっていた。


 ある店の前でアルフレッドは立ち止まった。ハンドメイドの雑貨を取り扱っている店で、彼の母親のお気に入りの店だった。


「こんな飾り……あったんだ……」


 日中はいつもあけたままになっている、店の入口のドア。普段は裏になっている側の上部に、ガラス製のオーナメントが飾られていた。


 指の太さくらいのリングが二重になっていて、リングの中央にはガラスのベルが吊り下げられていた。アルフレッドがそっと手を伸ばしてガラスのベルを揺らしてみると、チリンチリンと透き通った高い音が鳴った。


 すると、間もなくして足音が聞こえてきた。


 雑貨店の奥のほうから、「もう、何……? こんな早くに……」と、日中に店で聞くよりワントーン以上低い、この店の女主人のぼやきを伴いながら。


「やべっ……」


 アルフレッドは雑貨店のドアの正面から横っ飛びで離れた。素早く一回転してその場から消えた。




 転移した先は役場前の中央広場の転移エリアだった。


 日中は多くの人々が行き交う中央広場は、今は人がまばらだった。時間帯によっては見るための列ができている掲示板の前も、誰もいなくて空いていた。


 アルフレッドは転移エリア内から出て、役場の建物を見上げた。

 

 二階建で横に長く、焦げ茶と白のツートンで塗装されている建物だった。建物中央の屋根の上には、ミントグリーンの屋根の鐘楼が設置されていた。


 大きな鐘が、次第に強くなってきた朝の陽射しを反射して光っていた。鐘つきの人が、大きな鐘の下から伸びている紐を持つのが見えた。


「あ……」


 大きな鐘が、左右にゆったりと揺れた。歌声のような一日の始まりの合図が、広場と街に響き渡った。飛び立った小鳥の群れがピルルルと鳴いていた。


「朝日の鐘……」


 アルフレッドは役場の屋根の上の鐘を、しばらくじっと見上げていた。


 やがて、ふわっと大きなあくびを一つすると、くるりと一回転して中央広場から姿を消した。



「ミセス・オーウェン、聞いてよ! この前、明け方に入口のベル鳴らすだけ鳴らして逃げてったやつがいたのよ! 絶対近所の悪ガキよ!」

「まあ、なあにそれ! 教育がなってないわね。親の顔が見てみたいわ」

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