21 4-2 進歩の日々と年に一度の友達
ホスラの街への通り道、フラリエの丘。
「ラン! ランラランラ!」
「ラン! ランラランラ!」
フラリエの丘は若草色の小高い丘で、色とりどりの小さな花が多く自生している。
訓練会が終わってしばらく経った頃。12歳になったアルフレッドは、ホスラ方面に向かってフラリエの丘を歩いていた。先の訓練会で親しくなったリックに、「パイセン、遊びましょうよ! ホスラまで来てくれないですか? 行きたいところがあるんすよ」と誘われたからだった。
「ラン! ランラランラ!」
「ラン! ランラランラ!」
フラリエの丘には魔物も棲みついている。よく見かけられるのはネズミによく似た魔物ウィップラットや、切り株の魔物ヘキサトレント。他には白くてやわらかい体毛を持つ平べったい魔物や、大声で歌い歩く花の魔物ランランフラワーなど
「ラウラー! ラウラウラララ」
「ランッ、ランラッ、ランラ」
「あー、もうやかましい! きらめく氷! トリプルフロスト!」
「ラッ」
アルフレッドは上級の氷魔法を使って、いくつかの氷のボールを自身の周囲に飛ばした。氷のボールは周囲にいた数体のランランフラワーに命中した。堂々と音痴を披露していたランランフラワーは青白い光となって消滅し、付近は多少静かになった。
「あとは……あれも倒しておこうかな。ぶつかりそうだし」
「スヤスヤー?」
「──ダブルファイア!」
「スヤァ」
空中をふよふよと漂っていた白くて平べったい魔物は、アルフレッドの火魔法を受けて消滅した。
白くてやわらかい体毛を持つこの魔物は、オフトゥンというノーマルクラスの魔物だった。やわらかい体毛には疲労を回復させる性質があり、他の魔物を包み込むことで他の魔物の体力を回復させる能力を持っていた。
なお、人間に対しての攻撃性は低い。進路がかち合った時だけ、焦って体当たりしてくる程度だった。その体当たりも、体がやわらかいのでダメージはほぼなかった。
その後もジャマな魔物やうるさい魔物を適宜倒し、アルフレッドはフラリエの丘を越えていった。
フラリエの丘を越えたアルフレッドは、ホスラの街の広場に着いた。ナザリの中央広場と同じく、掲示板や水道所などがあった。
リックとの待ち合わせ場所は広場の水道所だったが、アルフレッドは水道所に行く前に広場の転移エリアに寄った。エリアに設置されている『ホスラの広場』の看板をしばし眺めて、この場所の記憶を残しておいた。
しっかり場所を覚えてから、アルフレッドは水道所に行った。先にいたリックが気がついて、「あっ、センパイ! こっちですよ」と手を振ってきた。
「遠いところお疲れっす!」
「あー、そんな遠くはなかったよ」
「まじっすか! さすがっすね」
「いや……僕、強くない……。本当にそんな遠くなかっただけで。それで、行きたいところって? どこ?」
「ああ! これっすよ」
リックは近くの水道台を軽く叩きながら言った。
「はっ……? 水道台がどうかした?」
「いや、学校で習ったんすよ。このホスラの広場の水道台の水が、どこからきてるのか、って。街の近くにある、ホスラの泉から引いてるらしいんす。それでオレ、自分の街の水源見てみたくなったんすよ。センパイも気になりません?」
「あっ……うん」
「そういうわけなんで、さっそく行きましょう! ちょっと強い魔物もいるらしいんすけど、パイセンいるし何とかなると思うんすよ」
「え、だから僕は強くないと……攻撃魔法はリックのほうができるじゃんか」
訓練会でのリックは、攻撃魔法の才を存分に見せていた。9歳ながら一部属性の上級魔法も習得しており、上手く使っていた。
反面、補助魔法や空中浮遊はあまり得意ではないらしく、アルフレッドの空中浮遊を見て、「どうやったらそんな自由に飛びまわれるんすか?」と、不思議そうに聞いてきたくらいだった。
「大丈夫っすよ! それにオレら、何かあっても転移で帰ってこれるじゃないすか。さ、ホスラの泉はこっちの方面すよ」
アルフレッドはホスラの泉見学にあまり興味が沸かなかったがリックに連れられて出発した。彼に案内されながらホスラの泉を目指した。
リックの話では、ホスラの泉は街近くの小さな森の中にあるらしかった。アルフレッドはリックと一緒に森の中を進んでいた。
木々のあいだから光が射し込む、明るい森だった。両腕で抱えきれる太さの木が大半だったが、ところどころに幹の太い木もあった。
地面は焦げ茶色のやわらかい土だった。木から落ちた緑色の葉っぱ、爪ほどの大きさしかない花を咲かせている雑草、ギザギザした葉っぱの雑草、色のついた木の実などが散らばっていた。色のついた木の実を頬に入れたリスが、木の根元から幹を駆け上がっていった。
「思ったよりサクサクいけるっすね」
やわらかい土の上を歩きながらリックが言った。ここまでに魔物も出てきていたが、一番弱いミニクラスの魔物が数体いた程度だった。
「だね。この調子ならもう着くんじゃ?」
「そうっすね。たぶんもうちょいかな。泉は赤い小さな実をつける木のそばにあるらしいっす」
「赤い実の木か。けっこうあるんだけどな、その木」
アルフレッドは緑色の風景から、赤を探しつつ歩いた。倒木を越えたり低木をよけながら進んでいき、やがて視界に大きな赤い実の木を見つけた。
「リック、あれは? あの太い木の向こうにある木」
「あっ、なんかそれっぽい感じじゃないすか! あれかもしれない」
リックは走って赤い実の木に近づいていった。そして、「あ、あった! センパイ、泉見つけましたよ! ここっすよ!」とアルフレッドを呼んだ。アルフレッドもリックを追って泉に着いた。
「わっ……綺麗だ」
水色よりも青が強い泉だった。水面には光と近くの高い木が映っていた。泉の奥のほうで、小さな魚がパシャリと跳ねた。
アルフレッドは泉のほとりにしゃがんだ。アイテムボックスをひらいて、中からコップを取り出した。コップは魔導師のアイテムボックスによく入っている道具の一つだった。水魔法で水を飲みたいときに使うからだった。
アルフレッドはコップを泉に入れて水を汲んだ。泉から湧き出たばかりの水に、そっと口をつけてみた。
「つめたっ……」
上唇に思った以上の冷たさを感じて、アルフレッドはいったんコップを離した。それからもう一度コップを口に近づけて、今度は口に含んでみた。冷たさが口の中にすーっと広がった。飲み込むと冷たさは喉を通って下に落ちていった。
「あっ、センパイ、それいいっすね! オレもやろ」
泉のほとりを動きまわっていたリックも、自分のアイテムボックスからコップを取り出して泉の水を飲んだ。
「うわ、つめたっ」
「な。冷たいよ、この水」
「そうっすね。街の水道所の水はここまで冷たくないのに。やっぱ来てみると発見があるなあ」
水を飲んだリックはうんうんと頷いた。コップをボックスにしまうと、またうろうろと泉周辺の探索を再開した。
ポチャンという、水の音が聞こえたのはそのときだった。
続いて「うわあああ!」という若い男性の声。
「えっ、なに?」
「魔物……?」
アルフレッドとリックは声が聞こえたほうを見た。
泉のほとりの少し離れたところで、ガタイの良い若い男性が這いつくばるようにして泉を覗き込んでいた。男性は「そんなあ」とか、「どうしよう……」などと呟いていた。魔物は見える範囲にはいなかった。
「……リック。どうする?」
「……悪い人じゃないと思うんすよ」
「うん。僕もそう思う。だから、とりあえず声かけてみようと思う」
「あっ、オレもいくっすよ!」
アルフレッドとリックは、泉のほとりの若い男性のほうへ歩いていった。近くまで行ったところで、アルフレッドが声をかけた。
「こんにちは。どうかしましたか?」




