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カルミアの魔女  作者: 黒目
第二章 絶対私はキャバ嬢で成り上がる!
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第一話 キャバ嬢の資質

 何を言っているんだこの女は?いきなりキャバ嬢になれだって?


「今無職だったわよね?じゃあ時間あるでしょ?ちょっとこっちに来なさい」

「はぁ?ちょ!何いきなり!?」


 驚きを隠せない私の心情は無視して、女性は私の腕を掴みそのままスタスタと歩き始める。


「いい?キャバ嬢で必要な能力は1に見た目、2に見た目よ。その点は貴方はすでに合格だった。あなたまだ未成年よね?その肌がホント羨ましいわ。でもね、それは磨けばもっと光るの。それを今から磨いてあげる。この近くに私の家があるからそこでコーディネートしてあげる。必ず輝かせてあげる」


 私を掴んでいる腕を見てみると非常に細く、見た目以上に華奢な体つきをしてることに気がついた。そんな細い手はいつでも振り払うことができる。しかし、それがなぜかできなかった。女性の放つ言葉の一つ一つに熱を感じる。その熱のせいで私の胸の中がドキドキさせる。


「ただね、見た目のいい女なんてこの世界では腐るほどいる。そしてそれだけで成功する人間もいる。でもね、仮に成功して、億単位の利益を出したとしても、それはホント短い時間だけ、それだともう今の時代は生き残れないの。じゃあキャバ嬢で一時的に成功するだけじゃなく長い期間成功するために必要な能力はなにか?最終的に勝つために必要な能力のは何かわかる?」


 女性は急に歩みを止め、後ろを歩いている私の方を見る。


「それは・・・【人間性】よ」


 彼女の後ろを歩いていたから今まで分からなかったが、振り返ったその目を見るとメラメラと燃えるような強い眼差しを感じた。また、同時に長年求めていた宝箱をこれから開けるようなキラキラした表情で私を見つめる。


「あ、あの・・・なんで私がキャバ嬢なんですか?」

「まず1つ貴方が優れている点を教えてあげる。先ほど私は自分が教養が無いと言ったけど、貴方は一切私がキャバ嬢だからとか中卒だからといった人の外側の情報を見て判断する発言をしなかった。実はそれはとてもレアな対応で、どうしても人の外側の情報で人を決め付けて判断してしまうものなの。【ハロー効果】って知ってるかしら?まぁ勤勉な貴方なら言葉くらいは耳にしたことがあるんじゃない?一番初めに知った特徴や受けた印象にひっぱられて、他のことにもゆがんだ評価をしてしまうことなんだけど。あなたはあそこまで挑発されてても一部の情報だけで人を判断せず、あくまでその言葉の意味だけを返した。それは非常にいい意味で変わっている能力なのよ?」


 先ほどの強引な力とは違い、今度は私の肩に手が優しくそっと置かれる。それはとても愛らしく、それでいて弱い物に触れる時にする力加減だった。


「もちろんキャバ嬢に向いている貴方の資質はそれだけじゃないわ、それ以外に私が注目したのはその【靴】ね」


 私の運動靴を指差し、ニコっと笑うその表情は、まるで子供の頑張りを認める母親がする笑顔のようだ。


「あなた、その靴いくらで買ったの?みたところあんまり高くはなさそうね、後その靴を何年はいてるの?1年や2年なんてもんじゃないわよね?」


 そういえばこの靴とは長い付き合いだった気がする。中学校の頃から履いていたことは覚えているが3年以上は履き続けていることは確かだ。だから値段なんてとっくの昔に忘れてしまった。

 しかし陸上部に所属していた時から部活外の練習時には必ず履いていたので、重宝していたことは確かだ。基本的な運動後は靴紐をほどく以外にも、長距離のランニングシューズ用のブラシで一週間に一回は必ず手入れもしていた。一ヶ月に一回はすすぎ洗いもしている。このタイプのシューズは紫外線が天敵なので決して天日干しもしてはならない。そのことからそれ以外の靴も日陰の風通しの良いところで干すことが自然と習慣になってしまった。


「なんで靴なんですか?」

「いい?これは貴方がキャバ嬢になってからも使える知識だからよく覚えておいて頂戴。人の心の奥底に隠れている性格を見る時はどこを見るべきか、人の表情やしぐさ、言動などから総合して読み取るだけではたらないの。一番見るべきはその人の持っている物、つまり自分が意思決定して選んだ【所有物】を見るの。そして一番性格が出るのは靴だ私は思っている。人は自分を良く見せようとする時に一番よく見られる場所、つまり服や帽子を替えようとするの。それは裏を返せば本当の自分を隠しているとも受け取れるわ。でも【靴】っていう物は意思決定して選んだコーディネートする際に最も優先順位が低い場所でしょ?だからその物はその人の真の性格が現れると思っている」


 確かにその通りだ。自分をよく見せようとする場合必ず服から選ぶだろう。靴まで合わせてコーディネーイトする人はお洒落に気を使う人だけだ。また、普通人は下まで見ない。だから人が見ない部分は多少おろそかになるのも分かる気がする。


「そしてあなたのその靴は長年履き続けているけど、年の割に状態が良い。つまり常日頃から手入れをされて大切に扱われているわね。しかもそこまで高価な靴でもないに、そんな靴を大切にできる。単にお金がなかったとも取ることできるけど、それだけじゃあその良い状態にはならない。それは俗物に囚われることがなく自分の信念がある人しかできない。だから私は貴方を几帳面で真面目で、長期的な努力ができる性格であり、同時に自分なりの価値観と信念を持っている人間だと読み取れる。同時に貴方は貴方自身の奥底にある心を大切にしているとも受け取ったわ」


 肩においてある手が私の頬に移る。


「以上が私が貴方を気に入ったポイントよ、まだいくつかあるけど、まだ何か説明が必要かしら?」


 その場に沈黙が流れる。しかし脳の情報が処理しきれない。先ほどまで憎悪がグルグルと頭の中で回っていたはずなのに、いつの間にかそれはゆっくりした回転になり、回転の中心から熱いものが流れてくる感覚になっていた。心臓の鼓動がドクドクと感じる。

 先ほどまで非常に華奢な体つきだと思っていたが、今見るそのピンっと立った背筋、優しさがありつつも決意を秘める眼差し、それは長年荒らしの中を彷徨う旅人のような風格を漂わしていた。


「何も・・・ありません」

「そう、じゃあ早く私の家に行きましょうか」


 その風格の前に私は同意するしかなかった。そして母親の後ろをいていく子供のように、私はその女性の背中を見ながら歩いていった。

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