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カルミアの魔女  作者: 黒目
第一章 絶対私はこのままで終わらない!
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第六話 絶対私は仕事に就く!マウンティングバトル

 ピンポ~ン、と家のインターホンが鳴る。ただいま午前の11時である。

「は!は~い!」

 私は日課になりつつあるヨガをやめ、急いでドアを開ける。郵便物を受け取り中身を見るとやはり先日受けだ会社の選考のお知らせだった。この瞬間は何度経験してもドキドキする。私はそっと封筒を破り中身を見た。

「先日は、ご足労いただきありがとうございました。面談の結果及び、ご登録データをもとに、社内で検討を重ねておりましたが・・・ぜひとも二次選考に進んでいただきたく・・・え?二次選考に進んでいただきたく・・・」

 私は目の前の結果が今までの文章と違うことに違和感があり、その文章を何度も読み返した。5回ほど読み返した瞬間に脳の曇り空がパっと晴れたような感覚になり、気がついたら家を飛び出していた。家の近くに広い天然芝の公園がある。私はその公園のど真ん中にたどり着いた。


「はぁはぁ・・・っすぅぅぅ・・・やっっっっったーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 大きく深呼吸した後、私は大声を出して芝生の上に両手を大きく広げ、ゴロゴロとその場で転げまわる。正直たかが二次選考に通っただけかもしれない。しかしここまで40社以上も書類選考や一次面接で落ちて、内定なんて手が掠りすらしなかったきた私からすると、ようやく最後まで手の届きそうなところまできたのだ。正直今までの人生で最も嬉しい瞬間だ。

 しかし、私が芝生の真ん中で嬉しさを思うがままに表現していると、一人の女性が近寄ってきた。

「ちょっとうるさいわね~なんなのよ貴方、ウチのレイちゃんがびっくりしちゃったじゃない!」

 なんとなく聞き覚えがある声がある女性は私にそう言って、腕の中にある子犬の頭を撫でていた。このどこか高級感あるシルエットに見覚えがあるがいまいち思い出せない。

「あ・・・す、すみませんつい」

 我に返り少し頭を冷やす。確かに嬉しさのあまりはしゃぎすぎたかもしれない。私は芝生の上で寝転がりながら素直に謝罪すると、その女性は見下した目線から一点、まじまじと私の顔を覗き込んできた。

「あ、貴方前ウチに来た子じゃない、なんかいいことでもあったの?」

「え?・・・え!?」

「え?って、あんたね、せっかくアドバイスしてあげた恩人を忘れるなんてホント恩知らずな子ね!」

 正直面接続きで多くの方たちを合ってきた日々だったので、一人一人顔を覚えていないのは事実だ。面接をした中の人事の方で女性は何人かいたので、私は必死に熱くなった頭を冷やし記憶を探る。ひょっとしたら今まで面接で受けた中の一人の可能性もあるかもしれない。まだ結果が出ていない会社もあるので、失礼だけはできないことは確かだ。

「あ、あのすみません、覚えていなくて。御社の面接ではお世話になりました」

 その場でパっと立ち上がり、髪と姿勢を正してお辞儀をする。

「は?何言ってんの?それであれからどうよ幼児園児ちゃん、小学校には入学できたかしら?まぁ・・・っぷ!何その姿!そんな土だらけの格好じゃない!まだ幼稚園児から抜け出せていいかもね!というかホントは入園すらできていなかったかしら!あはははは!!!」

 その場で女性はお腹を抱えて笑い出した。その毒舌っぷりでようやく思い出した。以前キャバクラで私に向かってありとあらゆる正論と毒舌を撒き散らして、私が怒りのあまり男性スタッフに暴力を振るわせたあの憎き女だ。他社の人事のように接した敬意ある態度を今すぐ返してほしい。

「なんだアンタか、今思い出したわ。私今凄くいい気分なの。ここで大声を出したことは謝るわ。ごめんなさいね。はい、謝ったから早くどっか行ってもらえないかしら」

 私は思うがまま今まで溜めていた悪意をその女性にぶつけた。

「んふっ、いいわね貴方のその感じ私好きよ?ねぇちょっと話しましょうよ~~~」

 女性はニヤっと笑ってまた見下した目線を私に向けたまま私に近寄ってきた。その余裕のある表情がさらに私を苛立たせる。

「今日はリクルートスーツじゃないのね?もしかして就職活動が上手くいったのかしら?」

女性が話を聞くような人ではないことはなんとなく察した。だったら相手の話に乗った上で追っ払ってやろうと思った。

「そうですね、おそらくもうすぐスーツ着なくなると思いますが」

「あらそうなの?心なしか前よりも顔色もいいようね?何か始めたの?」

「そうですね、最近運動もよくしてますよ。ヨガとか、これは最近読んだ本で書かれてあったんですけど、確かドイツの研究が元になってやってる人とやってない人ではストレスの改善に大きく影響が現れるようですね。例えば公園とかで自分より下の人をおちょくってストレス解消するお・ば・さ・んとかにもいい影響があるかもしれませんね」

「へ~そうなんだ!本も読むのね貴方!とっっっても勉強家なのね!」

「あとはあれから筋トレとかもやってますね、知ってますか?勉強する前に筋トレをするだけで記憶力が1.5倍向上するような結果もあるようですよ」

「そうなの!すご~~い!ということはそれを続けていればいずれ私の顔も覚えてもらえるのかしら!」

 私はマウントを取られないように最近仕入れた自分の持っているカードを皮肉をたっぷり込め、全て相手にぶつける。しかし・・・

「あらあら!そんなことも知ってるの!物知りなのね。ありがとうそんな貴重な話を私にしてくれるなんて。貴方いい子なのね」

 先ほどから空気を殴っているような感覚しかなく、また以前のように怒りがこみ上げてきた。

「あれ?どうしたのその手?ちょっと傷がついてるわよ?さっきお砂遊びしている時に擦り剥いちゃったのかしら?大丈夫???」

 私は自分の手を見ると確かに少し擦り剥いて血が出ていることに気づいた、それと同時に今まで自然と拳に力が入っていることがわかった。これ以上この女と話をしているとものの1・2分で殴ってしまいそうになる。それを避けるために早くこの場を立ち去ろう。そうだ、この女を守るために立ち去るのだ。断じて逃げたのではない。

「もういいです!私忙しいんで!じゃあさようなら!」

 私はクルっと背を向けて立ち去ろうとする。すると女性は私の方をポンっと叩いた。

「ねぇ・・・1つまた教えてあげようかしら?」

「はぁ?何?」

「就職活動は恋愛と一緒よ・・・れ・ん・あ・い♪」

 女性はパチンと大きなウインクをする。

「何言ってんのあんた、意味わかんない。あ~あ時間無駄にした。じゃあさよなら~~~」

 私は肩に置かれた女性の手を振り払い。すぐさまその場を去る。遠いところでまだ女性の声がする。

「この近くに住んでるの~~!?またご縁があれば一緒にお話しましょ~~ねーー!!!」

 二度するもんかと誓った。せっかくいい気分だったのに台無しだ。冷めた気持ちを治すためにも家に帰ってトレーニングの続きをしよう。郵便が途中に来たので、今日のノルマを達成できていない。また二次選考の面接は三日後と書かれてあったことも思い出した。その面接対策もしないといけない。目の前にやらないといけないことがまだまだあることが思い出せたのは頭が冷えてよかったかもしれない。ただそうは言ってもこの胸糞悪い気分は消えない。私は胸の中でモヤモヤしたものを抱え、悪い流れを感じながらも、急ぎ足で家に帰った。


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