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カルミアの魔女  作者: 黒目
第三章 絶対私は私に打ち勝つ!
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第十四話 3歳児の親!絵本の読み聞かせの有効性

身近にいる育児を頑張っている母さんがいたので小説の題材にしてみました。

高評価・ブックマーク、どうかよろしくお願い致します。


「その時の反応は可愛いからいいんだけど、内容を後で思い返させてみるといまいち理解していないことが多いのよね~。これって私のやり方が悪いのかしら?それともこの子に問題があるのかしら?」


 私の目の前で順子は「う~ん」と腕を組んで唸る。今日は私はベビーシッターが休みの日だ。そして休日は順子の旦那さんが子供の面倒をみてくれるので、私のランチを共にしていた。


 最初はいつものように幸華の話題で盛り上がる。あいかわらず幸華はよく泣くが「見てみて!これ!泣く三秒前の顔可愛すぎない?!」と言って、順子は幸華の写真を見せる。確かにとても可愛い。


 他にも、ぎこちなくおもちゃを両手で遊んでいる姿や、口を開いて乳歯が生え始めている姿の写真もあった。当然すべて可愛い。とても可愛い。その時の私と順子の顔は恐らく緩み切っていることだろう。自分でもわかるくらいふわふわした空気が自分達の周りに浮かんでいることがわかる。


 私はふと顔を上げて、幸華の写真を見ている順子の表情を見る。そこにはまるでこの世の幸せがすべて自分の手の中にあるとでも言うような幸せそうな表情をしていた。私は時折みせるこの自分の子を愛する順子の表情が好きだ。


 そして料理が到着次第、自然と話題が変わり、今度は直人の話題になった。そこで空気が少し変わる。幸華に関しては直人を経験していることもあり、0歳の子供を育てる経験が二回目ということで、ある程度育児の大変さを理解していた。しかし3歳の子供を育てることは初めてで、少し戸惑うことが多いという。


 話を良く聞くと、最近直とに絵本の読み聞かせを家でさせているらしい。しかし思うように内容を理解していないとのことだ。保育園でも絵本の読み聞かせはされているものの、その内容を聞いても、「りんごのほん!」や「さるのほん!」と言った簡単な情報しか口にしない。


 私は年齢相応のものなのかはわからないので、なぜ順子がそのことについて悩んでいるかを聞いてみた。すると、


「ん~まぁね、前に一緒にランチした王城さんいるでしょ?ADHDのお子さんがいる人、そういう人が身近にいると、ひょっとして自分の子供も発達障害とかあったりするのかな~とか最近思うんだ。だから発達の遅れとかがあると少し気になっちゃうのよね~」


 という理由らしい。その悩みに加え、連日に上る幸華の夜鳴きで、また少し精神的にも肉体的にも疲れてきているとのことだ。先ほどまではあれだけニコニコしていた順子の表情が、意気消沈して鈍よりした表情を浮かべる。正直その顔は順子には似合わない。


 そして冒頭のような悩みになったというわけだ。


「えっと、ちょっと待ってくださいね……」


 どうにかその暗い顔をした順子を元の笑顔に戻したい。そこで私は自分の育児ノートを取り出し、最近メモした内容で参考になりそうなものを探した。


「あ、あった、ちょっと私の話を聞いてもらってもいいですか?」


「うん、何かいい方法あれば教えてほしいな」


 順子は鈍よりした表情を浮かべたまま、私に耳を傾ける。


「これは、2018年に文・社会科学系で考察された論文なのですが、




【朗読の情緒的質が物語理解に与える影響として,物語理解における読み聞かせ方法の違いの差は見られないとなった。しかし,心情理解においてはその差が現れ,大げさな演じ分けにおいてより高い理解が示される】




ということが明らかにされております」


「それって絵本に出てくる主人公の気持ちとかを感情を込めて読みましょう?ってこと?」


「そうですね。まぁ本の読み聞かせにおける大げさな演じ分けってのは、【絵本の中で展開される物語を舞台演劇や映画のように、ナレーション・登場人物・時に効果音にいたるまで、読み手によって演じ分けられるということである】という理解で間違いないと思いますよ」


「そっか~そう思うと私の読み方に、少し棒読みの所があったかもしれないな~」


「ただ注意点として、先行研究による結果はそれぞれが全く反対のものを示しているものもあり、読み聞かせによる大げさな演じ分けは子どもの中で働く心情理解を助ける役割もありますが、状況によっては混乱を起こす要因にもなり得る。ということです」


「それってどういうこと?」


「まぁ言い換えると、読み手の表現によって受け取り方が大きく変わってしまい、さらに絵の示す視覚情報もプラスされることで理解度が増幅しますが、混乱を招くことで理解度が減少するということになると言える。ということです」


「あ~、ただ大げさに表現するんじゃなくて、読み手自身が最後まで内容をしっかり理解していないといけないってこと?」


「そうです」


「なるほどな~、確かに適当に本を買ってきてその場で呼んでるときあるもんな~!あれはいけないんだね!」


「そうですね~読み手が理解していないと心情理解について効果が薄れるんじゃないでしょうか?」


「そっか……じゃあこの子が理解できていなかったのは私が悪いのかな~?」


 順子は少しシュンとして自分の膝を見る。ちがう、そうではない。私が見たかったのはそのような暗い顔ではない。


その様子をみて私は自分の意図していることが伝わっていないことを理解し、すぐに訂正を加えた。


「あ!で、でも、この論文では研究者自身も子ども達の想像力については今後の課題として置いているので、悠斗君自身の想像力にも一因はあると思いますよ!」


「え!?あ、ありがとう!」


 私が少し声を大きくして話してしまったせいか、順子はビクっとして驚きの目で私を見る。


「ただ、親として絵本の読み聞かせで行えることは、大げさな演じ分けと演じ分けない統制に存在する違いには,子ども達に対する確かな影響力が存在することが明らかにされているので、子供に心情理解については大げさな演じ分けをしたほうが得策であると言いたかっただけです!順子さんは十分自分の子供のことを考えて頑張っていると思いますよ!」


 「そっか~……そうかな~えへへ!」


 順子はいつものようにニパっと笑う。そうだ、その笑顔が見たかったのだ。その表情に最初のような迷いが少し薄れているように思えた。


 すると順子の携帯がピロン!と鳴った。どうやら旦那さんから連絡がきたらしい。


「あ、ごめん!また旦那から救援要請の連絡が来た!じゃあすぐ帰るね!」


順子はすぐ立ち上がって私と一緒に店を出た。


「じゃあまたね~!」と駅前の広場の真ん中を突っ走りながら私に手を振る。その元気で明るく、そして力強い姿を見て思った。




がんばる母の姿は美しい。

参考文献:

『絵本の読み聞かせにおける一考察─感情の有無からくる影響』秀 真一郎

http://kiui.jp/pc/kiyou/kiyou-no28/honbun/01.pdf


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