第十三話 思春期少年の親!ロンドン大学による子供の将来に大きく影響を与える良い叱り方
『世界で一番有能な教師よりも、分別のある平凡な父親によってこそ、子供は立派に教育される』
ジャン=ジャック・ルソー
今日も真一の家庭教師の日だ。家に入るといつも通り父親である源一は毅然とした態度で挨拶をし、真一は礼儀正しくお辞儀をする。今更になってわかったことだが、この家には母親がおらず、父子家庭であることを最近知った。だからどうというわけではないが。
そしていつも通り真一の部屋へ向かおうとすると、
「田中井先生、この後ちょっと時間をもらってもいいですか?」
と声を掛けられた。何か仕出かしただろうか?特に身に覚えがないが、妙にそわそわしてしまう。
家庭教師の時間が終わるとリビングに通され、
「真一の部活の件についてこの前はありがとうございました」
源一は深くお辞儀をする。以前私が、『自分の成長の壁にぶつかり、努力することが嫌になった』という悩みを抱えた真一に、【成長マインドセット】を取り入れることが成果を出す上で重要だというアドバイスをしたのだ。
「いえ、偶然私が公園で見かけてよかったです」
「見ての通り家は父子家庭です。真一は内公的で、しかも思春期という時期ですので、あの子なりに抱えているものがあるでしょう。そんな悩みを聞いてくださって本当にありがとうございます」
源一はまた深くお辞儀をする。
「ただ、今回のことで私の教育のやり方といいますか、そこに問題があったのではないかと思いまして。真一の担任の先生や部活動の顧問の先生にも話を伺ったのですが、すべて真一は素直で優しく、いい子であるという返答しか帰って来ませんでした。なので日ごろの結果なのかもしれませんが、今回のサボりもそこまで咎められることはなかったんです。しかし、今後同じようなことが続けば周りの評価は変わるでしょう。だとすれば今のままではいけない。私の教育思想について間違ったことがあるのであるならば改善しないといけない。そう考えた上で、真一に身近に接しており、教養のある田中井先生の意見も伺いたく思い今回時間をとって頂いたということです。どうでしょう?田中井先生からみて、真一は正しく成長しているでしょうか?」
なるほど、私を鏡に使いたいということか。ようやく呼ばれた理由を理解した。そういうことなら特に気負いせず、私は素直に自分の考えを述べていった。
「これはそもそもの前提なのですが、基本的には、親の育て方で子どもの性格というものはほとんど変わらないとされています」
「え、そうなのですか?」
源一は「ふ~む」と唸って腕を組み、神妙な顔つきで私を見る。
「あくまで科学的にですが、人の性格は半分は遺伝子で決まり、残りの半分は人間関係で決まるものです。ですから、親の育て方ではほとんど変わらないという意味です」
「でも人間関係を円滑に進めさせるための教育は必要でしょう?」
「はいもちろんです、親の叱り方はとても大事です。これはロンドン大学の研究で、5300人分のデータを調べた結果なのですが、親の子供に対する叱り方によって子供の将来が大きく変わる。と明らかにされています。もちろんこれ以外にも様々な研究で、親が子供の躾が子供の将来に強い要因になることが明白です」
源一はまた「ふ~む」と唸って腕を組む。
「そして、良い叱り方と悪い叱り方というものを明らかにされており、良い叱り方とは、
【心理をコントロールしようとするのではなく、あくまで行動を指摘して、明確に改善案を掲示するのが、子供の未来を活かす叱り方】
です。」
「なるほど……ちなみに、その理由というか、根拠というか、そういうものはありますか?」
「はい、元々この研究は、いわゆる毒親の特徴について調べてくれたものです。毒親とは子供の将来に悪い影響を与える親という意味で受け取っていいと思います。そしてまず一つ結論としては、子供の未来をダメにしてしまう毒親は【心理コントロール傾向が強く、子供の未来の可能性を伸ばす親は行動コントロール傾向が強い】ということがわかりました」
「なるほど……もう少し具体的に説明していただくことはできますか?」
「そうですね~、例えば他の大人が見ている前で「ウチの子成績悪いし、運動もダメダメなんですよ~」や、勉強の成果が上がらない子に対して「誰が学費を払っていると思っているの?」などが挙げられると思います。要するに、【遠回しで嫌な叱り方】ですね」
「そうか……そうなのですね」
源一は組んだ腕により力を入れた。その様子を見て私は気軽に一つ問いかけてみる。
「あの、なにか気になることがありましたか?」
まだ源一が頭の中で考えていることがわからなかった。その頭の中で考えていることを知りたい。そう思って質問したのだ。
「いえ、少し自分の行動を振り返っておりました。お気になさらず」
そう言った瞬間硬くなっていた腕を紐解いていった。源一なりに自分と向き合おうしていたのだろう。
「話が長くなって申し訳ありません。結論を言いますと、私から見て真一君は、感受性が高く内公的で、思春期ならではの、常に自分の考えに自問自答している。しかし答えにいくつまで考え抜くかしこい子という評価です。まだそこまでしか見えておらず、真一君の内面までは見抜くことができておりません。おそらく心情を察するに、ご期待に沿うような返答をできていなかったかもしれません。申し訳ございません」
そう言って頭を下げて私は福沢家を後にした。
帰りの電車で今日の出来事を振り返ってみた。今日源一と話をしていて一つ改めてわかったことがある。本当にごく当たり前のことかもしれないが
【親というものは自分の分身のように自分の子供のことを考えている】
ということだ。
「私の親は……どうだったんだろう?」
呟くように自分の親が口から漏れてしまった。自然とそこには、かつてのような心を刺すような痛みはなかった。それは私の成長なのだろうか?それとも痛みに鈍感になっただけだろうか?いずれにせよ、自分の中で変化があったことが自分自身で感じられた。私は私を打ち破れるのだろうか?また本を読もう。何か解決できるかもしれない。そう思い、私は今日もいつものように家の近所にある本屋に立ち寄ったのだった。
参考文献:
https://www.research.ed.ac.uk/portal/en/publications/parentchild-relationships-and-offsprings-positive-mental-wellbeing-from-adolescence-to-early-older-age(5f5cdffa-b169-4350-a471-2128eaad405e).html




