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カルミアの魔女  作者: 黒目
第三章 絶対私は私に打ち勝つ!
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第十一話 スポーツ少年の悩み!ノーコストでできる限界突破成長方法

「ねぇ先生、僕って才能ないのかな?背も低いし、サッカー向いてないかも」


 真一は私の家の近くの公園で、サッカーボールを抱えながら私にそう問いかける。なぜこの様な状況になったかというと、たまたま私が公園で散歩をしている時に、見覚えのある少年がベンチに座っていたのだ。それが真一だった。後に知ったことなのだが、私の家の近くにある中学校に真一は在籍していた。


 なぜこんな所で塞ぎこんでいたかというと、同じ時期にサッカー部に入部した同級生の子がいる。その子はいわばライバル的な存在で、同じ未経験という状況もあり、今ままで切磋琢磨してきた仲だという。その子がここ最近凄まじい成長を遂げており、この二ヶ月前の練習試合で成果を出し、次の公式戦で念願のレギュラー入りを果たしたのだ。その成果をライバルとして喜ぶ一方、少し羨ましく思う自分がいるのだ。


 その後真一も練習に熱を入れ努力する。しかし、中々思うように動く事ができない。折角パスを受けてもディフェンスにボールを取られたり、何回シュートの練習をしてもキーパーに阻まれるという日々を送っていた。そんな日々の中で練習が嫌になり、家を出たはいいが、その後足取りが重くなり、部活動をサボってしまったという。そのまま家に帰ることもできず、中学校の近くにある公園で時間を潰しているということだ。


 しかし真一は家庭教師をしている自分だからこそわかることもある。彼はバカではない。きちんと問題を整理し、前向きな改善案を探ろうと思考を巡らす傾向がある。それを知っているからこそ私は「そこに座って何を考えてたの?」と質問を投げかけてみた。すると冒頭のような返答が帰ってきたのである。


 こういう思春期特有の悩みというか、大人なら気軽に流すようなことも真剣に受け止めてしまうのは中学生ならではと言ったところだ。その話を聞いて、私の中でいくつかの提案が思い浮かんだ。


「一つ確認したいのだけれどいいかしら?あなたのお母さんって身長が高いほう?」


「え?どうだろう?僕が小学生の時に死んじゃったからあまり覚えてないや、でもなんとなく高かったと思う」


「だったらあなたはこれから約80%の確率で身長は伸びると思うわ」


「なんでそんなことが言えるの?」


 真一の頭上には?マークがわかりやすく飛んでいる。しかし確認した事実を元に私はさらに話を進めた。


「これはアメリカのメリーランド大学にいる運動生理学部の先生の研究によるものなんだけど、運動能力は遺伝率が関係してくるという説が存在するわ。具体的には


1.ウォーキングやジョギングなどの長時間継続して行える運動(有酸素運動):遺伝率は約40~50%

2.筋力および筋肉量:遺伝率は約50~60%

3.持久力と瞬発力のどちらが優れているかを決定する要素(「遅筋線維」と「速筋繊維」の混在率):遺伝率は約45%

4.スポーツでの全般的な競争力:遺伝率は約66%


とされているの。ちなみに身長の遺伝率は約80%とされているわ。だから気休めで言ってるわけじゃなくて、科学的知見から見てあなたはこれから大きく成長する可能性は十分にあると言っているの」


 私から見るに真一の父親も大柄というわけではないが、175センチは超えていると思うので、父親と母親の身長から見るに、真一はもっと身長が伸びると思った。


「そうか、でもさ、身長はわかったんだけど、やっぱりスポーツの才能って半分以上遺伝で決まるってことだよね?だったらちょっと理不尽だよ」


「まぁ確かにらスタート時点でまったく同じ運動レベルの2人が、まったく同じプログラムに沿ってトレーニングをしたとしても、どちらかが相手よりも強くなる可能性は十分にあるわ」


「そっか……そうだよね」


 真一が否定してほしかった事実をあっさり言い継げた。しかしその後ろ向きな反応をすることは想定の範囲内だ。それを踏まえないと前向きな提案ができないからだ。


「でも運動能力には多くの要因が絡んでいるの。あなたがサッカーのチームメイトの中では足が遅いほうだとしても、ボールがどこに行くかを見極める優れた目を持っているかもしれないし、キック力も勝っているかもしれない。もしくは、心肺持久力は高くないにしても、効率的なストライドを生かして走れる長い足を持っているかもしれない。だから、少し嫌な言い方かもしれないけど、いくつか役立たずの遺伝子を受け継いでいるからと言って、自分の長所や、興味のある分野、これは人に勝てるな、と思う部分を見つけて、そこを伸ばしてあげればいいんじゃないの?」


「そうかな~?」


「前にもクリティカルシンキングの事を話したでしょ?生まれ持った才能で天才には確かに勝つ事ができない能力もある。でもそれ以外の努力でしか埋められない重要な能力は努力で伸ばすことができる。その能力を伸ばして天才には勝つ事ができる考え方もあるの。だからそういう考えにシフトチェンジすることはできないかしら?」


「う~ん……」


 真一は額をくの字にして悩む。その反応を見て、私が想像している以上に、真一の中には根深いものがあったようだ。私は少し説明する視点を変えた。


「まだしっくりこないならこんな考え方はどうかしら?これは努力によって自分の未来を変えることができる考え方のことを【成長マインドセット】と呼ばれ、逆に自分の能力はあらかじめ決まっていて、努力しても未来を変えることはできないという考えを【硬直マインドセット】と呼ぶの。そしてこのようなマインドセットに着目した実験もあって、これは2018年のスタンフォード大学が行なった研究なんだけど、14〜15歳の約12000名の学生を集めて全体をふたつのグループに分けた。それぞれのグループには、


1.マインドセットを解説する25分の動画を20日間程度の間隔をあけて2回(同じ内容)見せる

2.脳の構造について解説した25分の動画を20日間程度の間隔をあけて2回(同じ内容)見せる


ということをした。その結果1のグループは2グループに対して、平均で0.03ポイント成績が上がり、さらにマインドセットを意図的に変えて、自分は【成長マインドセットに変わるんだ!】と意識して頑張った人たちは0.08ポイントも成績が上がりましたと言う。つまり、普通にただマインドセット解説動画を見た人たちよりも【3倍近く成績がよくなった】という結果があったの。また、マインドセットの解説動画を見たグループは赤点をとる確率が3%も低くなっていたという報告もあるわ」


「そうなの?すごいね、でも3%って低くない?そんなの意味あんの?」


「確かに3%と見ると少し小さいような気もするけど、ほんの少しの動画を見ただけで3%上がったのなら、長い目でみればそれは大きな差になるじゃない?若いうちは差がなくても、積み重ねてきたものが後半になると大きな差になるもので、するに私の言いたいことは、



【少しの考え方を変えるだけで成果なんて一瞬で変えることができ、それが長期的な成功の元となる】



ということよ。だからこの【成長マインドセット】を持っているかどうかが関わってくるということなの。真一君は確かに今はサッカーの実力で自分に足りないところがあるかもしれない。でも、自分は努力によってこの先の未来を変える事ができる!という【成長マインドセット】を自分の中に取り入れることによって、次第に成果が出ていくことは科学が実証してくれている。だから、この【成長マインドセット】を取り入れて頑張ってみてはどうかしら?どう?これなら納得できた?」


「そっか~、うん、まぁ少し難しい話だけど、なんかすんなり落ちたよ」


 真一はニコっと笑った。その後父親には私が真一から受けた悩みと、彼にした説明をして、それを部活動の顧問に伝えてもらいその場は丸く納まった。


 一息ついて家戻ると、私は真一に説明した内容をきちんとノートにまとめた。



2019年12月23日

福沢真一ふくざわしんいち、男性、14才

問題:自分の成長の壁にぶつかり、努力することが嫌になった

回答:2018年のスタンフォード大学による実験で【マインドセットの解説動画を見たグループは赤点をとる確率が3%も低くなった】という結果から、【成長マインドセット】を取り入れることが成果を出す上で重要だというアドバイスをして対処した。



 こうしてまとめてみると私自身も進化していると思う。以前の私ならば完全にその場でうろたえていただろう。しかし王城の一件以来教育分野での本も読む事が多くなった。それが今生かされたことで私はちょっぴり自分に自信がついた。





参考文献:

『努力がクセになる性格に変わる「成長マインドセット」入門』メンタリストDAIGO

https://daigoblog.jp/growth-mindset/

『遺伝子は運動能力にどれだけ影響するの?』Stephen Roth

https://www.excite.co.jp/news/article/Lifehacker_201601_160107_fitness_genetics/

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