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カルミアの魔女  作者: 黒目
第三章 絶対私は私に打ち勝つ!
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第六話 魔女の提案 その2

「レイちゃんこんにちは。どう?ベビーシッター生活は? 笑」


 ベビーシッターをして2週間ほどたった。肉体的な疲れは多少あったが、精神的にはむしろ良好だ。私は今日も皆口家でベビーシッターをしたところだ。その帰りの電車の中で、日々の育児で改良に改良を重ねた自分の育児ノートを見ながら帰る。その流れが日課になりつつある中、2週間ぶりに私をこの生活に追いやった張本人から連絡が来たのだった。しかもなんだこの文の最後の『笑』は、私はチッ!っと舌打ちをすると同時に少しニヤついて笑ってしまった。


「あいかわらずだな~、麗さんは」


 たった2週間だけだが、少し麗の顔が懐かしくなった。クラブ:カルミアは今頃どうなっているのだろうか?私を本指名してくれていたお客さんはどうしているだろうか?お客さんには私から少しの間キャバクラを休業するとだけ伝え、その理由までは説明していない。今まで私を応援してくれていたからこそちゃんとした形で答えたかったが、今はまだ思い出したくない。まだ……怖い。私は「だれかさんのおかげさまで心身共に良好です!」とだけ返信しておいた。


 その後私の家の最寄り駅に着いた。すると、よく見慣れた、しかし懐かしい人物が駅の改札口で私を待っていた。正直電車の中で連絡が来たときになんとなくそろそろ会う頃だなと予感していたので、そこまで驚きはしなかった。


「あら、本当に健康そうね。二週間前とは見違えるようだわ」


 麗のスレンダーな体型はいつ見ても綺麗だ。その美しい腰に手を当てて凛と立つ姿は、いつもながら威圧感がある。しかし、その姿を見ると自然と笑みが零れる。


「どうしたんですか?こんな所で待ち伏せて」


「なによ、私に会えるなんて幸運じゃない?もっと喜んでいいのよ?」


「喜んでますよ、表に出ていないだけで」


「あらそう?だったもう少し嬉しそうな顔しなさいよ、私の客なら感激して私に飛びついてくるわよ?」


「じゃあ麗さんの胸に飛びついていいですか?あの夜みたいに」


 自分でもその言葉が出てきたことにビックリした。今目の前に麗がいるからだろうか?あの夜は自然と記憶の彼方に封印していたはずだった。それを自分から掘り起こした。しかしビックリしたのはそれだけではない、自分から掘り起こしてなお、今のこの自然すぎる冷静さだ。冷静すぎて逆に不自然に感じるくらいだ。この時私は自分の胸の中に熱いものを感じた。それが何なのか今はわからない。


 私のその言葉を聞いて麗は「あら……あらあらあら」と言って、純粋な笑顔から一転して企みを含む笑みに変わった。しかし、私もたった半年だが、ある程度麗との付き合いが長くなった。今ならそのクセから麗の心を理解できる。麗がその笑い方をする時は、心の中の自分の心情を隠す時だ。その隠している真情が驚きか悲しみかはわからない。ただ私がびっくりしていると同じくらい麗の中でも何かしらの感情が揺れ動いていることは確かだ。


「少し場所を移しましょうか」


 麗はそう言って、カタカタとヒールの音を立てて歩き始める。私は後ろを付いていく。その歩いている間はお互い一言も話すことはなかった。






 15分ほど歩くと私の家からも麗の家からも適度な距離にある公園に着いた。私がプライベートで始めて麗と会ったあの広い公園だ。その公園の中を二人で並列に歩き始めた。そして少し歩いてから、ようやく麗が口を開いた。


「ねぇ、レイちゃんは今本当に大丈夫?」


 麗は前を向いたまま私に話しかける。その横顔を見てみると無表情で、その質問の意図は測りかねる。


「え?はい、大丈夫ですけど?」


「そう、ならよかった」


 そう言うと麗は少し安心した表情をしてフっと笑みを零す。


「順子は元気?」


「ん~、やっぱり少し育児のストレスに悩まされていると思います。昨日一緒にご飯を食べた時にその悩みを打ち明けられました」


「へ~そうなんだ。それでレイちゃんはどう答えたの?」


「私は自分が読んだ本や論文、インターネットの記事からそのストレスを軽減させる自分なりの考えを言いました」


「そっか、それで順子はどうだった」


「すごく喜んでくれました。なんども両手をパチパチさせて、少し照れくさかったです」


「そっか、それはよかったね」


 なるほど、麗の意図を少し掴んだ。私を通して順子の様子を伺いたかったのだろう。麗視点だけでなく他の人の視点の意見を聞いておきたかったということだろう。


「後これは確認なのだけど、レイちゃんってキャバ嬢時代に漢字検定に合格してなかった?」


「はい、持ってますよ。まぁ準一級ですが」


「後もう1つ聞きたいのだけど、今月の給料ってどれくらいになるの?」


「え?え、え~っといくらぐらいかな?」


 その唐突な質問を少し頭の中で考えてみる。1日6000円が週に5回だから、一週間で3万、二週間で6万程度現在稼いでいる。これをだいたい月で計算すると12万稼ぐことになると思う。そう思うとキャバ嬢をしている時に比べてずいぶん減ったことを痛感した。確かにもう少し稼ぐことができれば私としてもありがたいが、麗は突然どうしてそんな話をするのだろうか?


「まぁ月12万ぐらいですかね?」


「だったらもう少し稼ぎたくない?」


「まぁもう少し稼ぎたいと言えば稼ぎたいですけど」


「だよね?そうよね?」


 麗は次はクククっとさらに含み笑いをしながら、麗は自分のスマホを取り出した。正直少し気持ち悪い。


「じゃあ丁度良かったわ、明日夜6時くらいになると思う。時間変更があったら私から連絡するわ。今から送る場所に行ってくれない?どうせ夜は暇してるでしょ?」


 すると私のスマホに「ピロン!」と通知が来た。この感じはデジャブというものだろう。なんとなく今後の展開が予測できた。そしてなぜか自然と笑みが零れた。この感覚に慣れ、そしてあたかも楽しいと感じてしまうのは、正直病気かもしれないと自分でも思う。




「次は私に何をさせようって言うんですか?」




 正直これが愚問というか、返答がわかりきっている質問だ。我ながら無駄な質問だと思った。しかしこれはもう一連の流れと言うか、お家芸と言うか、自分と麗の関係の中で必ずやらなければならない物だと悟った。そして麗の返答は当然私の予想通りのものだった。


「着いてからの、お、た、の、し、み!」


 やってやる。久方ぶりに私の中で何かが暴れるのを感じた。それは好奇心という名の、一度暴れたら納得するまで暴れ続けるモンスターだ。


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