第五話 子育てママ!スタンフォード式、育児ストレスを軽減させる方法
作者も実践している方法です。
確かにストレス軽減の効果が実感できたので、そのことについて今回麗華に話してもらいました。
育児ノートをまとめた次の日に、さっそくノートの中で有効な手段を実施してみた。すると、以前はあんなに苦労していた事が嘘のように、幸華はすんなり眠ってしまった。具体的には、動画投稿サイトで投稿している、『赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいる時の音』を聞かせたのだ。すると、昨日はお昼寝の時間に約40分かかっていたのだが、今日はものの5分程度で眠ってしまった。その後40分近く立っても起きなかった。その間に仕事をサボるわけにもいかなかったので、空いている時間を使って家事を済ませた。
時間になって順子が帰ってきた。すると順子はとても驚いて「え!めっちゃ部屋綺麗―!!!」と言って部屋中を見渡した。私は順子に感謝されて給料を貰い、その場を後にした。
その日の帰りの電車は昨日のような疲れがなく、育児がうまくいって、少し爽やかな気分で帰宅することができた。しかしその途中で、昨日にまとめた私の【育児ノート】を忘れていたことに気がついた。まぁある程度は頭の中にインプットされているので、1日2日なくたってまったく困らないため、そのままスルーすることにした。
また、帰りの電車で順子から「ねぇ!今度の土曜日のお昼とか時間ない?一緒にお茶しましょ!」という連絡が来た。その日は夫も仕事が休みなので、昼まで子供の面倒を見てくれるので、その間にご飯でも食べようということだ。ベビーシッターの仕事がなければ特にやることもないので、一緒に昼食を取ることにした。
翌日私は順子の家の最寄り駅まで行った。順子はすでに到着しており、私の姿を捉えた瞬間、「れいちゃーん!」と大きく手を振った。
そして駅前のレストランに入って一緒にご飯を食べた。食事をしながら色んなことを話した。順子のキャバクラ時代の話や、私が今まで接客してきた人の話など、元々同じ仕事をしていたので意外と共通の話題が多く、会話が途切れることもなく純粋に楽しかった。
食事をし始めてから30分ほど時間がたつと、順子は「あ!そうだ!」と何かを思い出した様子で、バックの中をゴソゴソと漁る。
「麗華ちゃんってすごく勉強熱心なんだね。ごめんなさい。盗み見るつもりはなかったんだけど、机の上に置いてあったノートの中見ちゃった。こんなに細かくまとめたいいもの、レイちゃんが持ってないと困るんじゃないかと思って今日持ってきたんだ!」
順子は申し訳なさそうに私が忘れて行ったノートを私の前に差し出す。次の出勤日で回収するはずだったが、今日の食事会で私に会うので、そのついでに持って帰ってきてくれたようだ。
「全然かまいませんよ。むしろありがとうございます」
私はその順子の親切を素直に例を言って、ノートを自分の鞄の中にしまおうとする。その瞬間、順子は私がノートをしまおうとする手をガッ!っと掴んだ。
「ど!どうしたんですか!?」
「レイちゃんお願い!どうか私の悩み聞いてくれない!?」
突然の事に少し驚いてしまった。そこでようやく察した。順子は最初から何か私に聞きたいことがあって今回私を食事に誘ったのだ。
私はキャバクラで男性客の悩みを聞いた時のように、順子の話を聞きながら相槌を打ち、その悩みを深く掘り下げて言った。
話を要約するとこうだ。最近育児のストレスが頂点に達しつつある。肉体的なしんどさと精神的なしんどさの両方に悩まされているらしい。周りのママ友の様子を見ていると似たり寄ったりの悩みは共有するものの、話を聞く限りではスムーズに育児を行っているらしい。それに加えて、私の昨日のスムーズに育児を行う働きぶりを見て、少し自分の自信が揺らいでしまった。
ということだ。
「なるほど、でもどうしてそれを私に相談するのですか?私は育児経験は浅いので他のママさんに相談する方がいいと思います」
「まぁ相談したんだけどね、結構ありきたりの返答というか、正直そこまでピンとくることがなくてね。そんな時に昨日その育児ノートを見て、レイちゃんなら他の人が考えないような改善案を出してくれるんじゃないかな~と思ったんだ。だから聞いて見たの」
そういうことか、順子の真意を理解した上で、私は知識を繋ぎ合わせ、話の骨組みを組み立てていった。
「そういうことなら私の考えでよければお話させていただきますね」
「お願いします!」
「これは、2017年に484名の子育て中の女性に対してインターネット調査で行われた結果なのですが、普段「ストレス」を感じているママたちは約9割で、その主な要因は「育児」「パパ」「金銭面」「家事」等が挙げられます。その中で圧倒的1位は、
【育児(子供自体のこと)」で70.5%】
であります。2位は「夫・パパ」で59.4%、3位は「金銭面」で50.3%。ついで「家事」49.2%、「時間のこと(いつも慌ただしい、自分の時間がない等)」44.8%と続くそうです。なので順子さんが感じている問題はこの世の中で多くの人が同じように感じているものであると思われます。それはごく当たり前のことだと思いますよ」
「へ~そうなんだ!よかった、私だけじゃないんだ」
「そして育児や、夫、金銭面といっても具体的にどのようなストレスかというと、これは2005年ですでに明らかにされていることなのですが、育児ストレスを特徴づける要因として、
1.『育児の理想と現実に対する不安』,『アイデンティティの喪失に対する脅威』などの因子に見られる【母親自身のパーソナリティ】から生じるストレス
2.『子どもの発達に対する懸念』,『子どもに対するコントロール不可能感』など,育児の対象である【子ども】から生じるストレス
3.『夫の育児態度に対する不満』,『育児環境の不備に対する不満』など育児をサポートする【夫や環境に対する不満】から生じるストレス
大きく分けてこの三つがストレス要因として挙げられます。この中でどんなストレスが一番順子さんが原因だと思われますか?」
「ん~どれだろぅ~、ん~全部なような気がする~」
順子は腕を組んで、眉毛をくの字にさせて一生懸命悩む。しかし私が説明した知識の中では順子が自分のストレスを客観的に判断することができなさそうだったので、私はまた別の方向から話を進めた。
「ではこの育児疲れの症状チェックをしてみてはいかがでしょうか?これはとある精神科医の先生が作ったチェックリストです。そのチェック項目をラインで送りますね。この項目で、
1.0~2個の場合は、育児疲れは今のところ心配ない。
2.3~5の場合は、育児疲れ予備軍なので注意を!
3.6個以上の場合は、かなり育児疲れが出ている様子。心の休養をとって
とのことです。このチェックリストを使って自分の状態を客観視してみるのはどうでしょうか?」
私は順子に、あらかじめスマホでメモを取っておいたチェックリストを送った。そのチェックリストは以下の通りである。
1.1日1回以上、子どもを叱る・注意する
2.イライラして、子どもを叱ることがある
3.同じことで何度も叱ったり・注意したりすることがある
4.子どもが何かしても、ガマンして怒らないようにしている
5.子育てをしていて“こんなはずではなかった…”と思うことがある
6.しつけは、しっかりしたい
7.周りのママが優しく見えたり、うらやましく見える
8.ゆっくり食事やお茶ができない
9.子育ては8割以上、ママ一人で行っている
10.子どものことや家庭のことを本音で話せる友だちがいない
順子はスマホの画面を見ながら、チェック項目に従ってチェックしていく。その手が止まったところで私は声を掛ける。
「どうでしたか?何点でしたか?」
「私は4点だった!1と6と7と9の四つだったよ!いや~こうしてみると意外と私って育児疲れだったんだね~」
こうして順子に自分の状態を客観視させる。それと同時に、世の中で今自分がどういう立ち位置にいるかを理解できる。そして「決して自分だけの悩みではない。世の中で多くの人が抱えている悩みである」ということを理解すれば、今抱えている悩みを一人で背負わなくてもよくなる。それができてようやく次に進むことができると考えたのだ。
その後に私はストレスに対する具体的な改善案を提示した。
「これはスタンフォード大学で教鞭を振るっているケリーマクゴニカルさんがいて、その方が書いてある本に載っていたことなのですが、まず大前提に【ストレスは体に害である】この思い込みを捨ててください!」
「え~~!!!どういうこと!?ストレスって体に悪いものなんじゃないの!?」
「それは現代科学ではっきり否定されています。この根拠となる研究はアメリカ行われたもので、約3万人の成人の動向を8年間追跡調査しました。この研究ではまず 「去年どれ位ストレスを感じましたか」 「ストレスは健康に害になると信じますか」 といった質問を参加者に答えてもらいます。そして後に公開されてる死亡記録を使って参加者の誰が亡くなったか調べました。」
「すごいね!8年間も追跡するとかストーカーみたいだね!」
「そんなこと言うと科学者の方に怒られちゃいますよ?」
「それは失敬!ごめん続けて!」
「まず結論から言います。この研究結果では、
【ストレスが無害だと思う人たちの死亡リスクは最も低い】
という結果が出たのです。もっと詳しく説明すると、前年にひどいストレスを経験した人たちは死亡するリスクが実に43%高かった。しかしこのことは、ストレスが健康に害を及ぼすと信じていた人たちだけに言えることでした。つまり、ひどいストレスを経験してもストレスが無害だと思う人たちの死亡リスクは上がるどころか、ストレスが殆どなかったグループと比較しても研究参加者の中で最も低いものだった。ということです」
「えー!考え方が違うだけでそんなにも変わるものなの!?」
「そうです。さらにそれに加えて、アメリカで約1000人の 34歳から93歳までの成人を追跡調査した研究があり、まず参加者にこのような質問をしました。「去年どれ位のストレスを感じましたか」また「コミュニティーや近所の人友達を助ける為にどれ位時間を費やしましたか」といった質問もしました。その後5年間、その中の誰が亡くなったかを見るため公の死亡記録を使いました。その結果、経済的惨事や家庭危機などの 重大なストレスを経験すると 死のリスクが30%増加するという結果が出たそうです。しかし、皆が皆増加してはいませんでした。ではどういう人たちが死のリスクが増加しなかったかというと、
【他の人への思いやりに時間を費やした人々には、ストレスから来る死亡の増加は全くなかった。ほぼゼロである】
という研究結果が出たのです」
「え?それってどういうこと?」
「つまり、思いやることが回復力を作り上げるということです。どのように考えどう対応するかでストレスの経験が変えられることがこの研究でも明らかになったのです」
「ご、ごめん!話が難しくなってきてわからなくなってきたんだけど、つまり私はこれからどうすればいいの?」
「では私の言いたかったことを簡潔に述べると、
【ストレスを軽減したいのならば、自分が関係を持つ人に親切、思いやり、愛を持って接すること】
これが現代科学の結論です。」
「えー!そんなんでいいの?あ、でも以外と結構難しいことかもしれないね」
「そうですね、人は自分が追い詰められている時は尚更難しいかもしれません。一応もっと詳しく説明すると、なぜこのようなことが起こるというと、ストレスを感じるときに、脳内のストレスホルモンである【オキシトシン】が影響しているそうです」
「オキシトシンってなに?」
「このオキシトシンは、人を抱擁する時に分泌されるので「抱擁ホルモン」という可愛いニックネームまで付けられています。このオキシトシンは心血管系をストレスの悪影響から守ってくれます。自然の抗炎症薬と言っても差し支えないでしょう」
「何それ!?可愛くて強いとか最高じゃん!」
「しかもこのオキシトシンは、ストレス下の人に手を差し伸べ、助けたり助けられたりすると、このホルモンがもっと分泌され、ストレス反応は健康なものとなり、実はストレスからもっと早く回復するとも言われています。だから先ほども言った通り、自分が追い詰められている時に親切にするのは難しい、でも
【追い詰められている時に人に親切にすることができると、オキシトシンの分泌量がさらに多くなり、健康的になる】
ということが結論として言えます」
「そ、そうか~」
「どうでしょうか私の話は?少し参考になりましたか?」
正直話している最中に少し熱くなって、順子を置いてきぼりにしてしまいそうになってしまったので、順子にとって有益なことを話せているか不安になった。しかしそんな不安はすぐに順子の一言で取り越し苦労だったと思えた。
「参考になるもなにも!すごい!レイちゃんってほんとすごい!!!」
私の不安を払ってくれるようにパチパチと両手を何度も叩き「すごい!すごい!」と何度も私を賞賛してくれる。そこまで言われると流石に少し照れくさくなってしまう。
「そっか~、でも私にできるかな~、そこが少し心配」
順子は先ほどの笑顔から一転して、また不安そうな顔をする。しかしその不安は順子目線から自分を見ているだけで、私目線から順子をみると不安になることではない。私はその根拠をはっきりと口にした。
「別に心配することじゃないと思いますよ?だってもうすでに実行してくれたじゃないですか?」
「え?何を?」
「何って、このノート持ってきてくださいましたよね?」
「あ……」
私はバックにしまった自分の育児ノートをもう一度出して、順子の前に提示した。そこで順子自身も自分の親切さに気がついたようだった。
「持ってきていただいてこんなことを言うのもなんですが、私は明日ベビーシッターに行く予定なので、このノートを受け取るのは明日でもよかった。しかし順子さんはこのノートがないと私が困ると思って今日持ってきてくださったのですよね?まぁこの食事会のついでかもしれませんが、別に明日でもよかったものを今日持ってきてくださったのは順子さんの【親切さ】。それが現れている証拠とも取れます。なので順子さんは自分で難しいことかもしれないと言っていましたが、
【育児ストレスに悩まされている中でも自然と親切なことができている】
これをもう少し自覚してみてはいかがでしょうか?それを自覚することができれば、自然と順子さんの悩みは解決されるかもしれませんよ?」
「そっか~、そうなんだ~、わたしったら意外と親切な人なんだね~」
今度は順子が照れくさそうにして自分の頭をポリポリと掻く。その時に順子のスマホがブルブルとなった。
「あ!旦那からだ!ちょっとごめんね!」
どうやら順子の旦那さんから電話がかかってきたらしい。そこでふと時計に目を向けると、時間はすでに二時を回っていた。
「ごめん!旦那から救援要請が入った!すぐ帰るね!」
ずいぶん話し込んでしまったことをお互い理解し、順子は「今日で少しは私の大変さがあいつにも理解できただろう!わははは!」と大げさに笑い、家で待つ旦那さんの元へ急いで帰った。私もその後電車に乗って家に帰った。
その日の夜23時頃に、順子から連絡が来た。
「オキシトシン過剰分泌中!」
そういう一文と、布団で寝ている夫と幸華と直人の三人に毛布をかけている最中の順子の自撮り画像が添付されていた。私自身もほっこりした気持ちになってその夜はグッスリ眠ることができた。
参考文献:
1.『「ママのストレスとトキメキ」調査』,博報堂こそだて家族研究所
2.『乳幼児を持つ母親の育児ストレスに関する要因の分析』,村上 京子,飯野 英親,塚原 正人,辻野久美子
3.『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』,ケリー・マクゴニガル
4.『育児疲れの理由は?ママの心の状態チェックリスト【精神科医・水島広子先生の「怒らないですむ子育て」】』https://hugkum.sho.jp/33326
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