第一話 魔女の提案
第三章開幕です
「ねぇ、レイちゃん。あなたに少し提案があるの」
私は店が弊店するまで控え室で毛布に包まっていた。そして店が弊店してから麗に呼び出された。今では少し落ち着きを取り戻したが、まだ先ほどの状況を思い返そうとするだけで頭が痛くなる。私は自分でも理解できていないくらい、私が男性嫌いの一因にになった元父親が嫌いだったのだ。それが今回の出来事で理解できた。
「レイちゃん。明日から店にこないように。いいわね」
「そんな!そんな……」
正直毛布で包まっている間に色々考えた。麗がそう判断するのも理解できなくはない。私は理由はどうであれ、お客さんから逃げ出し、その後席に着くことができなかったのだ。
【キャストが提供するのは有益な時間そのもの】
それができなかった、いや、放棄したキャバ嬢に今後仕事などない。私でもそう思った。よって麗の判断は妥当であると思う。
しかし私はまだ何ヶ月かこの仕事をして、今までに感じたことのないやりがいを感じたのだ。辞めたくはない。でもそれを私の口から言うことはできない。それがとてももどかしかった。
「ごめん、この言い方じゃあ提案と言うより指示みたいね。私に少し考えがあって、それを一旦自分の中で受け入れてほしいの」
「?」
私は今意気消沈している。その私に麗は何を提案しようと言うのだろうか?
「いきなり店に来るなって言われてもレイちゃんも生活があるし、そんなの困るでしょ?だから私が今から送る場所で明日から働いてほしいの」
「そ!それはどこですか!?」
暗く沈んでいた心がパっと明るくなるのを感じた。要はこの店に来なくていいから知り合いのキャバクラで働いてほしいということだろう。私は送られた場所をすぐに確認した。
「……え、これってどこですか?」
そこは私の期待とは違い、マンションの一室だった。その場所をグーグルマップで開いてみると、そのマンションは見覚えがある。都内でも有名で大きなマンションだ。そこでいったい何をさせるというのだろう?少し期待を裏切られたような感じがして、いや勝手に期待したのは私だが、再度気持ちがブルーになっていく。
「まぁ行けばわかるわ。でも決して悪いようにはしない。貴方は少し心の休息が必要よ。仕事場には私から連絡しておくから明日からがんばってね!」
その私の気持ちに反して、麗はニコっと笑顔を向けて「あ!日時は明日の朝までに知らせておくから!」と言って、話を強引に終わらした。
私の就職先はどんなところだろう?麗の提案だからと言って少しは用心したほうがいいかもしれない。まだ麗の真意が掴みきれていないところがあるからだ。
翌日の朝7時に、麗からまた連絡が来た。「9時にそこに到着してね!気軽な格好でいいから!」その一言だけだった。私は思い切ってその返答として「仕事内容ななんでしょうか?」と聞いてみた。しかし「行ってからのお楽しみ!」とはぐらかされる。さらにその「きっとあなたのためになるわよ!キャバ嬢とは路線が違う難しさはあるかもね!」と付け加えられる。
私は時間通りに指定された場所に到着した。オートロックになっているため、指定された部屋番号の【801】を入力する。どんな相手が出るのだろうか?男性だろうか?女性だろうか?どんな対応をされるのだろうか?どんな環境でどんな内容の仕事だろうか?私は頭の中で次々と悩みが出てくる。そんな中「は~~い」と柔らかくて優しい女性の声がイヤホン越しに聞こえてきた。
「あ!あの!昨日麗さんにここに来るように言われた者ですが!」
「あ!あ、は~い今開けますね~、上がってきてくださ~い」
オートロックの扉が開き、私は目的の部屋へと向かった。そして部屋の前に着いた。部屋の名前を見ると【皆口】と書かれている。私はメモした部屋番号を確認し、間違っていないことを確認した上でノックをした。すると「は!は~~い!」と明るい声が部屋の中から聞こえてくる。そして、ガチャっと音を立てて扉が開いた。
「あ!あなたがレイさんね!」
すると、小柄で優しそうな可愛い系の女性が現れた。腕にはまだ生まれて生後5ヶ月と言ったところの赤ちゃんが抱かれている。
「立ち話もなんだから入って!さぁさぁ!」
「は、はい」
部屋の中に入ると、奥には3才ぐらいと思われる男の子が「ママ!ママぁー!」と言って。その幸せそうな姿を見て少しホっとした。この空間は、とても暖かい。私の小さい頃はこんな感じだったのだろうか?いや、それは絶対にない。だからこの感覚は私が今まで感じたことのない感覚だった。
「あ、あの!私は何をすればいいんでしょうか!」
「え!?麗ちゃんから聞いてないの!?」
皆口はとても驚いて私を見る。「う~ら~ら~ちゃ~ん~め~!」と言って、ここにはいない麗にヘイトが向けられる。その反応は当然だと思った。
「こほん!では今から私があなたに仕事を命じます!」
皆口はわざとらしく咳払いをして赤ちゃんを抱っこしたままビシっと背筋を伸ばし、私を指差した。そして私がまったく想像していなかった言葉が告げられた。
「あなたは今日から【ベビーシッター】をしてもらいます!」




