表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カルミアの魔女  作者: 黒目
第二章 絶対私はキャバ嬢で成り上がる!
27/54

第十九話 ヘビースモーカー男!ハワード式悪習慣を断ち切る方法

「ずばりキミに聞こう、俺はどうすればタバコをやめられる?」


 そう私に問いかけているこの男性は橘、年齢は45歳。このキャバクラの常連で、いつもは麗を本指名している。それがなぜかこの日は私を指名してきたのだ。橘に指名された時は少し複雑な心境になったが、話を聞いていると麗から私を紹介されたという。キャバ嬢が自分の指名客を他のキャバ嬢に渡すことは、自分の売り上げが下がるので、通常ならば絶対にしないはずだ。ちなみに麗はこの店のトップの売り上げを誇るキャバ嬢であり、同時にこの店のオーナーである。キャバ嬢としてならありえない行為だが、オーナーとして私の成長のためという名目があるなら理解はできる。麗の真意は測りかねるが、私はいつも通りに接客することにした。

 そして麗がどういう説明を橘にしたのかわからないが、どんな食べ物が好きか?どんな服が好きか?どんな休日の過ごし方をするのか?等の雑談から、自分みたいなおじさんと話してどう思うか?最近のニュースを見てどういう風に思ったか?等私の感覚によって返答が変わるものまで、多くの質問をされた。

 しかし私は自分の話をするより相手の話を聞きたいため、橘自身の話に摩り替えていった。すると彼はタバコを辞めたいけどやめることができないという悩みに行き着いた。一日に最低一箱は空けないと気がすまないという。奥さんからも辞めるように言われているが、どうも隠れて吸ってしまうらしい。そこで私に改善案を求めてきた。


 という流れである。


「ん~そうですね~」


 私はいつもの様に自分の知識を組み立てて話の道筋を作った。


「少し私の話が長くなるかもしれませんが、よろしいでしょうか?」

「かまわんよ。聞かせてくれ」


 橘は腕を組んでソファーに深く座り、余裕を持った笑みを浮かべて私の話を聞こうとする姿勢を取る。そのおかげで私もリラックスして話し進めることができた。


「行動経済学者のハワード・ラクリンさんという方をご存知ですか?」

「だれだねそれは?知らないな~」

「アメリカの心理学者です。. 1965年、30歳の時にハーバード大学から心理学博士号を取得し、現在はニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の認知科学の名誉教授となっておられる方です」

「ほぅ、それで、それがどうタバコと関係してくるんだ?」

「そのハワードさんが、たばこの本数をどうやったら減らせるか?という質問に対してこう答えています。それは


【毎日同じ本数を吸い続ける】


ということです。これは、もし多くたばこを吸ってしまえば、明日も同じ本数を吸わなければならない。と考え、結果的にタバコを吸うことがいやになりやめられるというわけです。これは目的論的行動主義というもので、行動を変えたい場合、行動自体を帰るのではなく、バラツキを押さえる。これを知っているだけで悪習慣と戦いやすくなる。」


 橘は「ふ~ん」と声を漏らし顎を手のひらで摩り、眉間に皺を寄せてその場で考える。その様子を見て私は少し話を止める。


「そんなに都合よくいくものかね?」

「もちろんこれはタバコに限らず悪習慣ならなんでも効果が発揮され、例えばダイエットでも一緒です。ダイエット中に、今日くらいチョコレートを一個食べてもいいかな。という悪い欲望がささやいたとします。だけど、この【目的論的行動主義】が頭の中にあれば、もし今日食べたら、明日も明後日も同じ時間にドーナッツを食べない、と考えるようになり、結果自分の欲望に勝つことができ、ダイエットに成功するというわけです」

「お~なるほど、それはいいな、今度嫁さんに教えてあげようかな。これはいいことを聞いたな~」


 すると橘は今度はニコっと笑い、目線を上にする。おそらく奥さんにこの話をした時のことを想像しているのだろう。


「また、子育てについても応用が利きます。これはよく言われている子育てとは逆転のルールになるのですが、この逆転のルールは、自分にのみ効果があるわけではありません。特に子供がいる家庭ではめちゃくちゃ活用できます。今までに、「ゲームは1日1時間にしなさい!」「休みだからって部屋をダラダラ見ないの!」「いつまでをyoutube見てるのーー!」など、こういう注意をした経験はないでしょうか?けど、全然子供は聞いてくれない。と悩んだことはありませんか?」

「おー!それはあるな!確かに、あれは苦労はしたけど結果的に大学には合格してちゃんと自立してくれたし、今ではよかったなと思うよ」

「これも逆転のルールで解決できます。例えば、「ゲームは1日1時間にしなさい!」と制限をするのではなく、「今日もし3時間するなら、明日も明後日も、これからずっとやり続けなきゃいけないよ!それでもいい??」とルール化するのです。すると、次第に悪習慣から自分で立ち直ることができるということです」


 橘はまた腕を組んで目を瞑り、「ほぉ~なるほどね~」っと言って頭を上下に揺らす。


「なので橘さんもこの【目的論的行動主義】を頭の片隅に置いておき、【悪習慣を毎日同じ習慣を続ける努力をする】ことを心がけてはいかがでしょうか?」

「そうだな。確かに話の筋は通ってる。面白い。真剣に考えてくれてありがとう」


 そして時間までまた雑談をして会計の時間になった。その会計時に麗と橘がすれ違う。


「あら、今日は本指名してくださらないんですね?とうとう浮気ですか?」

「何言ってるんだ。お前が挿し向けたんじゃないか」

「あらそうでしたっけ?それは失礼致しました」


「あはは」とお互い笑っている。前にも感じたことだが、麗と男性客の間には他のキャバ嬢にはない【信頼感】のようなものがあると思った。そんな間柄になれたらと思うことはあるが、まだ私はできない。そこが少し妬ましくもあり、同時にうらやましくもある。


「それでそうでした?こ、の、子?」

「いや、面白いよ。キミの言う通りだ」

「でしょ?あ、エレベーターがきましたね。本日もご利用ありがとうございました」

「あ、あぁ、ありがとう。また来るよ」


 二人は意味深な会話をして、麗は橘を見送った。その後また私は他の客の接待に向かい、結局麗の真意は測り損ねたのであった。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ