第十三話 若者三人組客!女をくどくための曲の選出方法
「お!この子この子!噂のキャバ嬢の子!」
「へーめっちゃ可愛いじゃん!」
「ほんとだ、噂どおりだね」
私は三人組みのグループに本指名されて席についた。初めて見る顔だった。三人とも若く、スーツを着ているが大学生に見える。パっと見の印象で言うと、一人目は茶髪でシュっとしたスタイルのいい美形、二人目は黒髪で体格のいいスポーツマン、三人目はメガネの文系男子といったところだ。
「レイです。よろしくお願いします」
正直彼らの第一声からして色々聞きたいことはあるがひとまず置いといて、挨拶をして彼らの真ん中に座る。
「え、以外とクールなタイプ?俺超好みかも!」
「おい!何いきなりイってんだよ!お前早すぎ!」
茶髪イケメンが私に話しかけるが、黒髪スポーツマンがそれをすぐに遮る。文系メガネはそのやり取りとして薄く笑っていた。このやり取りだけで正直私の苦手なタイプだと思った。この手のタイプは頭を使わずその場のノリを楽しむタイプだ。落ち着いて話をすることはない。私はこの時点でゆったりと話すことは辞め、自分が気になる本題に切り込んだ。
「あの、さっきおっしゃっていました。う・わ・さ、とはなんですか?」
「いやネットに乗っててさ、変わった面白いキャバ嬢がいるってカキコミがあったんだよ!だからちょっと来てみたんだよ」
茶髪イケメンが自分のスマホ画面を見せてきた。確かにネットのカキコミに書かれてあるようだった。中には「せっかく通ったのに全部無駄になった!騙されるな!!!」「むっちゃムカついた、性格が可愛くない。話が長すぎ」と言った、以前私がフった人間が書いたようなカキコミが見られたが、ほとんどが「話の組み立て方が上手い。悩みがある時に通ってもいい」「色んな話を振ってみて!返答が面白いから!」等と、好意的なものや好奇心的なものが多かった。
正直ネットにこんなカキコミがあるなんて初めて知った。誹謗中傷も含めて書いてあることは近からずとも遠からず当たっている。そのカキコミを見て来た彼らはおおよその私の人物像を把握していると認識した。私はゆったりと構え、また彼らに質問を投げかけた。
「なるほど、では今日はどんな話を致しましょうか?」
「ん~そうだな~、んじゃキミと恋人になるにはどうすればいい?俺結構お金稼いでるからお金なら持ってるよ!」
「いや、だからお前ストレートすぎるだろ!次は俺に話させろよ!」
「ん~そうですね~」
茶髪イケメンが私にグイグイと迫ってくる。それをまた黒髪スポーツマンが静止する形になった。私は知識と経験を組み合わせ、この手のタイプの交わし方と頭の中で瞬時に組み立てた。
「ん~・・・無理ですね!」
「うわ~フラれたー!!!」
「ざまぁ!」
「あ、フってるわけじゃなくて、私今までそういう経験ないんです。私女子高で、あんまり出会いが無くて、だから勉強がてらにここで働かせていただいているんです。だから落ち込まないでください。誰に対してもすぐ無理です!って返しているので」
もちろん女子高なんて行ってない。しかし誰に対しても恋人関係になることはないということは事実だ。この手のタイプに有効なのは【処女性】と【公平性】を匂わせることだ。そうすることで自分の物にしたいと思わせることが重要なのだ。
その後、彼らの年齢、業種、趣味、好みの女性のタイプ等、キャバ嬢として接客する時に押さえる点をいくつか聞いていった。一人目の茶髪イケメンは西野、二人目の黒髪スポーツマンは泉、三人目の文系メガネは黒崎と言い、全員歳は22歳、今年新卒のIT関係の職場で働いているそうだ。こうして相手の情報を探ると自然と私の好奇心が疼く。自分のことを話してから、相手の事で興味が湧く話質問して掘り下げて聞いていく。これが苦手な相手と接客する時の私なりのコツだ。
「じゃあ次は泉さんと黒崎さんの話も聞きたいな~、何か私に聞きたいことありますか?」
先ほどから西野ばかりがしゃべっているので、ここで私は泉と黒崎に話の矛先を向ける。
「そうだな~、じゃあ俺はモテるためにどうすればいい?」
「モテるためにですか?ん~そうですね」
私はまた持っている知識と知識の点をつなぎ合わせ。会話を組み立てる。しかし漠然とする質問のため少し時間がかかると思い、黒崎にも話を振った。
「それについては話が少し長くなりますがよろしいですか?あ、でもその前に黒崎さんの話も聞きたいです!何か私に聞きたいことがありますか?」
「ん~・・・俺は、じゃあ泉と一緒で」
「なるほど、泉さんと一緒ですね」
このやり取りだけで一分は稼げた。その間に私は話の道筋を組み立てる。
「分かりました。では少し時間をいただきますね。これは2014年のフランスにある大学の研究なんですが、そこで87人の女性を集めて行なった実験があります。普通のポップスを聴いてもらった場合とロマンチックな曲を聴いてもらった場合で、どれぐらい男性に対する魅力が変化するのかということを調べてくれています。この実験では、女性たちにそれぞれの曲を聴いてもらった後に、研究者の男性がそれぞれナンパをしました」
「うわ!噂通りじゃん!すげぇー!そんな研究あんの!?」
「あ、すみません。少ししゃべりすぎてしまいました。やっぱり止めときましょうか?」
私はいつものように突然マシンガンのように話し始めた。その様子を見て西野は驚きの表情をする。そこで私は空気を読み、場に一呼吸置かせた。
「いや、いいよ、続けて」
ここで今まで物静かに観察していた黒崎から私への指示が入った。今まで物静かに観察していた黒崎が自分から話すとは思っていなかったので、少し驚いた。しかし何はともあれ話すことができる空気に戻ったので、私は話の続きをする。
「では続けさせていただきますね。その研究結果では、
【ポップスを聴いた場合よりもロマンチックな曲を聴いた場合の方が連絡先をゲットする確率が高くなった】
ということです。
普通のポップスを聴いた場合は28%の確率でしたが、ロマンチックな曲を聴いた場合はなんと52%でした。約2倍にも確率が上がったわけです。ロマンチックな曲を聴かせるだけで、連絡先をゲットする確率が2倍にも上がるわけですから、男性はロマンチックな曲がかかっている場所で女性を口説いた方がいいということになります」
「マジで!?すげー!」
「俺明日からそれ実践するわ」
西野と泉は感嘆の声を漏らす。しかし黒埼はジっと私を見つめる。その様子は少し不気味だったが、私は自信を持ってそのまま話続ける。
「他にもこんな研究もあって、モテる男が聴いている曲の特徴がとして、イギリスの大学が2014年に行った研究で、自分が好きで聴いている曲を女性に聴かせている時に、その女性が自分のことを魅力的だと思ってくれる曲はあるのかということを調べました。この研究では、平均年齢28歳の女性を1500人集めて、様々な BGM を聴いてもらう実験を行っています。曲のバリエーションには色々とありますが、簡単に言うとテンポや展開がシンプルな曲から徐々にテンポや展開が複雑になっていく曲までバリエーションが色々です。
そして、女性達に対して、その曲はある男性が選んでいると伝え、その男性がどんな人だと思い、どのぐらい魅力を感じるかということを尋ねました。その結果、
【テンポが複雑で展開の変化が激しい曲を選んだ男性ほど、女性から見た時に魅力的だ】
と思われる確率が高かったということです。」
西野と泉は「なるほどな~」と頷くが、ここでも黒埼は黙視する。その態度に私はより気を引き締めた。やり辛い事この上ない。しかしこの男が何を思っているのか?その態度自体に興味がそそられた。だから話を続ける。
「えっと、なぜこのようなことが起きているのかははっきりとは分かっていないとのことですが、複雑な曲を選ぶ人の方がクリエイティビティが高いと判断されるからではないかということです。複雑な曲を選ぶ人は独特な感性がありクリエイティビティが高いと思われるため、女性からモテると考えられています。つまり、男性が好きな曲を聞かれた時に、単調でシンプルな誰でも聴いていそうな曲を答えると、女性から好かれないかもしれませんのでご注意くださいね」
「あ~だからか」
黒崎はなぜか納得した表情で頷く。彼の中で何があったかはわからないが、何はともあれ納得してくれてよかった。私は少しホっとしたが、その反面彼が何を考えているかわからない点のみモヤモヤした感覚に包まれてしまった。
私が話し終わると、三人とも「お~」と言って拍手をしてくれた。その後は他の客からよく聞くような、別れ話やセックスの話等の男女関係を題材にしたものや、職場の愚痴等、なんの取りとめも無い話に移っていった。
そしてセット時間の1時間が経つと彼らは席を立った。私は彼ら三人をエレベーターに案内した。その最中に黒崎が私の肩を叩き、話しかけてきた。
「すごいねキミ、正直1つ目のフランスの大学の結果だとなんでロマンチックな曲なのか?ってことと、対象人数が80人ちょいって少なくね?って疑問があったんだけど、2つ目のイギリスの大学の結果も踏まえてみると納得ができたよ。大事なのはクリエイティブ性だったんだね、勉強になったよ。ありがとう」
黒崎は早口私に伝え、西野と泉が乗ったエレベーターに最後に乗る。そしてエレベーターが閉まるまで深くお辞儀をした。
今日は変な緊張に包まれた。相手の名前も顔も知らずに本指名を受けることは稀だ。その上で黒埼のような私の話に疑問点を持ち、疑ってかかる人間への接客は気をつけなければならない。
「もっともっと知識を蓄えないと・・・」
私はさらに知識を蓄えないといけないことを改めて思い知った。なにはともあれ今日の本指名での接客を終えた。
参考サイト
https://daigoblog.jp/effectssong/




