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カルミアの魔女  作者: 黒目
第二章 絶対私はキャバ嬢で成り上がる!
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第十二話 睡眠不足の学生キャバ嬢!最高の睡眠の取り方 

「麗華ちゃん、ホント私どうしたらいいんだろう?」


 今私の前で肩を落として眉間に皺を寄せる女性は、同僚のノノカというキャバ嬢だ。私は今日は休日だった。お昼にいつものように営業連絡をお客さんに返していると、1つ女性からの連絡があることに気がついた。ライン名を見てイマイチピンとこない。「ノノカ?そんな知り合いいたっけ?」と思ったが、私がキャバクラで働き始めて最初の方に連絡先を交換した女性がいたことを思い出した。正直彼女は学生で、キャバクラには週に2回しか勤務していない。シフトに入っている時に私とも被らなかったため、顔を合わせたことは2・3回しかない。そのノノカが何の用だろうと疑問が浮かんだ。その連絡内容を見ると、可愛い絵文字やアイコンを使っているため真意が図りにくいが、今日の夜に相談したいことがあるから時間を作って欲しいという内容だった。特にやることもなかったので私はOKした。そして現在は居酒屋でご飯を食べている。


「レイちゃん今日は来てくれてありがとう!前々からレイちゃんは気になってて一緒に飲みたいと思ってたんだ~、すごいよねレイちゃん、まだカルミアに入ってから二ヶ月も立ってないのにナンバー10に入ってるんだよ!」


 キャバクラにはランキング制度というものがあり、私はこの前店内のランキング表にランクインしたのだ。それを見て私に興味があり、今回連絡したということだった。最初は美味しく楽しく料理と食べていたのだが、次第に「ホント最近大変でさぁ~」というように愚痴が多くなっていった。そしてノノカは最近悩んでいることがあるということを打ち明けられた。それは、


【睡眠】


に関することだった。彼女の本分である学業が最近忙しいという。その限られた時間の中でキャバクラに勤務しているため、寝不足に悩まされているとのことだ。そして今に至る。


「キャバクラはお金になるから辞めれないし、でも単位は取らないといけないし、ホントどうしよう」


 ノノカはワイングラスを傾け、残りを飲み干した。ノノカの話の聞いて疑問に思ったことがあった。なぜ私に相談したのだろうか?


「ノノカさん、それの話をなぜ私にするのですか?」


ノノカと私はそんなに親しいわけではない。ノノカは大学には友人がいないのだろうか?


「ん~この前カルミアに行った時にユリちゃんと話しててさ、レイちゃんと飲みに行ったってのを聞いて、この子なら私の悩みを改善してくれるんじゃないかな~って思ってさ」


「ねぇ!なんかいい方法ない?おねが~い!」ノノカは肩を小さくして両手を合わせる。なるほど、私の意見を求めてという意味もあるらしい。【睡眠】というワードを聞いて、丁度今日読んだ本の知識が浮かんだ。そのアウトプットにもなるので、それならば素直に私なりに回答しようと思った。


「ありますよ、いい方法」

「ホント!?」


 ノノカはパっと目を大きく開いた。そして私はいつものように頭の中で知識の点と点をくみ上げて話し始める。


「結論から言いますね。もっとも睡眠の質をあげるには、


【最初の90分で深い睡眠を得られる努力をする】


これが最も改善の効率がいいとされています。私たちは通常、眠りに落ちたあとにノンレム睡眠(脳の活動が低下する深い睡眠)とレム睡眠(脳が活動している浅い睡眠)を、4~5回の周期で繰り返します。この周期のなかで、最も深い睡眠をとれるのが1回目の周期。特に入眠直後のノンレム睡眠が、最も深くなるんです。このノンレム睡眠をいかに深くできるかどうかが鍵となっています」

「ちょ!ちょっと待って!今メモするから!」


ノノカはバックからメモ用紙を取り出して私が今言ったことをメモし始める。


「ただこれから睡眠の改善方法を話す前に、睡眠を改善しないとどうなるかについてもご説明しますね。その方がモチベーションも保ちやすいと思うので」

「よろしくお願いします!」

「ではまず睡眠不足によるデメリットの1つとして、太りやすくなります。これは、睡眠不足により食欲を増す「グレリン」というホルモンが出るのにくわえて、食べすぎを抑える「レプチン」というホルモンが出なくなるからです。他にも糖尿病のリスクも上がります。これは睡眠不足により「インスリン」の分泌が悪くなり、血糖値が高くなることによりリスクが上がると言われています」

「う!確かに最近おなかの肉が落ちなくなってきたような・・・」

「では、具体的にどうすれば最初の90分で深い睡眠を得られるか、これについて説明します。まず1つ目に大切なことは


【体温リズム】


です。体温には2種類があって、体の表面の温度である「皮膚温度」と、脳や臓器など、体の内部の温度である「深部体温」に分けられます。特に深部体温のリズムは強固で、朝は高くなって夜には低くなるパターンにほぼ固定されているんです。なので深部体温のリズムを意図的に変化させることは難しいです。しかし不可能ではありません。例えばですが、雪山に遭難した人が眠くなり、他の人に「おい!寝るな!寝たら死ぬぞ!」と、叩き起こされているシーンを見たことはありませんか?今回の体温リズムを整える上でその原理を使えばいいのです」

「うんあるあるそのシーン!でもそれじゃあ部屋の中を寒くすればいいってこと?」

「そうではありません。少し例えが悪かったですね、では冬にコタツに潜っている時に睡魔に襲われることはありませんか?」

「あーそれならあるある!これからの季節に多いよね!よくやっちゃうんだよねー!」

「その原理も同じです。手足の表面温度は通常33.5℃前後ですが,入眠期においては手足の温度は約1.5℃上昇します。暖房器具はもちろん、寝具などで手足が暖かくなると,表面血管が拡張して血流が増加し,手足からの熱放散が起こります。手足は平たく表面積が広いので,体幹に比べて熱放散をするのに好都合がいいのです。そしてその手足からの熱放散の結果,深部体温(脳温)が下がります。そして皮膚体温と深部体温の差が縮まれば縮まるほど人は眠りにつく仕組みですなので、コタツに長くいると徐々に皮膚体温と深部体温が高くなり、その差が縮まるので眠くなっていくのです。雪山に遭難した時などはその逆で、皮膚体温と深部体温がどんどん下がっていき、その差が縮まっているので眠くなるのです」

「へーそうなんだ、だから眠くなるんだね」

「ちなみに冬にこたつで足を温めていると眠くなりますが,その後ずっと足を入れたままでは,足先が持続的に温められるために,先ほど述べた放熱作用が阻害され,結果として深部体温が低下せず,かえって眠りが浅くなり睡眠の質が下がるので辞めた方がいいと思います」

「あ、はい、すみません」

「要するにこの皮膚体温と深部体温を調節すればいい体温リズムを作るのです。そしてそのために重要なのは、


【入浴】


です。私たち人間は恒温動物なので、体温を一定に保とうとする機能が備わっています。入浴はこの性質を、上手に活用できるんです。基本は入浴後90分ほど経ったタイミングでベッドに入れば、より早く、より深く眠れます」

「えー!でもそれは私はやってるよ!?疲れているってのもあるけど、そんなに時間を空けてないとおもう!」

「あ~、ではもう1つ重要なことがあるので、そちらが原因かもしれません。もう1つの重要なことは


【就寝前の1時間は頭を使わないようにする】


これが2つ目のポイントです。例えば学生の時に授業中に眠くなるときってありませんでしたか?」

「はい!先生!私常習犯でした!!!」

「そうですか、ここで重要なのはあの時なんで眠くなったかについてです。なんで眠くなりましたか?」

「え~っと【退屈】だからかな?あ!!!」


 突然ハっと閃いたように、目と口を大きく開け、両手で口を隠した。


「気づきましたか?その【退屈】というのは頭を使わない、ということですよね?だから眠る前はその授業中のように、頭を使わない【退屈】の状態にしておくことが重要なのです。【退屈】とは普段は疎まれる状態ですが、睡眠にとっては良き友というわけですね」

「なるほどな~ものは考えようだね」

「だから睡眠の一時間前は頭を使わせないために、強力な光と多くの情報の刺激物を持つスマートフォン、続きが気になるミステリー本等は控えた方がいいですね。私もベットに入ってから本を読みますが、気軽に読める本をチョイスしています」

「うぁ~それは耳が痛いな~、私寝る直前までスマホ触ってるもん」

「それは辞めた方がいいですね、スマホを操作しているときはいろんな刺激的な情報に触れますよね。それで脳が興奮して眠れない。それが凄く問題なので、スマホを寝る前に触ることはおすすめしません」


 ノノカは私が話す内容を必死でメモをする。この姿を見ると非常に勤勉な女性に思え、素直に好感が持てる。


「今日はありがとうね」


店を出て駅までの道のりで、ノノカは呟くように私に礼を言った。


「なんかレイちゃんが指名される原因がわかった気がするよ。正直最初はね、今日会って話して選ばれる理由を突き止めてやろうと思ったの。なんか裏でヤってんじゃないの?とか思ってさ、でなけりゃ普通こんなにすぐ実績があがるわけないじゃん?」


 やはりそうかと思った。私もバカじゃない。自分の立ち位置を一応把握しているつもりだ。最初に連絡が来たときからなぜ私に相談したのかが気になっていたのもそれが引っかかっていたからだ。話の途中でも探りを入れられている節はあった。だから私も彼女の本題にすぐに乗っかった。しかしその思惑があったとしても、私は彼女の勤勉そうな姿を見て悪くは思えなかった。私には彼女を知るにはその一点だけで十分だ。


「ユリちゃんも言ってたことなんだけど、レイちゃんって親身に相談に乗ってくれて、誰も知らないような色んなことを知ってるんだね。正直私いっぱいいっぱいな所あったんだ。今日聞いたこと早速実践してみるよ。それでも無理ならまた話聞いてもらってもいい?」

「もちろんです。いつでも連絡ください」

「ありがとう」


 ノノカは再度呟くように私に礼を言った。その後はお互い自分の家に帰り、私の休日が終わった。


参考文献

『スタンフォード式 最高の睡眠』,西野精治

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