第二話 プロの技術と覚悟
「ほら、鏡見てみなさい。どう?すごいでしょ?本当はこの後ヘアメイクもしたいところなんだけど、お店にヘアメイク担当がいるからそこでやりましょうか。私も簡単にならできるけど、ちゃんとプロに任せましょうか」
私は言葉を失った。自分の顔があのキャバクラの場所のようにキラキラして見えた。しかしそれだけではない。メイクの技術はもちろんのこと、顔のパーツの細部への拘り、その熱意、そのプロのテクニックや意識の高さを目の当たりにして驚きを隠せなかった。
スキンケア後は、鼻のコンシーラーを塗っているので、汗を多少搔いていてもメイクが崩れない。メイクアップベースで少し肌色を整えてから、ファンデーションやローズパウダーで肌の艶を残しつつも顔全体、顎、頬周りも整える。そして私の黒色の髪色に合わせてアイブロウで眉毛を書く。私の少しキツイ目を押さえるために、なだらかに書いた。さらにマスカラで眉毛の間も補完し、はっきりと色をつける。この眉毛だけで筆を三本も使ったことに素直に驚いてしまった。コンシーラーで少し出ている吹出物を隠す。
アイメイクでは、アイグロウジェムを指で瞼をサっと塗って艶を出し、その上にさらに金のアイシャドウを重ね、煌びやかな目を演出させた。アイライナーで眉毛を厚くなりすぎず、薄くなりすぎず書き、その流れで目尻、目頭のラインも同様に書いていく。目元の三角部分をブラッシュを付けて指でなぞり、違うブラッシュで三角部分と塗っていない繋ぎ目のラインを塗り、指で馴染ませる。最後に白いブラッシュで三角部分を透明感と艶感を出す。
最後にチークで頬、顎、眉毛の間を塗り、リップで唇を立体感を出して顔作りが終わった。所要時間は20分前後と言ったところだ。
「今大体4時くらいだから、今から店に行って、店に着いたらヘアメイクして、ざっくりキャバクラの仕事内容も説明して、その後接客マナーも説明して、あ!ウチの店舗の料金システムも覚えてもらわないとね!お客さんに聞かれることもあるから説明できないといけないし!そしたら恐らく7時くらいになるかしらね。今日から働いてもらうからお客さんが来る前になんとか覚えてね」
「今日から!?!?!?」
その場の勢いに流されてここまで来てしまったけど、私がキャバクラで働くことなどできるのだろうか?そもそも私は未成年だ。さらに少し、いや、だいぶ男性を嫌悪している所がある。今までのようにセクハラで怒りに支配され、お客に暴力を奮ってしまうかもしれない。そうしたら店に迷惑がかかってしまう。それが最も心配だ。
「何か心配事があるなら今言ってね、なんでも答えるわ」
女性が心配そうで、それでいて暖かい眼差しをこちらに向けていた。自分を心情を忖度してくれているのだろうか?こういう目を見ると今まで嫌悪していたが、ひょっとすると暖かな心の持ち主ではないかと思ってくる。
「あ、あの!」
私は意を決してメイクイスから素早く立ち上がり、きちんと相手の目を見て今思っていることを素直にぶつけてみる。
「私実は未成年なんです。歳は18だからお酒を飲めませんし、今まで飲んだ事もありません。後男性は嫌いです。前の職場でもセクハラで上司を殴ってクビになってしまいました。さらに私を採用してくださった理由は先ほど聞きましたので、貴方から見た私については納得しましたが、私から見た貴方はまだ不透明な部分が多いんです。私貴方のことを何も知りません。正直言うとまだ信用のたる人間なのかも疑っています。歳はいくつですか?なぜキャバクラで働いているんですか?そもそも名前はなんですか?」
正直失礼な質問も多くあることは自覚していたが、聞かずには要られなかった。しかし私の予想とは反し、女性は「そう、よく話してくれたはね。どこから話そうかしら。う~ん」と言って、顎に手を乗せ目線を上にあげた。
「あ、じゃあ名前から教えるわね。私は泉麗。店での源氏名はうららって呼ばれてるわ。歳は29。あと未成年でも大丈夫よ。むしろそっちのほうが店的には稼げるから嬉しいわ。お酒も飲まなくて大丈夫よ。お客さんからのお酒の強要はないし、私の店ではさせないから安心してね。前の職場でセクラハをされたって言ってたけど、そこは正直キャバクラの世界でははっきり言って日常茶飯事ね。『セックスさせて』って言われることはお客さんにとって『こんにちは』といってるような感覚だわ。でも安心して。貴方が接客する時には隣に私か、別のベテランのキャバ嬢を席に着かせるから。きっちり手綱は握ってあげるわ。あと、なんでキャバ嬢になったかについては、はっきり言って10年ほど前はホストに入れ込んでいた時期があったの。そしてお金にとても困っていて、お金がたくさん稼げるからってのがこの世界に入った理由ね。これで貴方の質問には全部答えることができたかしら?何かこれ以上気になることはある?」
麗は腕を組んで自分を包み隠さず何でも答えるという毅然とした態度で私の前に立つ。
「いえ・・・もう、ありません」
「そう、じゃあ店に移動しましょうか?」
その毅然とした態度で、またしても私は言葉を失ってしまった。こうして私は夜の世界へ足を踏み入れた。




