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負け専傭兵の冒険録  作者: 零式
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ワーレンハルト撤退戦①

まだ薄暗い王都。篝火の灯りに浮かび上がる王国の紋章が印象的な北門。雨は止み、降っていた気配だけが残っている。


「雨は降っててもらって良かったんだがなぁ…」


戦闘になった時、通常雨はひどく邪魔なものとなる。特に森林における戦闘だと、足元が悪くなるだけで戦いにくさは大幅に増す。視界も悪くなり、さらには濡れる事で体温も奪われる。だが、この男にとってはデメリットは同様にあるものの、それを上回るメリットがあるのだ。雨が降る事で気配を断ちやすくなる。視界、音、匂いといった物理的な気配は雨だと隠しやすくなるのだ。勿論魔力による気配探知には引っかかるものの、この男はジョブのスキルによってそれを遮断できる。それ故の愚痴だった。


この男のジョブはアサシン(暗殺者)。スカウト(偵察者)の上級ジョブである。隠蔽や戦闘補助に特化したスカウトから経験を積む事により中級のローグ(監視者)を経てアサシンに至る。ジョブチェンジは一定条件を満たした時に自動で変わる。デメリットはなく、ジョブチェンジによってパッシブスキルや追加スキルが増える。男はアサシンのスキルである魔力遮断とスカウトのスキル、ハイド(気配遮断)によって一時的に気配を完全に断つ事が可能であり、またスキルを使わなくても、パッシブスキルの隠蔽によって物理的な気配は抑える事ができる。勿論戦場においてはその僅かな気配でも残す訳にはいかないのだが。



男の目指す先はワーレンハルトの森。王国と帝国の境界にあり、食物資源、木材、鉱物資源、薬物資源といった資源が豊富にあり、かつ深い森である為、守るに易く、攻めるに難い天然の要害である。とは言え、実際はその深い森の奥は未開の地であり、人間が入り込んでいるのはその外縁部となる。通常王都から歩きなら15日程度はかかるのだが、ギルドが誇るワイバーン輸送隊により空輸で半日、そこから歩きで夕方には最前線に入る予定である。



「まず戦況把握は基本だな」



敵の対空攻撃に注意して、少し離れた位置でワイバーンを降り、移動しながらハイドと魔力気配遮断を使う。ジョブ特性として移動速度は戦士やウィザードのそれとは段違いに早い。すぐに自軍の陣地に至るが、ひとまず素通りで偵察に移る。


予想以上に自陣から敵の簡易砦までの距離が近い。考えていたよりも押し込まれているようだ。おそらくこちらの編成から数まで把握されていると考えて間違いない。砦の配置は中央を奥にした三角形で少ない人数では攻め辛い。左右の砦にはアーチャーとウィザードが数人。中央に戦士、ナイトとアーチャー…


昨日シュナイデルは当初斥候と判断した、と言っていた。それはすなわち部隊編成がスカウトやローグ中心だったという事ではないのか?この状況なら自陣内であるにも関わらずハイドしている可能性は低い。となると、前線にスカウトやローグが全くいないのは違和感がある。もう一つ。例の傭兵狩りの旗もない。



さらに奥に入るといくつかの砦が見えてきた。


「こりゃダメだな。目がない」


思わず愚痴が出る。予想はしていたが実に見事な教科書通りの砦配置だ。砦同士が相互に補完する位置に配置してある為、どこを攻めても挟撃のリスクから解放されない。砦攻略と侵攻を同時に行うには少なすぎる今の自軍の数ではどうすることも出来ないだろう。


奥中央の大きな砦に最近よく見る旗が見えた。件の傭兵狩り部隊の旗だ。しかし相変わらずスカウトの姿はない。ウィザードが多い所を見ると、あちこちに魔力気配探知が張り巡らされているのだろう。数的不利を覆す奇襲もまず失敗するだろう。さらにスカウトやローグでは魔力気配探知をかいくぐれない。そもそも既に勝ちが見えたこの戦場では、スカウトやローグの出番は少ない。おそらくは本格的な侵攻前に火力職と入れ替わったのだろう。残された時間は少ない。



「さて、大体見えたな。仕事…するか」


此の期に及んで勝ちの目は無い。それは間違いないのだが、だからといってこのまま放置されることはない。今後すぐに、もしかしたら今現在進行形でこの地の奪還計画は進んでいるだろうし、募集も進んでいるだろう。では自分の仕事とは何か。それは来るべき奪還作戦時にこちらが有利になる為の工作である。


そしてその場で持ってきた荷物を確認すると、彼は静かに宵闇へと溶けていった。




着いてすぐはスルーした王国傭兵陣地の入り口を入ると、すぐにガタイのいい男に止められた。


「待て!誰だ?」


「ジョニ、ローグだ。ギルドの依頼で救援に来た。」


そう言ってギルドカードを渡すと、それを確認しながら男は名乗った。


「傭兵団、鋼の牙のリーダーをやっているギュスタヴだ。よろしく頼む。やはり負け戦ではまともな救援は期待出来ないか…これだけ待ってローグが1人とは…」


腕に覚えがある傭兵とシュナイデルは言っていたが、現状が把握出来ていないのか、なかなかに無礼な物言いだ。とは言え負け専などやっていればこんな事は日常茶飯事だし、一々反応する程短気でもない。


「悪いな。だが、戦うにも撤退するにも人数は多い方がいいだろう?」


「確かにそれはそうだ。ひとまずここの連中に紹介する。こっちに来てくれ。」


そう言ってギュスタヴは陣地奥の広場に案内してくれた。撤退と言う言葉に反応しなかった所をみると、ある程度は今後の展開が予測出来ているらしい。まぁ、その憔悴した顔を見ればいかに現状がマズイかは理解しているのだろう。


広場に集まっていた他の傭兵達もギュスタヴ同様厳しい顔で話し合いをしている。


「みんな、聞いてくれ。ギルドから救援に来てくれたジョニだ。よろしく頼む。」


「ジョニだ。ローグをやってる。よろしく。」


視線が痛い。オレ1人だよ、悪かったな、そこのウィザード!あからさまに悲しそうにするんじゃない!頼むから泣くなよ?



こうしていよいよワーレンハルト撤退戦が始まったのだった。









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