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負け専傭兵の冒険録  作者: 零式
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勝率1桁の傭兵

朝方から降り始めた雨は、ここに来て風をはらみ、嵐の予感をもって入口の看板を叩いていた。


ショットバー「ラスト」


開店は夕方からなのでまだ少し早い。オレはいつものように薄暗い店内で開店準備に勤しんでいた。ラストは王国目抜き通りから三本程奥に入って入り組んだ路地の奥にあるオレの店だ。わざわざ誰も来ないようなこんな辺鄙な所に店を構えたのにはそれなりの理由はある。


「今日は少なそうだな…」


もともとこんな奥にまで来る物好きなどそれほど多くはない。ましてやこんな天気だ…王国一の美味い酒や肴を出す、とか、王国一の看板娘がいる、とか、そんな付加価値があるならいざ知らず、男が一人でやっているバーにそんな付加価値などあろうはずもない。酒も肴も普通、女っ気など皆無、しかも常連はすべからく厳つい連中だったりする…愚痴も出ようというものだ。実際、いつもなら雨の日は客は少ないし、当然売り上げも悲しいものになる。だが、どうやら今日は違うようだ。


「ジョニ、いるか?」

「まだ開いてねぇよ。」

「バカヤロウ、いくらなんでもこんな時間から呑むかよ。仕事だ、仕事。」

「勘弁してくれよシュナイデル…ここんとこ閑古鳥が鳴いてて懐がやべぇんだ。ちゃんと営業しなきゃここの家賃だって大変なんだよ…」


シュナイデルーー金髪碧眼に体が筋肉のみで出来てるんじゃないかと思うほどの立派な体躯、普通の人間なら睨まれただけで動けなくなる程の眼力と雰囲気を身にまとわせたこの男は、王国にたったひとつある傭兵ギルドのマスターにして自身も百戦錬磨の現役傭兵だ。


「オレの所に来たって事は…またアレか?最近多くないか?」

「ああ…面目次第も無い…。こうなると頼りになるのはお前だけでな…」

「ものは言い様だな。頼りになる、じゃなくて受けるのが、の間違いだろう?」

「まぁ、それは否定せんが…ただ頼りにしてるって所は本音だぞ」

「仕方ない。ちょっと待ってろ、詳しく聞こう。」



ーーこの大陸は現在、3つの大国がほぼ均等な領土を保ったままそれぞれが大陸における覇権を目指して日々しのぎを削っている。


大国とは即ち、ジス王国・フェルト皇国・レーベンハイム帝国の3つだ。それぞれの旗印の基調色が順番に赤・緑・青となっている為、簡素化して色でそれぞれの国を表現する事が多い。三国と言えば、素人考えには二国で協力して一国を潰して、そのあとタイマンを張ればいいのではないかと思うのだが、その辺りはそう簡単にはいかない事情があるのだそうだ。オレにはよくわからない。


「いいぞ。話を聞こうか。」

「ああ、悪い。だがまずは一杯貰おうか。」

「お前…さっき自分で言ったことをもう忘れたのか?…」

「カウンターに座っちまったら酒がねぇと落ちつかねぇよ。」



「しかし相変わらず美味くも不味くもない酒だな…ってそれはおいといてだな…」

「言い草!」

「始まりは5日前だ。青の連中がワーレンハルトの森に入って来たって情報がギルドに入った。」

「数は?」

「単部隊6名程度って事だった。」

「当初の編成から言って斥候だろうって話になって、早速募集をかけたんだが、すぐに2部隊8名は集まった。ベテランはいなかったがそこそこの腕の連中だ。」

「それで?」

「でだ。そいつらはすぐにワーレンハルトに向かって、4日前に接敵の連絡が入った。問題はそっからだ。斥候だと思ってた青の連中は1日で10人以上に増えていたらしいんだが、こっちの連中はそこそこ腕に自信もあったし、あまり増えると仕事の身入りも悪くなるってんで、敵が増えたって情報を握りやがったんだ。」

「まだ増えそうだな。そりゃ…」

「そうだろう?普通そう考えるわな…ところが奴らは情報を握った。すると2日目にはさらに増えた。まあ、そうなるわな。しかもそこで気づいた。青の連中は例の傭兵狩り部隊だったんだよ。」

「あー…青の蒼牙だっけ?厄介だな…あいつらはギリギリまで隠して、自分達が有利になったとたんに旗を出すような姑息な連中だぞ。」

「ああ。舐めてたこっちも悪いんだが、気づいた時には前線に3つの簡易砦が出来ていて、迎撃体制も取られていたらしい。まあ…詰みだ。」

「しょっぱなから増えたって連絡をもらってりゃ、こっちもすぐに募集が出来たんだが、既にそんな戦況だ。募集はかけたが集まらない。当たり前だわな。」

「明らかな負け戦だからな…好き好んで負けにいく奴はいないよな。」

「お前以外はな?」

「……まぁな…」

「それでこうしてここにいるわけだ。負け戦ではあるがワーレンハルトは最前線だ。ギルドマスターとして簡単に撤退させる訳にはいかんし、傭兵としての責任を果たさせにゃならん。それと…」

「あの傭兵狩りどもに気分良くやられてやるのもしゃくだしな。」

「そういう事だ。」

「だがな…オレは戦の天才でもなけりゃ、勇者でもない。しがないソロ傭兵のローグだぞ?一人でやれる事なんてたかが知れてるんだ。そんなふうに期待されても困る」

「まぁ、そんな気負わなくていい。いつも通りやってくれ」

「仕方ない。とりあえず行ってみよう。そのかわり報酬は頼むぞ。」

「わかっている。そこは任せろ」


そう言うとシュナイデルはグラスに残った酒を一気に飲み干した。


こいつはこいつで大変なんだろう。実際傭兵という奴は本当に厄介な連中だ。前線の小競り合い程度に国の騎士団などが手を出したなら、それこそ国を挙げた戦になってしまう。だからおいそれとは手を出せない。だが、一方で資源確保やそれに伴う領土拡大を放棄することは出来ないから、どうしても局地的な小競り合いは発生する。そこに傭兵の需要が発生する訳だ。国というものに巻かれていない傭兵は基本的に自由だし、自分次第で大金を得られる可能性もある。基本的に雇われである以上戦に関する責任も別に無い訳で、正直気楽なものだ。だから当然腕に覚えのある連中が多いし、そこに所謂ならず者が一定量存在するのも否定出来ない。そんな連中を束ねる存在が傭兵ギルドのギルドマスターだ。気苦労が絶えないのも推して知るべしだろう。


「それにしてもわざわざこんな所まで来てもらって悪かったな」

「気にするな。こっちが足を運ばなかったら、お前からギルドに来ることなんて滅多に無いだろう?」

「たしかにそれもそうか」


と、オレ達は顔を見合わせて笑った。通常、傭兵依頼はギルドにある依頼掲示板に出される。そして傭兵達はヒマで金の無い連中が多いから、特殊なケースを除き掲示後即奪い合うように受付が始まる。ギルドの方から個人に依頼する事などまず無い。ましてや忙しいマスターがわざわざ足を運ぶなど有り得ないのだ。では何故今こうして彼が来ているのか?


それは先に言った特殊なケースだからだ。もっと言えば、オレが優秀な傭兵だから、ではない。あくまでオレがこの国で下手をすると唯一の珍しいスタンスをもった傭兵だからだ。


負け専のジョニ。それがオレの通り名。その名の通り、オレは負け戦が確定した戦場の救援や後始末を主に引き受ける珍しい傭兵なのだ。


本来傭兵は、傭兵であればこそ参加した戦場の勝率を気にする。それが高ければ優秀な傭兵と見なされるし、優秀な傭兵にはそれに応じたランクが与えられ、そのランクに応じた仕事が用意される。当然報酬もいいし、特に優秀な傭兵だと貴族並みの資産を持つものだっている。逆に戦場の勝率が低いと、能力を疑われるし、それ相応の仕事しか用意されない。だから基本的に既に負けが決まった戦場に救援に行くなんていう物好きはいない。実際、オレの勝率は1桁だ。オレの勝率ではギルドに行った所で受けられる仕事などロクなものは無いし、行くだけ無駄だから自分からギルドに行くことは滅多にない。シュナイデルが依頼に来るのはそんな理由があるからだ。今回も先にギルドで依頼したものの、受ける奴がいなかったからオレに回ってきた訳だ。ギルドマスターとしては、いくら自業自得、自己責任とは言っても、救援を頼まれて簡単に見捨てる訳にはいかないだろう。


「明日朝出る。間に合うか?」

「おそらく間に合うだろう。間に合わなかったらそれは仕方ない。こっちとしては救援は出しているのだから後はどうにもならんって話だ。」

「ひでぇな」

「傭兵なんて自己責任だ。そんなに甘くは無いだろうよ。」

「青の連中だが、やりたいようにやらせたんじゃ舐められる。出来れば一発かましてやって欲しい。」

「だからソロの傭兵に期待するなって!」

「わかったわかった!頼んだぞ」


まったくわかっていない顔で笑ったシュナイデルは、もう何杯目になったかわからない酒を一気に飲み干した。



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