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創作の世界で置き去りにされていく「心」‐ご都合主義の狭間であがく力

作者: Via

最近、というほど最近の傾向ではないかもしれないが、創作の世界でも心がないがしろにされていく傾向が見られる。三つの作品(ルパン、インデックス、まおゆう)を例に取り、悪しき(と私の信ずる)風潮に警鐘を鳴らしてみたい。


私はそれほど多くの創作物に触れているわけではない。アニメも小説も、さほど見ないし読まない。「なろう系」に至っては、たぶん一作も見ていない。そのため、このサイトの多くの人とは情報源が若干異なるかもしれないが、それほど大きな問題はないと思う。


1,ルパン三世


AbemaTVでルパン三世Part4を見た。第何話までだっただろうか。全部見たわけではない。


さて、問題になるのは第七話「ザッピング・オペレーション」の回だ。ネタバレになるかもしれないので、未視聴の方はここで読むのをやめて頂きたい。すみません。


準レギュラーとして登場していたMI6の男が、娘を誘拐される。何の因果か、ルパン達がその娘を保護してしまう。しかし、保護されたとは思わない父親は、ルパン達を誘拐犯だと勘違いしてしまう。


ここまではいい。当然だ。


そのお父さん、あまり銃の扱いがお上手ではない。止まっているルパンにすら当てられない始末であり、よくそれで強キャラっぽく振る舞えるなと突っ込みたくはなるが、そこは目をつぶろう。ルパン的なお約束だ。


問題はこの後。娘がルパンのすぐ側にいるというのに、発砲してしまう。流れ弾が当たったらどうするつもりだ? 次元並の凄腕で、そうはならない自信があるのならともかく、あの腕で当てない自信を持っていたら大馬鹿者だろう。


どうしてあの状況で銃撃できるのか? 実は娘に愛情なぞなく、仕事の方が大事だからというならそれでもいい。が、娘の危機に心底ご立腹のようだった。辻褄が合わない。


2,とある魔術の禁書目録


これも、AbemaTVで見たのではなかったか。もうずっと前の記憶になる。私は原作を読んでおらず、アニメ版しか知らないので、以下の指摘が原作者に向けられるべきなのか、アニメ監督に向けられるべきなのかまでは判断できない。


あと、これもネタバレを含むので、未視聴の方はお帰りください。ごめんね。


一話の最後で、主人公はインデックスが倒れているのを発見する。すると、赤髪の魔術師が登場し、いろいろと能書きをたれ始める。二話はこの男との戦いが中心となるわけだが、どうやらこの魔術師君、インデックスを助けに来たらしい。そのことが、もっと後になって語られる。


二話の段階では、魔術師はインデックスの敵として描かれているので違和感を持たなかったが、本当は味方だとなれば話が変わってくる。


どうしてすぐに助けようとしないのか? ぐだぐだお喋りをし、悠長に喧嘩なんかしてるから「あと15分で死にます」とか言う事になってしまうわけだ。魔術師君は主人公に対し、「その子を助けに来た。そんなつもりはなかったのだが、深手を負わせてしまった。今すぐ我々の方で手当てをしたいから、そこをどいてくれ」と説得するべきだろう。


もちろん主人公の上条さんはすぐには信用せず、多少の問答は必要になる。だが、基本的にいい人である上条さんの事だから、「じゃあ病院に運び、それで処置できそうにないとなったら我々のやり方で治療させてもらうぞ」くらいの条件で折れてくれるだろう。


本当にインデックスを助けたいなら、一時も無駄に出来ない状況だったはずだ。ではなぜあんな展開になったのかと言えば、私の予想では、魔術による回復の儀式の場面を書きたかったから。本編では、瀕死のインデックスが、魔術によって一命を取り留めるシーンに続く。これが書きたいがために、魔術師君がおかしな人になってしまったのではないかと見ている。


3,まおゆう魔王勇者


私はこの作品の原作は好きだ。全部読んだ。おもしろかった。これもネタバレありなので、見たくない人はぷりーず、ぶらうざばっく。


しかし、アニメ版には不満がある。それは最終回のある部分。魔界に帰還した魔王に歓声を送る住民に対して、黒騎士となった勇者がデモンストレーションを行った。原作では、城の塔を吹き飛ばした(と記憶してます)のが、アニメでは山を消し去るように改変されていた。


確かに、あの作品の勇者もチートキャラではある。とにかく、作中で無敵状態の強さを誇ってはいる。しかし、無益な殺生をするような人物としては描かれていなかった。にもかかわらず、勇者は魔界の生き物が生息していてもおかしくない自然を吹き飛ばした。その一撃で、どれだけの生き物が死んだだろうか? 死なないとしても、縄張りを失い、生息地を失う生き物がいることが考えられないだろうか?


あの魔王も勇者も、そういうことに気を遣わないようなキャラクターとは思えない。魔界の動物、魔物だろ? だったらいくら殺したっていーじゃん、なんてことは言わないはずだ。


4,本論


とりあえず、以上三作品を例として挙げた。似たような例は、もっといくらでもあると思う。


私がここで取り上げたいのは、「創作物のキャラクター達が、行動の根源としての心を持っていない」ということだ。ある場面、ある現象、ある行動、印象的な描写をするという制作者の都合で、キャラクターが動かされている。私はそういうのが好きではない。


私はご都合主義には二種類あると考えている。「行動や結果としてのご都合主義」と「心のご都合主義」だ。


出かけた先で、偶然犯人と出会いました。なんてことは、相棒にもあっただろう。なぜかちょうどヒントになる場面が写真に写ってました、機関銃乱射してるけど重要人物には当たりません。そういうご都合主義も、あまり好きではないが、まだ許せる。


しかし、キャラクターが本来するはずのない行動をさせられることによって成立する物語というのは、どうしても気にくわない。作者といえども、神といえども、人の心を操ってはならないという思いがある。


私はそこまでリアル重視ではない。もともとロードス島戦記の時期から、ファンタジー小説に触れていた部類の人間だ。だから、非現実的な現象の物語に拒否感はない。しかし、世界の構成がファンタジーなのと、人の心がご都合主義なのは違う。


私は信じている。どれほど荒唐無稽で、非現実的な世界の中であろうとも、人間のリアルな心の動きを描くことが出来るはずだと。あり得ないものに触れた人間を、現実的に描写することは妨げられない。


だから私は創作物に、創作活動をする人に、心を大事にしてほしいと願っている。その世界の人にとって、それにどんな意味があるのか。それに対する態度としてどれが相応しいのか。記号としてではなく、その場その場のその人の気持ちを考えながら書いてほしい。


世の中にトリガーハッピーな人がいないとは言わない。猟奇殺人者も実在する。しかし、ごく少数派だ。そうなるには、そうなるだけの理由があるのが通常だ。


私は時代劇が好きで、昔はずいぶん見たものだが、悪党にも種類があった。「火付け押し込み何でもやる」やつと「あっしは殺しはしねえんで」というやつ。


キャラクターの心が、キャラクターを行動させる。だからもし、極端な行動をする人間がいるとすれば、それは極端な心を持っているからということになる。本当にその人はそんな心を持っているのか、どうしてそんな心を持つに至ったのか、そのあたりを考えてほしい。


さもなければ、創作物はどこまでもグロテスクな化け物に変わり果てるだろう。今回例に挙げた三作なんかは、そこまでグロテスクというほどではないかもしれない。だが、この傾向を研ぎ澄ましていけば、間違いなく吐き気を催す狂気に至る。


なお、自分はどうなのかと問われるかもしれない。


私もここしばらくこのサイトで連載小説を投稿しているが、そこにこういったご都合主義が全く含まれていないとは言い切れない。自分でも気づかないうちに、紛れ込んでしまっているかもしれない。そのときは、私はそれを解消したいと思うだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] たまたまこの作品を見つけて読ませて頂きました。 とても同意です。ありふれた話だろうと、突飛な設定の話であろうとも良作と駄作の分岐点はそこにあると考えています。 何故、その人物が、その行動を…
[良い点] なるほどと考えさせられるお話でした。 [気になる点]  自分も最近、作品を書き始めたのですがなかなか難しい部分だなと思います。  書いてるときは辻褄があっているようでも、読み返してみると…
[一言] 全くもって、同意見です。 創作上のキャラクターであろうと人間という設定である以上、人として当たり前の心理を辻褄も合わせずねじ曲げるのは違和感しか生みませんね。 この違和感を逆に人間のようで人…
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