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行きと同じ、中国の飛行機で帰国する。
往路では気に入らなかった内装も機内食も、中国の環境に多少慣れたからなのか、さほど気にならなかった。
成田に着陸して、飛行機を降りた時の外の空気は清々しく感じた。
じとっとまとわりつく日本の夏の空気を快適と思ったことはないのだが、やはり、自国の空気が一番肌に合うのだ。
国内に入ったので、携帯のメールをチェックしたところ、中国にいる間に受信していなかったメールが大量に受信された。
ほとんどがメルマガなのが少々さみしい。
祐子からの返信もあった。
部屋を片づけるから迎えには行かないという内容だった。
出迎えにでも来て、ちょっとくらい機嫌をとろうとか、すぐにでも仲直りのきっかけを作ろうとかは特に思わなかったようだ。
期待もしていなかったが、ちょっとがっくりだ。
空港を出て、足早に駅に向かっていると、
「丸山さん!」
と俺を呼び止める女性の声がした。
声のしたほうに振り向くと、そこにいたのは角谷さんだった。
出口の付近からしばらく俺を追いかけていたのか、少し息があがっている。
俺は彼女にきょとんとした表情を向けた。
「まさか成田で会うとは思わなかった。誰かの出迎え?」
彼女はそれに、曖昧にうなずく。
「出迎えというか……。丸山さんを、待ってたんです」
は? なぜ俺を?
「私、丸山さんのケータイのメルアドとか番号とか聞くのすっかり忘れてて。せっかく仲良くなれたのに、このままじゃまったく連絡がとれなくなるかもしれないから……。会うなら今日がチャンスだと思ったんです」
「だからって……わざわざ静岡から成田まで?」
角谷さんは今度はしっかりうなずいた。
その必死の表情に、驚きと同時に嬉しいという感情が込みあげる。
角谷さんはおもむろに携帯を取り出した。
「教えてもらっても、いいですか?」
この状況で断れるわけがないだろう。
俺はくすくすと笑いながら、いいよ、と番号とアドレスを赤外線通信で送った。
「同じ会社なんだから、社内メールのアドレスや内線を検索すればよかったじゃないか」なんて、野暮なことは言わないことにしよう。
完
2009/06
最後までお読み頂きまして、ありがとうございました!
この作品は2009年に書いたもので、今から考えると色々古さを感じると思います。
中国の通貨、元のレートもその当時のものです。物価もだいぶ変わっているかもしれません。
現在と違う所、色々あるかとは思いますが、その当時の感覚を楽しんでいただけたらと思います。
一応言っておくと、フィクションです。