虎!トラ!寅!
少し走ると薄黄色い半球状のたぶんバリアかな? の中に杖を持つ、20代ぐらいの険しい表情のシスターローブ姿の女性とそれに寄りそう不安そうな年中から年長ぐらいの3人の子供姿。
さらにその外から前足でバリアを強く叩いている大きな四足歩行生物が見えてきた。咆哮が結構大きな音で聞こえていたので割と近かったみたい。
よく見ると虎に近い色の生物のようだが爪と牙が長く体格も一回りは大きい。ここまでは普通だが、手と足の部分に赤黒いライン模様が走っていて点滅している。生物の持つ模様とは思えない気味の悪さだ。
とりあえずシスターさんに声をかけてみよう。どう見ても劣勢だし助けないと、私はそれができるだけの力を持ってるはずだし見捨てることなんてできない。
「助けが必要?」
「ッ!? あなた! 逃げなさい! Cランクの魔物よ!」
この状況でも私の心配をしてくれるとはいい人だけど、悲しいかな今ので赤黒の虎はバリアを殴るのをやめて私の方を向いてしまったよ。でもそれでいい、バリアはもうヒビがかなり入ってしまっているから。
剣を構えながら私はそんなことを頭の隅で考えながら赤黒の虎と対峙する。不思議とそんなに焦りとか恐怖はない、VRゲームではもっと大きく迫力のあるドラゴンも倒したりした、それと比べるのはかわいそうか。
「逃がしてくれないみたいよ? 特徴とか弱点はないの?」
「くっ……爪と噛みつきには気を付けてください!」
「なるほ……おっと!」
少しの会話を交わしていると虎が右前足を振り上げて突っ込んできたので左に横っ飛びしながら回避する。
弓を収納したのは間違いだった、近接しかできないじゃないか。ゲームだったら魔力(MP)を消費して剣もスキルを放てたっけ。
私は矢を作ったときの要領で魔力を練ると、ほんのり温かい流れを右手の剣まで持ってくることができた。剣が青白く光っている。
出来る! スキルを出すことが! そんな確信と共に少し腰を落とし居合の構えで敵を待つ……来た!
虎がまた突進してくる、次は噛みつきなのだろう口大きく開けていて4本の足をフルに使っているので先ほどよりも鋭く速い。
私は一歩、いや半歩ほどずれた斜め右前に飛び出す。これでは虎が首を回せばまだ噛みつかれる位置移動だが虎の体は当たらない、それで十分だった。
「せいやぁぁぁぁぁッ!!!」
大声と共に放たれる、視認不可能な神速の切り上げと切り下げの2連撃……虎は首と胴体を真っ二つに切り裂かれ突進の勢いのまま地面に転がり落ちた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はぁ~、ぶっつけ本番だけどなんとかなった……」
溜息を吐きながら私はへたり込んだ。弓矢の時はそもそもスキルは使用しなかったし、アレはただの通常攻撃だった。
ただ剣はそうもいかない、ペチペチ殴ってたらいつまでかかるかわからないし、私も近接戦闘をするには現時点では体力はわからないが少なくとも精神が持たない。
「すみません! だ、大丈夫でしたか!? お怪我はありませんか!」「お姉ちゃん変なの目につけてるけどすごいね!!」
「大丈夫、それより何があったのか教えてほしい……かな。あと、変なのは余計だ!」
シスターさんが駆け寄って来てくれて、ペタペタ触って体に怪我がないか見てくれているが、それよりも状況が知りたかったので、子供達の無慈悲な言葉もある程度無視しつつ早急に話を聞くことにした。
シスターさん、名前はディーナさんらしい。そのディーナさん曰く、現役冒険者でもある自分が護衛について孤児院の子供たちと出稼ぎに薬草採取をしていたらしい。「まぁ、そんなに私は強くないんですけど」とのこと。
そしたらいきなりCランククラスのサーベルタイガー、しかも悪魔付きに襲われたと。悪魔付きっていうのは、あの赤黒い点滅するライン模様がある変異種の魔物のことを示すらしい。確かに気味が悪かったし、これが女神様の言っていたバグだと思う。
この初心者の森でサーベルタイガーが出るのは異常なことだそうで、このあとは冒険者ギルドに報告に行くらしい。危険があるとなると調査隊を組んで原因を探る必要性があり、街まで子供たちの護衛とギルドへの報告も兼ねて一緒に帰ることにした。
インベントリにサーベルタイガーの死体を入れると「収納魔法ですか!」と少し驚かれた。1000人に一人とかが習得できるちょっと珍しい魔法だそうな。魔力量で物の入る容量が変わるらしいく人それぞれ異なるんだって。
まぁ、インベントリなので収納魔法ではないと思うが適当に話を合わせてごまかしておいた。
「さて、帰りますか」
私とディーナさんと子供3人のゆかいな仲間たちは帰路につくのだった。