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魔物使いはめんどくさがりながらも相棒と異世界で生きていく  作者: 千歳
2章~仲間集め編とも言う~
36/42

ラパーム南区6

前話に致命的なミスがありましたので訂正を

ノーラ→レーナです。

その他誤字などあればお手数ですが感想で御指摘頂けるとありがたいです。


 レーナと名乗る女は胸を誇張しつつしすぎないように張る。

 彼女の態度は自分のことを知っているでしょと言わんばかりだ。

 周辺の人々もざわついている。

 

 (レーナ、レーナ、レーナ。どっかで聞いたことあるような。止まり木館にはそんな名前はなかったような。泉のほとり亭には…いや、なかったはず)

 

 慎二の知っているエルフは皆娼婦だ。少なくとも今まで見たエルフは全員そうであった。

 エルフは亜人の中ではかなり優遇されている。

 理由は単純にして明解。見た目が良いからだ。

 娼婦であることを受け入れるならば、外見を維持するために良質な食事と衛生的な生活環境、店によっては多少の娯楽も認められているとか。体を酷使するような労働をさせられることもない。

 これは並の平民よりもいい生活と言えるだろう。もちろん、選択の自由がないし、展望もないのでどちらが良いかは一概に言えないが。

 ちなみに彼女達、あるいは彼らには見た目以外にも娼婦、男娼として重宝されている理由がある。

 それは受精率の低さ。長命なためかエルフという種族は繁殖能力が弱い。

 そのため、他の種族よりもいろいろ出来るというわけだ。

 当然可能性は0ではないし、衛生面の問題もあるためエルフを扱う娼館は例外なく高く、ほとんどが一見さんお断りの紹介制。慎二も白金に上がった際にヴァレンから紹介を受けた。

 そうして幾度かエルフの店にも訪ねたわけであるが、レーナという名前に覚えはない。

 目の前のレーナの顔も見たことがない。

 

「あなた、もしかして私のこと知らない?」

 

 レーナはここまでで1番の驚きの表情を見せる。

 

「こんな野蛮なエルフは知らん」

 

 娼館のエルフ達は皆清楚で、謙虚だった。

 それは奴隷という立場と、娼婦としての教育の結果かもしれないが、慎二の中でのエルフ像はガラガラと音をたてて壊れていく。

 

「あぁ、やっぱあの呑んだくれとこのやつね。あの子達からは紳士だって聞いてたんだけど。はぁ、やだやだ」

 

「あんなのと一緒にしないでくれ。俺はそこまで酒は飲まない。で、どこのレーナだよ」

 

 ヤドルと一緒にされるのはさすがに心外だ。

 マスターとしてや魔物使いとしてはともかく、大人として、社会人としてのヤドルは真性のクズだと慎二は思っている。

 

「別に知らないならいいわ」

 

(なんだこいつ。自分が知らないのかって聞いたんだろうが)

 

「ま、顔は見れたし、面白いものも見つけたし、今日のところは十分ね」

 

 レーナは慎二を一瞥した後、フェンを凝視する。

 まるで玩具を見つけた目。

 今にも舌嘗めずりをせんばかりだ。

 

「もう少しその子と遊びたいけど…さすがに無理ね。じゃ、」

 

 そう言い残し、レーナは暗い路地へと消えていった。

 慎二は探知範囲を出るまで路地を睨み続けた。

 背を見せるのが単純に怖かった。

 それだけの力を感じたのだ。

 レーナの目的は言葉通り顔を見に来たのだろう。

 自慢気に自分の名前を言ったこと、周辺がざわついたことからも彼女は有名人であることは間違いない。

 再度襲うつもりなら顔を晒すわけがない。

 つまり、敵ではない。

 がしかし、味方でもない。

 話がまともに通じないのもそうだが、なによりフェンを見るあの目。

 無邪気さと残虐さが混じっていた。

 玩具をばらばらにして調べてみたい。

 そんな目だった。

 

「ったく、ノクシーなんか可愛いもんだな」

 

 ノクシーもなかなか頭のネジが緩いが、レーナはネジが外れていそうだ。

 ともかく、慎二は忘れないうちに頭の隅にメモをする。

 魔術師の女はヤバい、と。

 

 

                  ◇◇◇

 

「聞いた以上だったわね」

 

 レーナはギルドに戻ると自慢の安楽椅子に腰をかける。

 

 彼女は娼婦のエルフ達と"お友達"だ。

 彼女個人としてはさして興味はないが、ギルドマスターとしては持っている情報は多いに限る。

 だから、娼館に訪れる者の情報を密かに流してもらっているのだ。

 当然彼女達から慎二の話はいろいろと聞いていた。

 紳士的な少年だとかテクはそこまで上手くないとか無駄な筋肉がないとかいろいろだ。

 そういった情報を加味して慎二の実力を予想していたのだが、彼はそれを上回っていたというのがレーナの感想だ。

 

 レーナが座ると彼女の秘書であるガーベラがレーナお気に入りのミントティーを差し出した。

 特有の香りがするそれに口をつけた。

 ガーベラが魔術でレーナの好む温度にして出してくれているので、猫舌のレーナでも冷めるのを待つ必要はない。


「はぁ、落ち着くわ」

 

 魔術師というのは実践派探求派問わず、魔術一筋な人間ばかりだ。

 当のレーナがまさにそうだ。

 こういった気配りの出来る者は稀有。

 自分が出来ないからこそレーナはガーベラを高く評価し、重用している。

 

「まさかあんなに早くばれるなんてね。どこが悪かったのかしら?」

 

 光魔術で外見も偽装した。

 風魔術で音も不自然にならないように消した。

 狼種がいることも想定して臭いにも気を配った。

 それ以外にも思いつく探知能力に対処したつもりだ。

 

「自信無くしちゃうわ」

 

 彼女の計算では慎二の拠点としている宿まで着いていき、尾行のついでに久しく見ていない顔も拝みに行こうと思っていたのだ。

 無論彼女は魔術師(マジシャン)であり、斥候(スカウト)でも暗殺者(アサシン)でもない。

 出来るだけのことをしても専門の人間からすれば穴はあったかもしれない。

 レーナは自信家ではあってもうぬぼれ屋ではない。

 自分の対応に不備があることも計算したつもりだ。

 しかし、結果は計算と大幅な差が出た。

 顔にこそ出さなかったが、ばれた時も、〈土柱〉を避けられた時もレーナは心底驚いていたのだ。

 顔芸などギルドマスターという研究をするための地位に必要だったから身に付けただけだが、どこで何が役に立つかわからないものだ。

 

「なかなかの人物のようですね」

 

 レーナが人の話をすることなどめったにない。

 彼女が噂の人物を観察しに出かけたことは初めてではない。

 自分の目で確認する。それが彼女のモットーだからだ。

 ただ、いつもであればふらりと出かけては涼しい顔で帰ってきて、何も言わずに自分の研究かマスターとしての業務に戻る。

 つまり、観察した結果、興味を失ってしまうのだ。

 それが今回は話題にするどころか褒めている。

 今回は事情があるとはいえ、ガーベラにとってそれだけで慎二が一門(ひとかど)の人物ではないと判断するに十分な材料だ。

 

「ま、そこそこやるわ。少なくともそこらのいきがった魔鉱級(ポンコツ)ではないわね」

 

 これにはガーベラも苦笑いをするしかない。

 まだ上があるとはいえ、世間的に見ればダマスカスに到達する者は十二分に超人だ。

 それをポンコツ呼ばわり出来る人間は世界にどれだけいるだろうか。

 ただ、ガーベラにとって重要なのはそこではない。

 レーナのいう"そこそこ"が並大抵のものではないと知っているからだ。

 

「あのシンジって男、話ながらずっと私の様子を窺ってたわ。私が指1本動かせば魔術を発動出来るからそれに反応出来るようにね。正直攻撃しても傷をつけられたかは微妙だわ。魔力の動きからして[身体強化]も持ってそうだったし。まぁ、そんなことする気はさらさらなかったけど」

 

 倫理などレーナには無縁であるが、ラパームで魔術の研究を続けるためにもあまり火種となるようなことはしたくない。

 それが慎二達にあれ以上ちょっかいを出さなかった理由だ。

 人族至上主義国家であるため、当然といえば当然であるが、レーナがラパームでギルドマスターをしていることを良く思っていない者も多い。

 幾人かの貴族は魔術師ギルドの手前表では言わないが、裏ではレーナに文字通り首輪をしろとダーグに言ってい者もいることは知っている。

 それに対してダーグはこう返している。

 自分がしっかり監視しているから大丈夫だ、と。

 暗に自分の領のことに口を挟むなと言っているのだ。

 だが、彼女が問題を起こせばダーグ本人の感情はともかく、ガンタルシア王国伯爵として亜人である彼女を無罪放免とは出来ないだろう。

 それくらいはレーナにも理解出来る。

 それに…

 

 レーナは適度に冷めたミントティーに目を落とす。

 こうして勝手にお茶の出てくるギルドマスターとしての生活も存外悪くないと思っている。

 執着はしないが、ちょっとちょっかいを出すためだけに捨てるには惜しい。

 ただ、ちょっかいを出したい気持ちがなくなったわけではない。

 慎二もそうだが、それ以上に興味深い物を見つけたからだ。

 

「それにしてもあの従魔の狼、興味深いわね。あの毛色。知性を宿した瞳。調べてみたいわ。確か神獣にもあんな色の狼種がいたような…人族の文献には太古の種族に関するものが少ないのよね。あの閉鎖的(くそったれ)な故郷の知識が欲しくなるとは思わなかったわ。あぁ、もどかしいわ。書庫をほじくりかえせばなんか見つかるかしら」

 

「マスター!」

 

 まずいと思い、ガーベラは声を張り上げる。

 このまま放っておくとレーナは本の海に潜り、当分戻ってこない。

 長年の経験がそう言っている。

 いつもならば止めはしないが、今回はそれよりも優先しなければならないことがある。

 レーナの視線が自分に向いたことを感じ、ガーベラは言葉を続ける。

 

「あの件との関わりはありそうでしたか?」

 

 あの件とは言うまでもなく先日のオーガゾンビの件だ。

 レーナにはダーグからの要請で慎二が禁呪に使用した形跡がないか接触して調べてほしいという依頼が来ていた。

 従魔に興味を持つのは結構だが、領主直々の依頼を棚上げにされてはギルドとしてはたまったものではない。

 禁呪の知識がどこから出ているのかはレーナも説明したがレザーノはそれでも慎二を疑っている様子だった。

 ダーグはそれに対しての配慮も含め、万が一の可能性はあると思い、レーナに話を持ってきたのだろう。

 

「あぁ、それね。彼は白。少なくとも彼自身が魔石をいじった可能性は0」

 

 魔術師は訓練の過程で魔力に対する感覚が鋭くなる。

 中でもラパーム一の魔術師であり、魔力に親和性の高いエルフであるレーナの感覚は断トツだ。

 レーナ程になれば魔力の些細な動きからその癖まで読み取ることが出来る。

 戦士であれば無意識に武器を持っている手に魔力が集中するなどがそれだ。

 

「確かに魔力の動きに無駄がなかったわ。一朝一夕であの域には到達出来ないでしょうね。でも、あの動きは放出を前提としてない。あの酔っぱらいが言ってた通り、魔術もほとんど使えないと思うわ。それに禁呪なんて超高度な術を使える術者が咄嗟に強化系統なんて使うと思う?ありえないわ。だから白。それが私の判断よ。伯爵にもそう伝えておいて」

 

 

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