表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 北 教之

夏にふさわしく、ちょっと怖いお話です。

<和子>

 

 この角ですか。その人が見つかったのは。

 

 うちのおばあちゃんが仲良くしてたんですか。その人の娘さんと?

 小さいお子さんでしょう?

 子供が好きでしたからね。散歩してて、通りすがりの子供を見かけると、すぐニコニコ声をかけてたから。

 お父さんがそんなことになってねぇ、気の毒だったねぇ。その娘さん。

 

 おばあちゃんは、亡くなりました。つい先日です。

 いや、お悔やみ言われるような年じゃないですよ。94歳でしたから。

 もうね、このまま死なないんじゃないかって思ってたからねぇ。亡くなった時は、悲しいっていうより、ちょっと驚いたわね。

 そりゃ、人間だからね、いつかは死ぬんだけども。

 90歳過ぎた老人ってね、生きてる状態でも、半分死んでるみたいな感じじゃない?

 もう身体も心も、半分はあの世に行ってる感じだからね。今さら、亡くなりました、なんて言ってもねぇ。

 ちょいちょい遊びに行ってた隣町のお友達の家に、ずっとお邪魔することにしました、みたいな感じ?ははは。

 本当に、死ぬ間際までピンシャンしてました。

 予感があったのかもしれないけど、亡くなった日には、ぱたぱた、部屋の掃除とか自分でして、いつもに増して身の回りを小綺麗にしてね。

 翌朝、部屋に起こしに行ったら、冷たくなってた。

 大往生です。すごい人だったねぇ。

 

 あなたくらいの年の人から見れば、私もいいおばあちゃんでしょう?

 でもねぇ、大正生まれの人は、昭和生まれの私なんかとは出来が違う気がするね。

 なんていうかね、大量生産したモノと、職人さんが作ったモノ、くらい違う感覚があるね。

 おばあちゃんが死んだ時には、本当にそう思いましたよ。職人さんの作ったいい置物が天国に行っちゃった、みたいな。

 

 うちは古い家でね。このあたりがまだ野原だったころからずっと住んでる。

 私が子供の頃にはまだ畑もやってたけど、私がお婿さんもらって家を継いでからは、畑も手放しちゃった。

 子供の頃の村の面影はほとんど残ってません。この五叉路と、道祖神くらいかなぁ。

 この角の道祖神は、私が子供の頃からあるね。

 

 この道祖神を頂点にして、五本の道がここで交差してる。きれいな五叉路。

 ほら、右斜め前の、あの道の先はね、駅に通じる道だけど、昔は何もありませんでした。

 周りは畑ばっかりでね。この五叉路から、駅舎とか、鉄道を走る汽車の灯りが見えるくらい、見渡す限り何にもなかった。

 日が暮れてから、あっちの駅からこの村まで歩いて帰ってくるのは、なんだか怖かったですよ。街灯もほとんどないからねぇ。

 駅前からどんどん住宅街になって、旧村のこの周辺よりよっぽど洒落た街になったけど、昔は怖い道でした。

 

 この角でね、怖いことがあったって聞いたら、そりゃ確かにびっくりするけど、なんだかね、なるほど、と思っちゃうのよ。

 村の中でね、不思議なこととか、怖いことが起こっても、あそこなら、なるほどって思っちゃう場所って、あるでしょ?あそこなら、そういうことあるよね、って。

 幽霊屋敷みたいな建物とか、神社とかお寺とか、何か出ても不思議じゃないような場所ってね。

 この角もねぇ、そういう場所だと思うの。昔から。

 それこそ、おばあちゃんに聞いた話だけど。

 

 あの、駅に通じる道はね、村にとっても、怖い道だったそうですよ。

 旧街道から川沿いにあるこの村に向かって伸びた道。村と外の世界をつなぐ道。

 旧い村にとっては、外から来るものって、まずは恐ろしいものじゃないですか。

 なにか、村の平和を乱すかもしれないような。

 それでこの道祖神を作ってね。外から来るものから、村を守っていたんだと思いますよ。

 

 だからね、この角で、そんな不思議なことが起こったって聞いても、私は驚きませんでしたねぇ。

 なるほどなぁ、って、なんだか得心してしまった。

 今みたいに色々と便利になってね、不思議なこととか、あんまりみんな信じなくなった世の中でもね、私くらいの年ごろの人間はまだ信じてますよ。

 何かしら、目に見えないけど、そこにあるものってね。

 たぶん、その人は、そういうものに取りつかれたんでしょう。

 気の毒といえば気の毒だけど、取りつかれるってことは何かしら、理由もあったんじゃないのかしらね。

 そう思いますけどね。

 

 それこそ、うちのばあちゃんだってね、今でも、この道祖神のそばにニコニコ立って、村の子供たちを守ってるのかもしれないよねぇ。

 今でも、なんだか信じられないんですよ。あのおばあちゃんがもうこの世にいないんだってね。

 そういう不思議なことがあったって聞かされるとなおさらね。

 そう思いたいだけなのかもしれませんけどね。

 

<康子>

 

 この角ね。あの人が見つかったのは。

 

 警察から連絡があったの。事前に相談もしてたから。身元が確認できてすぐに、連絡くれた。

 私たちの家に近寄ってもだめ、って、裁判所がいくら命令しても、地元の警察が把握してないと、禁止もできないでしょう?

 引っ越してきた時に、警察署に行って、事情を話して、あの人の名前とか、写真とかも渡して。

 思ったよりずっと親身に、色々相談に乗ってくれたわよ。定期パトロールのルートを変更して、毎日見回ってくれたり。

 でも、そういうの、限界があるから。

 結局、あの夜、あの人はここまで、もう少しで、私たちに手の届くところまで来たわけだし。

 近所の人とかに聞いたら、何度か下見に来てたこともあったらしい。

 

 優しい人だったのよ。

 付き合ってた頃も。結婚してからもずっと。

 美里が産まれてからも、ずっと、優しい父親だった。

 

 変わっちゃった原因って、思いつくような、思いつかないような。

 一つだけじゃないと思うの。

 ちょっとした毎日の会話とか、生活の中のちょっとしたことの積み重ね。

 部屋の電気を消し忘れた、とか、携帯に電話しても出なかった、とか。

 こうあるべきなのに、そうなっていない。こうなるはずなのに、そうならない。小さな苛立ち。そういうことの積み重ね。

 自分たちにはどうしようもないこともある。

 出かける予定が雨で中止になったり、急に美里が熱を出したり。

 人生で、思うように行かないことって、たくさんあるじゃない?

 コップに、ぽたぽたしずくが垂れて、だんだん水がたまっていくみたいに。

 そういう日々のきしみや、ずれがたまっていく。

 そして、最後の一しずくで、それが一気にあふれる。

 

 あふれないで、溜めこまないで、うまく吐き出す人もいるし、

 そもそもそんなしずくがこぼれてこない人もいる。

 でも、あの人はそうじゃなかった。

 優しい顔の奥で、ゆるゆるとどす黒いものが溜まっていった。

 そしてある時弾けた。

 弾けてしまったら、一線を越えてしまったら、それはすぐに日常になった。

 

 初めて殴られた時のことは、よく覚えてる。

 私が友達と久しぶりに会う約束をしていて、あの人に美里のお迎えを頼んだ。

 あの人は、いいよって引き受けてくれたのに、きれいさっぱり忘れてしまって、いつものように残業して、いつものように外で晩御飯を食べて、ビール飲んで夜遅くに帰ってきた。

 幼稚園から私の携帯に電話があって、私が慌てて迎えに行った。

 私も頭にきて、帰ってきたあの人と口論になった。

 どうして忘れてたの、朝もちゃんと確かめたのに、いつだってこっちの言うこと話半分にしか聞いてないでしょ。

 いつもの不平や不満をぶつけて、あの人は謝り疲れて、不貞腐れて、分かったよ、悪かったよ、もううるさいよ、なんてぶつぶつ言いながら、自分の部屋に戻る。

 そういう、よくある小さな言い争いのはずだった。

 

 私の都合とか予定とか、いっつも無視するんだよね、と私が言った瞬間、彼の顔がどす黒くなった気がした。

 そこで気づくべきだったのかもしれない。でも、私は気づかなかった。

 この間も、と言いかけた瞬間に、左のこめかみに衝撃があった。

 身体ごと吹っ飛んだ。

 食卓にぶつかって、美里のお皿が床に飛んだ。割れなかったけど。

 左耳がキーンって鳴って、周りの音が遠くなった。

 美里の泣き声が、遠くに聞こえた。

 視界が朦朧とした。

 その視界の端で、食卓の上のお醤油差しが倒れて、お醤油がとくとく流れているのが見えた。

 その向こうに、あの人の顔が見えた。

 あの顔が忘れられない。今でも頭の中から消えない。

 多分一生消えないんだろう。ずっと私の心の傷になるんだと思う。

 

 美里の心の傷にもなってると思う。

 癒す方法なんかない。

 あの日から、あの人は、あらゆる種類の暴力を私に加えたし、美里がその場にいるかいないか、なんて頓着しなかった。

 あの人が、私から、人間としての尊厳を全て奪っていくのを、あの子はすぐそばで見ていた。

 今でもカウンセリングは受けてるけどね。二人とも。

 傷を完全に消すことはやっぱり無理で、なんとかそれとうまく付き合っていくしかないって、カウンセラーさんも言ってる。

 

 あの人がここでどんな目に会ったか、あの子には知らせてない。

 でも、いつか伝えないと、とは思ってる。

 伝えたところで、あの子の心の傷は癒えないけどね。

 でも、少しは安心させてあげられるかもって思う。

 あの人が、私を殴ることは、もう二度とない。

 あの人はもう、誰かを殴ることなんか、二度とできないんだって。

 

<志垣巡査>

 

 この角で、当人を発見しました。

 

 午前2時55分でした。

 

 ほぼ全力疾走状態でした。相当疲労している様子でしたので、少なくとも2~3時間以上、走り続けていたのでは、と想像します。

 身体上の疲労だけでなく、精神的にも半ば錯乱状態であったと言えると思います。

 当方からの呼びかけには反応しました。当方が警官であることも認識しました。

 事前に届け出のあった人物であることも、その場で確認できましたので、すぐに確保しようと思いました。

 ですが、錯乱状態と、言動に危険な要素があったので、一旦解放し、本官はそばに待機して、応援を要請しました。

 反復行動をひたすら続けているだけでしたので、逃亡の危険はないと判断しました。

 

 反復行動の目的は分かりません。当人は、接近禁止命令の出ている元配偶者の家に行こうとしている、と明言していましたが、反復行動自体はその目的に沿っているとは思えませんでした。

 反復行動の詳細については、添付の図で説明しております。

 

 上岩原一丁目の五叉路の中を、全速力で、ひたすら移動し続ける、というものです。

 移動のパターンも決まっておりまして、この角にある道祖神を頂点として、五つの角を、一筆書きの星の形にひたすら移動する、という動きです。

 

 ・・・五芒星、というのでしょうか。

 

 応援が来着し、二人がかりで確保いたしました。かなり激しく抵抗しましたが、五叉路の外に連れ出した途端に、失神状態に陥りました。特に本官と応援者で強い外力を加えた経緯はありません。身体を確保した状態で、五叉路の外に引きずるように移動させただけです。

 救急車が到着する前に、覚醒はしましたが、意識状態は本日現在、低レベルで推移しています。

 

 ・・・ほぼ廃人、と言っていいと思います。

 

<美里>

 

 この角に、パパがいた。

 

 ママには言えなかった。怖くて。

 パパは、私に向かって、にっこりして、おいでおいでって、手を振った。

 

 走って逃げても、きっとつかまる。

 私がつかまったら、ママもつかまる。

 そしてまた、パパはママを殴る。

 すごい大声で怒鳴ったり、殴ったり蹴ったり、物を投げつけたり、死ねとか殺すとか、言い続ける。

 

 パパの方を見たまま、じっと立っていた。

 パパはまた、にっこりして、おいでおいでって、手を振った。

 そして、一歩、こっちに向かって近づいた。

 もう逃げられないと思った。

 またママが殴られると思った。今度こそママは殺されるかも、と思った。

 神様助けてってお祈りした。

 

 パパは、そのままじっと私を見ていた。

 そうして、にやっとして、振り返って、駅に向かって歩いていった。

 また来るよって、言ってる気がした。

 

 おまじないは、そのあとすぐにやった。

 

 その晩は、お祈りしながら、眠った。

 朝起きたら、おねしょしちゃってて、ママにすごく怒られたけど、パパのことは、ママには言わなかった。

 今でも言ってない。

 おまじないのことも、言ってないし、おばあちゃんのことも、言ってない。

 

<芳子>

 

 この角に、あの子がいたんですよ。

 

 他の大人が見たら、子供がなんか不思議な遊びをしてる、と思ったでしょう。

 でも、私には分かりました。

 だって、私が教えたんですから。

 えらいことになった、と思いました。

 あの子も真っ青な顔をしてたけど、私も血の気が引きました。

 

 おまじないってのはね、何かしら犠牲を伴うものなんです。

 そんなに都合よく、神様が、はいはいって言うこと聞いてくれるわけはない。

 何かを神様にお願いするには、何かを神様に差し上げなきゃいけない。

 あの子に私が教えたのは、そういうおまじないでした。

 効き目は確かだけど、犠牲も大きい。危険なおまじないです。

 

 私は息を詰めて、私が教えた通りに五叉路の中を歩いている、あの子を見ていました。

 この角から始める。この道祖神を背中にして、駅に通じる道に向かって歩く。

 呪文を唱えながら歩く。

 角に着いたら、次は、あそこの、駐車場の角に向かって歩く。

 次は、あっちの、工務店の看板のある角。そうして、あそこの生垣のある角。

 そして、この角に戻ってくる。

 一筆書きの星の形。

 私にこのおまじないを教えてくれた母は、セーマンさまって言ってましたね。

 セーマンさまの星形を描くんだって。

 

 どうして止めなかったかって?

 止めちゃいけないんです。おまじないを途中で誰かが止めると、もっと危ないことが起きる。

 始めてしまったら、続けるしかない。終わるまで、見届けるしかない。

 呪文を間違えてほしい、と思いましたね。それか、順序を間違えるとか。

 それなら、おまじないは効かないし、神様も罰を与えたりしない。大目に見てくれる。

 小さな子供のやることだから、最後までやりきるのは難しい。

 そこにちょっと希望を持ったんですけどね。

 

 なんで教えちゃったのか、と後悔しました。

 そんな危ないおまじないを、こんな小さな子に教えてしまうなんて。なんて馬鹿なことしたんだろうって。

 小さな子には、人の命や、自分の命の重さって、今一つ理解できないじゃないですか。

 自分の命を犠牲にしてでも、守りたいものがある時、そんな大事な時にだけ、使うおまじないだ、って言ったって、中々分かってくれない。

 そんな馬鹿な、と思うような、くだらないものに自分の命を賭けてしまう。

 若いっていうのはそういうこと。

 

 私もこんな年になってね。自分の知ってることを、誰かに伝えておかないとって思っちゃったんですかね。

 あの子とお話をしてるとね、なんだかそういう気分になっちゃったんです。

 あの子が背負ってるものが見えたんでしょうかね。

 並みの大人が想像もつかないような、重たいものを背負ってましたよ。あの子は。

 何かしら、自分や、自分にとって大事なものを守る術を、この子に伝えてあげなければ、と思っちゃったんですね。

 

 あの子は二巡目に入ってました。セーマンさまの星形を二回、呪文を唱えながら描く。

 間違えてくれ、間違えてくれ、と念じながら見てました。

 でもあの子は間違えなかった。口の中で唱えている呪文も、一言一句間違ってない。

 この子はやり切る。そう思いましたね。この子の覚悟は本物だ。

 そして腹が立ちました。猛烈に。こんな小さな子を、そこまで追い詰めたものに。

 

 あの子は戻ってきました。この角に。

 私がいることに、かなり前から気づいていたみたいでした。

 二巡目の星形を描ききって、あの子は私の前に立ちました。

 私の顔をまっすぐに見て、真っ白に透き通った唇を開きました。

 間違えてくれ、と祈りました。最後の呪文を、間違えてくれ。

 

 「セーマンさまにもうす。わたしのいのちさしあげます。」

 

 言うなり、あの子は棒みたいに突っ立ったまま、顔をゆがめて、ぎゃんぎゃん泣き出しました。

 私が両手を広げて迎えると、この胸の中にすがりついて、全身震わせて大声で泣きました。

 ああ、この子は何もかも了解している。自分のやったこと。

 そこまでして、自分の命投げ出してでも、この子は大切なものを守ろうと思ったんだ。

 こんなに小さい子が、大人に助けを求めることもなく、自分一人でやり切った。

 

 それで、決心がついたんです。

 もう私は十分に生きた。

 あっちの世界のことも、時々見えて、よく知ってる。

 こっちの世界に未練もない。

 だったら、この子の覚悟に付き合ってあげよう。

 この子の将来を、あっちの世界から見守ってあげよう。

 

 私は、泣きじゃくっているあの子の背中をとんとん叩きながら、言ったんです。

 「セーマンさまに申す。この子の命の代わりに、私の命を差し上げましょう。」

 

 すうっと身体から力が抜けました。

 なんだか心地よい脱力感でした。

 ああ、私はもうすぐ死ぬんだな、と思いました。

 ひどくいい気分でしたね。なんだか、やりきったな、生き切ったな、という感じ。

 

 あの子は私を見上げました。

 私のやったことの意味を悟ったんだと思います。

 またぼろぼろ涙をこぼしました。

 私はにっこり微笑み返しました。

 

 神様ってのは気が利いててね。その日の夜まで、私に時間をくれました。

 部屋掃除したり、いろいろ準備をして、さて、今晩眠ったら、いよいよあの世に行くんだね、と思いながら、身支度をして、お布団に入って、気が付いたら、死んでましたねぇ。

 

 まだ私はあっちの世界では新米なんでね。

 こうやって時々、こっちの世界に遊びに来ます。

 道祖神さんがいるこの角とか、出入口になってるから来やすくてね、よく来ます。

 あなたも、私が見えるくらいだから、私みたいに、あっちから遊びに来てる人とか、色々、普通の人が見えないものが見えるんでしょう?

 だったら、あれが見えますかね。

 

 あの男の魂です。

 この五叉路の中の結界に封じ込まれたんですね。

 身体は魂が抜けて、ただの抜け殻になっちゃった。

 でも、魂だけになっても、ああやって、髪振り乱して、泣き喚きながら、ずっと走り続けてます。

 永遠に、セーマン様の星形をたどって、走り続ける。

 同じように封じ込まれた怨霊たちに追われて、いつまでたってもたどり着けない目的地に向かって。

 自分がもともと何者だったのか、という記憶も、もとの姿も忘れ果ててしまっても、それでもずっと。

 

 さて、そろそろあっちに戻りますかね。

 だんだん、こっちに来るのが大儀になってくるんです。あっちの方が居心地がいいものだから。

 いずれはこの道祖神さんの目から、時々、こっちの様子を覗くくらいしか、できなくなってくるんでしょうねぇ。

 こっちは色々辛いことも多いしねぇ。酷いこともたくさんあるから、生きていくってしんどいけど、でもね、神様っていると思いますよ。

 私が言うんだから、間違いない。あの子に会ったら、伝えてやってくださいな。

 おばあちゃんはあんたのおかげで、この角の神様になれたんだよって。

 

(了)

このお話のモデルになった五叉路は、我が家の近くにあります。このお話ほど綺麗な五叉路ではありませんが、古い村の道筋を残した奇妙な角で、なんだか空間が歪んだような不思議な雰囲気があります。このお話ほどではないにせよ、何かしら奇妙なことが起こっていても不思議ではないような、そんな角です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ