蕎麦
「女子高生?」
彼に腕を引かれ、お隣さんにお邪魔すると、私と同じくらいか少し低いくらいの身長の男の人がいた。彼は、私の顔をまじまじと覗き込んでくる。愉快ではなかったが、何をすることもできず、ただ見られるがままだった。すると、肩を少し引かれ、後ろへ下がった。
「佐藤君。君は、実に失礼な人だね」
「いや、でも先生。誘拐はどうかと思いますが」
「お隣さんだよ」
彼らの会話は、淡々と進んでいき、私はここにいて良いのかわからなくなってしまう。
「お隣さんとは失礼しました。私は、先生の付き人をしている佐藤と申します」
小さな彼は、そう名乗りながら、先生と呼ばれた彼の上着を受け取った。
「先生?」
思わず声に出してしまい、口に手を当てたが、彼はなんでもないように、なんでしょうと優しく答えてくれた。
「なんの?」
と聞くと、彼は、ないしょと言った。先生と呼ばれるなんて、小説家か漫画家か、大学の教授なんかしか思いつかなかったけれど、今日が過ぎればきっとかかわることもないだろうと早く時間が過ぎることを願っていた。
「佐藤。腹が減った。蕎麦早く」
彼は、私よりはるかに年上のはずだが、佐藤さんに話す様子はまるで子供だと感じた。佐藤さんは、適当に返事をしながら、キッチンへ向かう。
「あ、どうぞ」
思い出したように、佐藤さんは私を迎え入れてくれた。お邪魔しますと小さく言って靴を脱ぎ、そろえようと玄関に振り向くと先生の靴がどう脱いだのか想像ができないほど散らかっていて、思わずそれも揃えてしまった。
彼らが入っていった扉に入ると、大きなダイニングテーブルに椅子が6つ。そのほかは、段ボールが山積みになっているだけだった。
「すいませんね。まだ片づけている途中なのに」
佐藤さんは先生をちらっとみてため息をつきながら言った。私は思わずクスリと笑ってしまった。先生は、椅子に座って、なにやら聞いたこともない歌を歌っている。歌詞は蕎麦しか聞こえてこない。
「どうぞ」
佐藤さんは、蕎麦が盛られた皿をもってテーブルについた。私も椅子に座った。先生は、待ってましたとばかりに箸をつけ始める。蕎麦を半分つゆにつけるだけで食べていく彼は、噛んでいるのかと思うほどにするするとそばを口に運んでいく。
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