密会
学校に向かうのが苦痛に感じるのは今日が初めてではなかったが、今日は特別苦痛に感じた。誰にも言わないと言った彼女を信用するほど、関係を深めているわけでもない。校門をくぐり、校舎へと向かう間も心音は早くなるばかりで、足取りは重くなっていく。
「おはよう」
靴箱へ到着するや否や、すぐに声をかけられた。姿を見なくても彼女だと分かった。恐る恐る彼女に目を向けると、彼女は、私の手を握って、大丈夫と言った。
登校時間特有の喧騒にまみれた靴箱周辺であるのにも関わらず、彼女の小さな声ははっきりと聞こえた。
「二人だけの秘密ね」
彼女はそう言って、靴を履着かえに向かう。そして、私も急いで靴を履き替えて、彼女と共にいつも通り教室へと向かった。先ほどまでの不安はどこへいってしまったのか、彼女との会話は楽しく、教室までもすぐについてしまった。
机に鞄を置いて、いつも通り授業の準備をしていると、鞄から折りたたまれた紙が床に落ちた。
そこには、昼休みに図書館へ行くことが記されていた。誰が入れたのかもわからず、先ほど消えた不安がまたよみがえってくる。そんなことはないと自らに言い聞かせながら、授業に無理やりにでも集中するようにした。
望まなくとも、時間は流れて、昼休みを告げるチャイムが鳴り響く。
不安と緊張を抱えながら、図書館へ向かっていると、背中を軽くたたかれた。
「どこ行くの?」
昼休みに彼女と話すのは初めてなのかもしれない。よく考えれば、昨日、学校以外で話すのも初めてだったのかもしれない。
「図書館」
そう答えると彼女は、わたしもと言って、一緒に図書館へ向かった。
「この学校、無駄に本多いよね。図書室じゃなくて図書館だし、3階まであるし」
「私は、それで学校決めたから」
他愛もない話をしながら彼女と図書館へ向かう道は、昼休みを謳歌する女子高生であふれている。図書館に入ると、3年生だろうか、机に向かって問題集を説いている姿も見られる。彼女は、こっちと言って、学生がほとんど来ることのない本棚が並んでいる場所に向かった。
不安が大きくなる。
「呼んだのは、私だよ」
本棚と本棚の間で、明かりも少ない空間に、不安が募るのだが、なにか特別なことが起こるような気がして胸が高鳴るのも感じた。
「なんで?」
そういうと、彼女は、わかってるくせにとクスリと笑った。こんな彼女を見たことはなかった。彼女は、人気があって、完璧で……
「私ね、あなたのこと好きよ」
彼女は、私の方に向かい、耳元で呟いた。すぐ傍で感じる彼女の香りや声に、私の頭は考える力を奪われていった。
「協力してほしいの」
相変わらず彼女は、私の耳元で話す。私は、その状況からも早く脱したく、首を縦に振る。すると彼女は、私の腰に手を回し、引き寄せた。あまり変わらない伸長のせいで、彼女の声はより耳元に近づいた。
「殺してほしいひとがいるの」
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