「おはよう」
上靴に履き替えていると、後ろから声がした。彼女は、長く伸びた髪を二つに分けてみつあみにしている姿が印象的で、私が学校で話す唯一の存在なのかもしれない。
「おはよう」
そう返すと、彼女も靴を履き替えて、二人で教室へ向かう。今日、提出しなければならない宿題や、昨日のテレビの話。他愛もない話ではあるが、教室につくまでの時間が一日で一番楽しい時間であることは確かなことである。
「おはようー」
教室につくと、私は扉すぐの自分の席につく。彼女は、ほかの生徒の輪に入りながら席に鞄を置いた。朝礼が始まるまでの10分間は、私にとって、苦痛でありながら、先ほどまでの気分の高揚を抑えるには必要な時間なのである。今日の授業の準備をする。彼女は、学級委員長をこなしながら、友達もたくさんいる。彼女のような性格であったら私も日々を楽しく過ごすことができるのだろうか
午前の授業が終わると、昼休みになる。持ってきた弁当を机に広げ、本を片手に箸を進める。冷たいごはんは苦手だけれど、ごまかしながらのどに流し込んでいく。
一日の授業が終われば、ただ家に帰るだけ。
学年のはじめにクラスが新しくなったことで、交流会が行われたようなのだが、私は参加をしなかった。それから、何に誘われることもなくなった。本屋によって家に帰る。ただそれだけの日常なのだ。
家に帰り、手を洗う際、鏡に語りかけてみる。
「お前は、誰?」
鏡に映るものが自分だと理解はしているが、わからないのだ。明日も明後日も同じ毎日の繰り返しで、楽しいことはなにも起こらない。
本の中だけが私の世界で、本が私の現実になれば良いと何度思ったことだろうか。
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