四大元素
万物の根源って愛だと思うんですよ
「はい。それではちょっと暇人なので、先生が魔法についての講義を行いたいと思います」
すでに教室内では幾人もの人々が、思い思いにテーブルを寄せ合って、思い思いのゲームを、ガヤガヤと騒ぎながら楽しみ始めていた。そんな中、それらにあぶれた数人が教室正面の黒板の前で、手持ち無沙汰にしていたのである。
そして、何人かの暇人が、その日を諦めて解散しようとしていた時、その中のひとりである主催者が、魔法使いを自称しながらおもむろに黒板にチョークを走らせ始めたのである。
南側の窓の外からは雀の声が聞こえ、午前の爽やかな陽気が入り込んでいた。
世の中には不思議な集まりがいくつも有る。
フリー参加型のTRPGコンベンションもその一つである。運営者が準備を整えて告知を打つと、予約を取ることもなく、大切な休日を持て余した参加者たちが集まり、出た所勝負のセッションと呼ばれるゲームが始まるのである。
とりあえず、この駄文ではTRPGがどんなゲームなのか?とか、そもそもセッションって何?というのは全く関係ない。
重要なのは、そんなマイナーなゲームを遊ぶ為に集まった暇人たちの中からあぶれた人々が存在する事である。彼らはいわば、キングオブキングスならぬ、暇人オブ暇人ズと言える。そして、そんな中から一人の自称魔法使いが誕生した事が重要なのである。
「魔法といえば四大元素です。その源であり類型ですね。そこで質問です。この四つの元素の名前を教えてください。はい、そこのヒト」
自称魔法使いの人は、不細工なチビデブのオッサンで、このコンベンションの主催者である。彼が毎月いち二度の頻度で行われるこのイベントの為に駆けずり回っているのである。毎月一度、月初めには会場となる施設の部屋割り抽選会に、平日月曜日の朝なのに出席し、告知のためのビラを輪転機で刷り、出来たビラを地域の本屋やショッピングモールに頼み込んで貼り付け、当日になると参加費用と引き換えに入場券を兼ねて配るのである。
さらに会の当日には、施設の教室に有る机の並べ替えを行ったり、司会を行ったりする。一人何役もこなし、会を運営するのである。そのくせ、会の最中はセッションにあぶれ暇人である。
そんな主催者の悲哀を知っている友人兼参加者の人々は、彼のこの突拍子もない魔法講義に戸惑いながらも付き合っていた。
「地・水・火・風じゃねーの?」
名指しされた程々に不細工なオッサンが答えた。
「残念。それはギリシャ哲学における四元素です。しかし、この哲学の中でプラトンやアリストテレスは、この四元素とは相互転化し分解可能な四つの位相である。と、大雑把に言うと語っているので、まあ的外れでもないです」
「先生。言ってることがわかりません。結局、四大元素って何なんですか?」
聴衆の友人たちは馬鹿が何か言い始めているなぁ。と、思いながらも、もう少し付き合う事にした。
「魔法とは、その効用よりも理論に注目するのならば、世界を書き表すチカラある言語です。いわば現象で表現する数学です」
「先生。さっぱりです。ところで、昼飯はどうしますか?」
「今日は日曜コンベだからコンビニだな。近くの定食屋もランチサービスやってないだろうし。ああ、混雑回避と留守番確保を兼ねて、ちょっと早めに買い出しに行こう」
意味不明だけど、それっぽいなぁ。と思いつつも、今日の昼飯を思案し始めた聴衆たちが居た。ちなみに、会場周辺の食事処がランチサービスをやっているのは平日だけである。ランチは基本、儲からないから店側としては避けたいのだ。
ちなみに、会場の都合によっては飲食禁止のコンベンションも普通にある。食べこぼしや飲みこぼしは、掃除が面倒なのである。
「話を戻そう。この現象の基礎が四大です。それぞれ、強い相互作用、電磁相互作用、弱い相互作用、重力相互作用と、呼ばれています」
眠くなったらボードゲームでも始めよう。と思いつつも、黒板にデタラメを書き連ねながら喋る魔法使いに少し付き合う聴衆たちは、賞賛に値する慈悲深き紳士である。
「この四つの作用は気体、液体、固体といった一連の現象と同じように、根本的には同じ作用です。モノの状態が温度によって3つの様式を取るように、モノの存在を司る作用がスケールによって4つの様式を取るわけです」
聴衆にとってスケールといえば、プラモデルか鱗型の金属片を使った鎧の事である。ますます、眠くなる話だった。
「世界の根源を考える場合においては、すべての物体。すなわち、全ての粒子の最小半径は無限小であると定義されます。なぜなら、世界の最小構成単位は未だ見つかって居らず、無限に区切るならば、無限大か無限小に行き着かざる負えないからです」
「お前さんを粉々にすると肉片になるだろうから、それが最小単位なんじゃね?」
暇な聴衆の一人が、軽く笑いながら物騒な冗談を飛ばすと、自称魔法使いが次のように真面目に切り返します。
「確かに、その通りです。しかし、世の中には目には見えなくとも存在するモノは確かにあります。そして、それらは目に見えない以上は、私の肉片よりも小さなものでしょう。例えば空気であり、例えば光であり、例えば重力です」
高等教育を受けていないだろう異世界の現地人にこの辺をどうやって説明すれば良いのだろうと考えた魔法使いは、説明に少し付け足す。
「ちなみに、空気は風、すなわち触覚で確認でき、光は熱と視覚で、重力は落ちるリンゴで確認することができるわけです」
「この四大において重要な事は、全ての事がこの四つの作用で説明できることであり、さらにこの四つの作用が根本的に考えればすべて同じ作用であるという事です。すなわち、光とは熱であり電波です。重力とは重力波であり、星や世界の配置そのものです。これらは共通の作用なのです。そして、目に見えない強い力も弱い力も同じ根源です」
おっと、ちょっとだけ凄いことをこの魔法使いが言っているかもしれませんよ。星とか根源とか急に厨二病の好みに成りました。などと、やっぱり根本的には魔法使いと同類な聴衆が、少しだけ興味を持った。
「すべての物質は元素周期表で表現可能で、その組み合わせによって物質として姿を変えます。その元素の存在を支えているのが強い力と弱い力です。すなわち、錬金術で追い求められている根源物質とは、まさにこの強い力と弱い力で規定されている素粒子の事なのです」
「素粒子という考え方においては全てが粒子となります。すなわち万物は無限に砕けば、座標と質量と存在になってしまうわけです。質量と存在はイメージできるかもしれませんが、この場合存在と座標の区別がつきにくいと思います。そこで重要になってくるのが、先程の話に出てきた、粒子の半径となります」
無限に小さな物体の無限に小さな半径。ちょっと物知りな聴衆は、『針の上で天使は何人踊れるか』という話を思い出す。この話のミソは天使の大きさをどのように定義するか?である。ここからは、粒子を無限に小さな天使としてイメージすると面白いかもしれない。
「物体は、一つの場所には一つしか存在できません。それは人間が重なって存在できないことでもわかります。そして、全てが同じ法則で書き表されるならば、人が重なれない以上、無限に小さなものも重なれません。そして、重なれない以上、同じ場所に存在しようとすれば、必ず衝突します。2つのものを一つの地点に打ち出す。すなわち存在させようとすれば、衝突します。しかし、無限に小さな半径を持つものがどのようにしたら衝突し得るのでしょうか?ゼロ物質やゼロ時間はなぜ重ならないのか?ゼロタイムジェネレイトが可能なのか?不可能なのかの検証はこの場合棚上げです」
全ての天使は惹かれ合うと同時に反目し合うのである。何人の天使が針の上で踊れるか?を検証するには、天使の大きさを考える必要がある。そして、全知全能にして万能の主には不可能はない。すなわち、無限小の大きさを持つ天使を造ることが可能なのである。では、無限小の天使がハグしあって愛し合う事は可能なのか?つまり、お互いに触れ得るのか?これは、そのまま無限小の存在を触れ得るのか?という話になり、無限小の物体に弾丸を命中させる難易度の話になる。無限小の的に無限小の弾丸は当てれるのか?
無限小の的に無限大の弾丸を当てるのは簡単であろう。それは有限空間に対する飽和攻撃と同じだからだ。有限空間を満たせば必ず命中する。いわゆる必中マップ兵器である。
全ての天使が愛し合い反目しあうように、すべての物体は惹かれ合うと同時に反発し合う。すなわち、リンゴに対する引力と斥力である。これは愛という真理であり、根源的な法則であった。
「そしてその場合、限りなくゼロに近い物質と限りなくゼロに近い時間が重ならずに存在するには、引力と斥力が必要になるわけです。そして、引力と斥力は確認されています。この引力と斥力の性質の違いが4つの位相として存在するので、四大と呼ばれるわけです。そして、すべての物質が四大で記述できる以上、すべてを四大で操る事ができます。つまり、全てを操る魔法とは、極論をするならば引力と斥力を操る方法なのです」
魔法使いは、一息入れて最後の補足と挨拶を述べる。
「ちなみに、以上の考え方から物質の最小単位は、構成を表すフェルミ粒子、作用を表すゲージ粒子と、量を表すヒッグス粒子に別れると推測されています。ご清聴ありがとうございました」
「ノビ太。そんなことよりカタンやろうぜ!」
よし、終わった。と理解した友人の一人が、お約束を叫んでカバンの中からボードゲームを取り出した。
おわり
ATフィールドも魔法かな?って書いてみるテスト
かなりデタラメなんでご容赦を