080(R) 廟造りが始まった
ドワーフの里から20人程の職人がやって来て、入り江の西に延びる岩山を削り出し始めた。
俺達全員が入れる廟になるんだが、思っていたよりも規模が大きく感じる。像の中に作る空間だけでも10m四方はありそうな感じだ。
金貨20枚での契約だけど、どんな姿になるか楽しみだな。
村人も、自分達も入ることができるお墓だと知って喜んでいるみたいだ。
「あれだけ大きく作れば文句はあるまい。王都にだってあのような廟は無いぞ」
「立派過ぎなければ良いんだけどね」
「立派に作って恥じることはあるまい!」
こっちの世界ではそうなのかな? 物には分相応という言葉もあるぐらいだ。この島には少し大きすぎるようにも思えるのだが。
「ところで真鍮製のカートリッジは順調なのか?」
「問題ない。すでに200は作ったぞ。前のカートリッジもまだ使えるが、材料が切れるまでは作り続けるわい」
200個と言っても、50人に分けるとなると4個になってしまう。1人30個が理想だが、そこまで増やすには今年中には終わらないんじゃないかな。
商人達が荷馬車で材料を届けてはくれるんだが、出費が多くなってしまいそうだ。次の産業も早くに軌道に乗せねばなるまい。
硝石が析出するのを待つ間に、ブドウ畑の様子を見に出掛けた。
今年はかなり実入りが良さそうだ去年は2日後だったが、今年は期待できそうだぞ。
「あっ! 領主さまだ」
数人の子供達が俺を見つけてやって来た。ブドウ畑の虫退治は教会の子供達に任せてある。その報酬は、お菓子やちょっとしたオモチャではあるんだが、皆元気に仕事をしてくれるから俺達の方が報酬が足りないんじゃないかと反省することばかりだ。
神官が、十分に対価は頂いておりますと言ってはくれるんだけどね。
「どうだ? だいぶ捕れたのかい?」
「午後から、ロディ兄ちゃんが釣に連れて行ってくれる約束なんだ」
それだけ言うと、また元の仕事に戻って行った。
たくさん釣れると良いんだけどね。
子供と話すのが一番心地いいな。彼等がいつも未来を夢見て生きているからなんだろう。そんな子供の夢を壊すことがないようにするのが俺達大人の仕事なんだろうけど、現実は厳しいものがある。
ブドウ畑から入り江を見ると、ラジアン達が少しでも砦を丈夫にしようと石垣を補強していた。北の玄関はハリウス達ががんばっているみたいだが、どれぐらい変わったか見てみるか。
この前、商船が来てからは浜には行ってないことを思い出して、浜に向かって通りを下って行った。
ブドウ畑の下には小さいけれど村がある。いつの間にか30軒を超えたみたいだ。独身者が住まう長屋もあるから結構にぎやかだ。通りから西に向かって村作りを行い、東側には集会場が1つあるだけなんだが、館の広間よりも大きな建物の中央には炉が切ってある。四方の壁は無く、風を避ける時にはヨシで編んだ衝立を周囲にめぐらす様だ。
夏は結構この中で昼寝をしてる連中がいるんだよな。
「あらら、領主様じゃないですか! お茶でもどうですか?」
「頂こうか。今日は、何かあるのかい?」
誰もいないと思っていた集会場に、数人のおばさんが集まって何やら料理をしているようだ。
「旦那連中が畑仕事をしてますから、共同で食事を作ってるんですよ。皆で食べた方が美味しく頂けますからねぇ」
「確かにそうだな。俺達も広間で仲間達と一緒だ」
俺の言葉が面白いのか、お茶のカップを渡してくれたおばさんが口元を覆って笑っている。
領主様とは呼んでくれてるが、その実態は自分達とさほど変わらない食事をする島のリーダーだと思っているんだろうな。
贅沢な食事を食べきれないほどにテーブルに並べるというのが庶民達の描く領主像らしいからね。だけど、そんな領主なら願い下げだ。
この島の中での貧富の差を無くすべく努力しているところだ。資金は贅沢にあるが、それを積極的に使うのでは先が見えている。
可能な限り自給自足体制を維持して、不足分を外から買い付ける。将来は加工貿易で利益を上げるというのが俺が描く島の未来像だ。
「何か困ってることはありませんか?」
「前の暮らしからすれば、ここは天国さね。遠くの井戸から水を運ばずに済むし、焚き木だってロディさん達が分配してくれるからね」
「畑仕事が一段落したら、今年は家を2軒増やすそうだよ」
婚礼があるってことだな。早めにユーリアに準備させておいた方が良いだろう。食器と寝具一式が領主たる俺達からの贈り物だ。これは継続していきたいものだ。
「ちゃんと準備しときますよ。婚礼が2件ですね。これから作るとなれば式は秋ということでしょう?」
「秋分の日と聞いてるよ。まったく、前の領主様とは大違いだねぇ」
「島の住人が少ないからですよ。多ければそうもいかないでしょう。お茶をご馳走様でした」
おばさん達に手を振って集会場を後にする。集会場の東は東の尾根近くまで開墾が終わったようだ。村の西にも畑が広がっていたのだが、こちらは村を西に広げようとしているためか、当初の畑を半分ほど空き地にしている。その先に広がる畑は西の尾根に到達するのはまだ先になるようだ。
開墾用のクワを振るっているのは、オリガンド達だろう。自分達の畑を作りたいと言ってたからね。あの調子だと切り立った西の岸壁に到達するのは数年先になるんじゃないかな。
通りを下ると次の段々畑に出る。
この場所は、南に30m程の平地だ。東西に畑が伸びている。東は畑で西が羊やヤギの放牧地として使われているが、どちらも開墾中だ。尾根に到達するのはかなり先になるだろう。トマス達が農地の分配をした時に、将来に取っておくと言っていたぐらいだ。今の状態でも、新たな農家が10軒ほど増えたとしても十分分配できるということだろう。その農地が現在の放牧地ということらしい。
さらに下ると、目の前に砦が現れる。この段は南に少し傾斜した土地だ。横幅は30mは無いんじゃないかな。キャミー達がたくさん果実の苗を植えたから、将来の果樹園と言うことになるんだろう。とはいっても、西は放牧地として当初考えていたから、海沿いに背丈の低い果樹が植えられている。
今のところは草原になっているから、子供達の遊び場でもあるんだよな。
砦は通りがそのまま浜に向かっている場所に設けてあるから砦の門が入り江側からの玄関ともいえる。
入り江側から見れば立派な砦だが、裏側から見ると映画のセットのような感じだな。石垣の上に作られた通路は左右の塀者の屋根そのものだ。元々、ここには高さ2m程の段々畑の外れになるから、この道を真直ぐに歩くと、直ぐに上り坂になって砦の2階のテラスに向かうことになる。
砦の門を突破しても10mも進まずに大きく西に曲がることになってしまう。門の横幅は3mもあるのだが、西に曲がった先の通路は2mにも満たない。小型の荷馬車が進めるだけに制限してあるのだ。
西の段々畑に上ったところで、この通りに折り返すような設計だから、攻め手も苦労するだろう。
ラジアン達は少しでも石垣を高くしようと、東の石壁を補強しているようだ。そんなところに向かうと手伝わされそうだから、真直ぐに砦のテラスに向かった。
地上より3m程高いだけなのだが、入り江が良く見える。テラスの擁壁には銃眼が作られているし、いざとなればテラスを封鎖できるように扉用の板まで用意されていた。
まぁ、これなら大部隊を足止めできるんじゃないかな。
小型の大砲をここから放つなら、入り江内には敵船が停泊することは不可能ともいえる。
「珍しいですね。リオン殿がやってくるとは」
「ラクダン殿でしたか。たまには様子を見たいですよ。だいぶ頑丈にできてきてますね」
「まだまだですよ。左右からの敵に対処する術が今のところありません。何とか今年中に、簡単な塀を作ろうと相談しているところです」
当初から懸念していたことだ。そのために、クロンギスをたくさん植えたぐらいだ。
そのクロンギスも2年目を迎えたところで親指以上の太さに育ってくれた。長剣で切り取るとしてもその始末に困るだろうな。
「この上の畑の端にも、柵を作らせましょう。この砦に上陸した敵兵を誘導することを考えます」
「そうなると、バドス殿が作った機関銃をもう1台欲しいところです。左右に設置すれば一斉突撃を阻止することも可能に考えますが」
「確か、北の玄関ではあまり使えなかったと言ってたな。バドスに話してみるよ」
一度に10発なら有効に使えるかもしれない。それが3度発射されるんだからね。2個分隊ほどの火力支援に匹敵するんじゃないかな?
トマス達も柵があるなら心強いだろう。待てよ。柵だけでなく、盾を並べて簡単な防衛陣を作るようにしても良さそうだ。
何といっても農民兵だからね。安心してボルトを放てる環境を作ればそれなりに戦ってくれるんじゃないかな。
西に視線を移すと、塩焼き小屋から煙が上がっていた。
すでに塩作りを始めたみたいだな。ブルゴス軍がたっぷりとイカダを置いて行ってくれたから、その残材で焚き木に不自由しないのだろう。
バドスも当分、鉄を買うことはしないで済むと言ってたぐらいだ。とは言っても、銃とボルトのヤジリを作って貰わねばならない。今夜にでも聞いてみるか。クロスボウだけでも30丁近くあるのだ。ボルトケースに15本を入れたとしても、次の戦ではその3倍近くは必要だろう。
この砦を守る連中は長剣を使うのだが、砦の防衛なら槍の方が有利になる。槍も数を揃えないといけないだろうな。




